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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
彼等の居場所
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第四十三話 君の正しさ

「この野郎ォ‼︎」

「…‼︎」

ゴンさんの勢いは止まらず、ケンさんに向かって一直進に走っていくと、その勢いに乗ったのであろうゴンさんの力がケンさんを襲う。不意を突かれたケンさんがゴンさんを跳ね返すのも無理も無い、その攻撃はゴンさんを掠るだけで終わってしまった。ゴンさんの攻撃を避けながらも、合間合間に「待て」だの「ゴン」だのケンさんの叫び声が割り込む。初めは懸命に行なっていた抵抗も次第に少なくなってきて、今となってはゴンさんのされるがままになっている。

「ゴンさん‼︎」

幾ら信頼を失おうとも流石にやり過ぎだと判断したカンさんは、「こんな筈じゃ無いのに、」と慌ててゴンさんを止めに掛かる。カンさんの言う“こんな筈”とは、本来であれば三対一で押し掛ける予定だった。三人もいないと勝てない程、ケンさんの力は強力で、かつ厄介なのであるという。それなのに、今となっては一対一でも圧勝という結果に。更に僕を混乱に陥れたのは、またもやケンさんの冷静さだ。ケンさんは、力関係なく殴りかかるゴンさんに対し、しっかり相手の攻撃を受け止めながらも、絶対と言って良い程後ろに下がろうとはしなかった。正確には、ゴンさんに胸ぐらを捕まれ地面に押し付けられそうになっているにも関わらず、ケンさんは身を守るに必須でろう刃物を掴む手を地面に着いてまで、身体の傾きを一定の角度から下がらないのだ。

「照葉君、ぼーっとしてないで手伝って下さい!」

カンさんの掛け声に気を取り直した僕は、急いでゴンさんの元へ行くと、力を使って二人の間に距離を置く様専念する。

「何すんだ照葉‼︎コイツは人殺しなんだよ‼︎俺らを裏切った、神なんだぞ‼︎」

「待って、落ち着いて下さい‼︎」

「落ち着いてられるかっ!」

何としてもケンさんに近付こうとするゴンさんに対抗し、僕も幾らかの傷を負ってしまった。距離を置かれ一旦解放状態となったケンさんは、本気のゴンさんの攻撃をもろに受けた為か、所々から血を流して動かないでいる。

「ゴンさん落ち着いて、ケンさんが死んじゃうよ‼︎」

僕も必死になって講義するも、矢張り本人は聞く耳を持たなかった。

「コイツはこうゆう運命なんだ。殺人鬼がいれば殺すのみ、そうだろう照葉!」

「違う‼︎‼︎」

息切れながらも、全身の力を込めて僕は怒鳴った。その甲斐があったのか、急に叫んだ僕に驚いたゴンさんの動きがピタリと止まった。

「ゴンさん、僕が間違っていたよ。これは、本当に、こんな筈じゃ無いんだ。」

「っ、はぁ?」

「ケンさん、なんで抵抗しないのか、考えた?」

「…、?」

「ケンさん、」

その続きを言おうとした時だった。


ドゴォォォォォン‼︎‼︎‼︎


最初は小さなゴロゴロという音しか聞こえなかったものの、直ぐ後にはかなりの爆発音のようなものが僕らの耳を貫いた。おまけに、閃光弾を投げられたかの様な眩い光を後ろから感じた僕は、その光が治ると同時に後ろを振り向く。

「ケンさん‼︎」

ケンさんは黒く、焼死体の様になっていた。

 この現状に、僕らは硬直状態である、側にはいつの間にかシンさんがたっており、あぁこの人がケンさんに雷を撃ったんだなという所まで理解していても、僕らの脳はもう何も捉えまいと全ての思考を停止してる。

「ケンさん、?」

カンさんの呼ぶ声も、唯虚しく空に響くだけ。もしくは近くの川の音に吸収され、響いてもいなかった。

「シン、お前…。」

「…こうするべきだったんだろう?」

シンさんは涙ながらの目で僕らに訴えた。自分がした事は、間違ってはしないんだろう?と、僕らに訴えた。


「あぁ、君が正しいんだ。」


突然の声に僕らは驚く。

「君あたった今、この世界に潜む悪を断ち切った。見事であったよ。」

そう言う彼は、ニコリと口角をあげて、僕らに拍手を送る。

「誰だ、お前。」

ゴンさんが突如現れたその人物に食って掛かると、その相手はまるでゴンさんの攻撃見据えていたかのように軽々と避けてしまう。

「僕は神だよ、君達のご主人さ。」

その骨格、その顔、僕は今でも覚えている。彼は、僕に急に手を繋ぎ強制的に時空移動を共にさせられたあの人だ。彼は、そのままスタスタと黒焦げになったケンさんの元まで歩み寄る。そして顔を近付けると、

