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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
僕の居場所
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第五話 人間研究家

 音が聞こえる。水車の音だろうか、定期的に木が軋む音とそれに伴い水が流れる音。良い匂いもする。婆ちゃん家みたいな、自然と安心感のある匂い。天国って意外と古民家みたいな場所なのかな。母さん達も此処へ来たのかな。お兄ちゃん大丈夫かな。そんな事を思いながら遂に目を開けようとすると、自分のすぐ側に誰かがいる気配がする。

「……。」

「起きないなぁ…ごめんね、人間の息の長さを知らなかったんだよ。ごめんね。でも生きてはいるはず何だけど…。」

と急に胸に手が当てられる。服越しでも、その手は氷の様に冷たく、その衝撃に声を上げ身体を起こしてしまった。

「ッギャア!」「ヒィッ!」

僕の驚く声に相手も驚き、二人とも跳ね除けたおかげで間に距離が空いた。

「あの…!何してるんすか!?」

「へっ!?いや違いますよ、僕はただ生存確認を…って本当に違います!そんな怯えないで下さいよ!?」

「え?僕、生きてる…?」

「?、生きてますよ。」

僕は自分の身体を手で触って確認する。抓ったり叩いたり撫でて見たりして感覚を確かめる。そこで改めて、自分が生きている事を実感した。この人は僕を殺そうとしたんじゃなかったの?

「あのですね…起きているなら言って下さい。心配してたんですよ?」

「でもあの、僕はこの世界に居たら駄目なんじゃ…?」

「やっぱりですか。貴方は人間なのですね?あの人間なのですね?僕、半ば信じられなかったんです。此方とは違う向こうの世界に、僕らには見えない人間という生き物が居ると。少々乱暴になりましたが、そうしてまでも確かめて見たくて…!」

僕は混乱する。そりゃあ僕だって神なんぞ信じていなかったし、ましてや神の使いなんぞペテン師の代名詞だと思ってた。まぁ実際向こうの世界には居ないという事がわかった為、僕の解釈もあながち間違っては無いんだろうが。

「名前を伺っても宜しいですか。」

「草薙照葉です。」

「照葉君ですか、僕はカンです。確認何ですけど、この世界の事をあの方達に何処まで聞きましたか?」

「この世界には八人の神の使いがいるという事、それと力の事、力の掟の事…ごく一部ですが。」

「成る程。貴方はやはり人間ですね。素直で純粋だ。」

「どういう事ですか?」

「僕を信用してくれているのは有り難いのですが、場合によってはそう直ぐに答えてしまうといけない事もあります。特にこの世界では、数少ない中での権力争いも起こり得ます。今が平和なだけで、いざとなれば下っ端の僕でも争いを始める事だって出来ます。それくらい危険なのですよ?」

カンさんはそう言って立ち上がる。そう言えば、さっきから地響きがするのは気のせいだろうか。

「探られないように住所を変えたと言え、もう直ぐそろそろですね。」

戸を開けてカンさんが外を見渡せば、その地響きは一段と大きくなり、家の前で止まった。そこで初めて分かったが、カンさんの家は二階建だった。「地で繋がっている限り逃げられませんか。」とボソッと言う声がしたと思えば、

「オラァ!出てこいカン!!」

「君さ、どう言うつもりだか知らないけど返してよネ僕の弟。」

「はぁ?いつから弟にしたんだよ。とにかく返せ。」

カンさんが階段を降りて行く。僕も降りて仕舞えば良いんだけど、少し面白そうだったから二階から覗いてみる事にした。

「どうして死んだ可能性を省かなかったんですか?」

「お前はんな事出来るような奴じゃねぇ。」

「まぁそんな奴だったらとっくに僕ら殺されてるよネ?」

「…」

何故だろう。数時間しか離れていないのに、コンさんらの声が懐かしく聞こえた。

「中に居ますので、連れて帰ってもらって結構です。唯、あまり僕の仕事を増やさないで下さいよ?」

「「……」」

「え、どうして黙るんですか。」

「そう言えばサ、僕ら考えたんだよネェ。」

「そうそう、カンってさ、人間に興味あるんだよね。」

「そうですけどそれが何か。」

「俺らはあいつが向こうに戻れるまで守ってやりたいと思っている。」

「それがどうしたんですか。」

「つまりサ、一緒に住まなイ?」

「…は?」

只今沈黙が続いております。イエスしか求めてないという圧を含んだ笑顔の二人と、もしそうなった場合の今後の未来を想像し顔を引き攣らせる一人。果たして彼の回答や如何に。現場からは以上です。

「お願いだヨォ。だって僕らちっさい小屋だヨ?無理無理絶対守れなイ。」

「カン一人でこんなでかい家寂しいだろ?俺らが見違える程賑やかにしてやるよ。大体知っちゃった時点で監視役は必要だろ?」

「だからサァ、お願イ?」

「お願いしやす。」

「あのですね…っ!?」

何をされたのか、カンさんの声が途切れる。

「権力、僕の方が上な筈だよネ。良いんだよ、君がその気なら。」

「俺は下だけどな。おかしくね、兄弟なのに…えっホントだおかしくね!?」

「……、分かりました。良いでしょう。」

「どうもありがとウ。」

おいおい、下克上は簡単なんじゃ無かったのか。コンさんの権力がどれほど上なのかは知らないけど、彼の手法はまるで僕らの世界のアニメなどでよく見るマフィアの様だった。

「ということだシ、君の荷物持ってきたヨ照葉君?」

「あ、有難うございます。」

見てたのばれてたんだ。細目の人は常に何処を見ているのか分からない。つい油断してしまっていたようだ。僕は一階におり、荷物を受け取る。その時カンさんはというと、まだ玄関先で外を見ながら突っ立っていた。

 夕食の頃になると、皆が一回の食卓に集まる。僕の為に無理して集まってくれているのなら申し訳無いと思い、一応礼を言ったが、どうやらそうでは無いらしい。カンさんは人間の存在についてもそうだが、人間の文化についても研究しているらしく、常に人間の生活を意識しているらしい。その為朝昼晩に用意される三食もしっかり栄養バランスが考えられており、睡眠もきっちり十時から数えて八時間程取る。正直言ってそんな規則正しい生活をしているのは極少数派だよと伝えてみれば、カンさんは表情筋を硬くして「そんなバカな」と呟いていた。それにコンさんが煽りを入れ、怒ったカンさんがコンさんのご飯に水をぶっかけ暴れたのはまた別の話。

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