「君ってやっぱり面白いね。仲間重視で物事を考えるあの君が、仲間に殺される。アハハ、なんて可笑しいんだろうねぇ。最後まで楽しませて貰ったよ。」

と囁いた。一体何が起こっているのか分からない一向。そんな中、事態は更に急変する。

 突然ケンさんが彼の後ろに現れたのだ。勿論黒焦げになったケンさんはちゃんと存在したまま。ケンさんは、危ないからとカンさんが蹴り飛ばした刃物を手にし、思いっきり得体も知れない彼に振りかぶった。

「‥⁉︎」

突如として背を刺された彼は、その主を突き止めるべく首を回そうとするも叶わない。グイグイ押し込んでいくその刃物は、彼を前へ前へと圧を掛けて少しの自由も許さなかった。

「誰が主人だって?人情も知れない、論理も分からない奴の、誰が神だって?」

「な、お前、‼︎」

「お前みたいな奴が神の座を奪おうなんて、後何年早いんだろうなぁ?」

「…⁉︎」

「皆よく聞け、コイツは神でも何でも無い。コイツは何年か前に、突然行方をくらませたコンだ。」

「言わせておけ!コイツこそ、お前達を殺そうとした、殺人鬼だ、」

「何と言おうと、俺はお前とは違うんだよ。力量も、容量も。」

「ふざけるな、!!」

そう叫んだかと思えば、突然、僕らも含めて彼の周りにあったもの全てが強烈な圧を受けて吹き飛んだ。その痛みに声も出ず、口の中に血の味が広がる。それは口が切れての事なのか、それとも内臓の破損からくる吐血なのかは分からない。ただ、少し動いただけでこの威力を放つ彼を前に、自分の命に危険が迫っている事だけは見て取れた。僕以外の吹き飛ばされた人達は皆気を失い身体に力が入っていない。名前を呼んで起こそうとしたいけど、そんな僕も身体に力が入らなかった。このまま目を閉じたらきっと戻っては来れないだろうという気さえしてくる。僕は何とか意識を保とうと、彼らの会話に耳を澄ませた。

「お前は何かを忘れている。神の座を奪うなんて何年も早いだって?否、お前はもう奪われているんだよ!とっくの昔に、この僕に‼︎全てはお前の良心、そして衰えた頭脳が招いたことだ!僕の軽い罠に掛かったあの時から、お前の敗北は決まっていたさ。」

「違う、な、」

「何が違う。」

「あれは、お前が殺ったんだろう?、知っていたさそんな事。俺が、神の座を退いた時、直ぐにお前が、その座に就いたのも知っている。あの時は馬鹿みたいに、悲しんでいたが、俺がお前という()()の内情を、知らない訳がない。俺を、半永久的に生きるよう定めたのも、どうせお前はまだ、俺が凡庸だと思っているから何だろう?」

「…、だからって何になるんだ。言葉の通りお前は凡庸だろ?お前に使えていた時に僕はずっと感じてたんだ。お前の世はつまらなさ過ぎる。こんな力を持ってして皆が平和ボケしているんだ。もっと争いを起こせば良い。何が人助けだ、あんな戦争にしか脳がない人間界の様子を知りもしないで、災害の被害を無くそうだって?逆らったら殺す一択の人間なんて、いっそ死んじゃえば良いんだ。だから死ぬ前位はお前に社会勉強の機会を与えてやろうと、此処に来る前の記憶を持った"乾"を送ってやったのに、お前はそれにも心を動かされて自害を躊躇った。しかも"乾"は戦争時の人間の心を持っている癖に自分の犠牲を払ってまでお前を庇うし様な阿呆だし。もう訳分かんない。」

彼はついさっきケンさんに刺された場所を擦りながらツラツラと言葉を並べる。これも神の力なのか、さっきまで血を流していたその部分は、まるで傷が塞がったかの様に見える。

「訳分からないのは、お前の方だ。唯でさえ人間が戦争で死ぬのなら、自然被害位は小さく済まそうとするのが、常人の考えだ。お前みたいに見放したりはしないで、先を見てやるのが、俺の仕事なんだ。」

「先なんて来なきゃ分からないだろう。」

「いや分かるさ。」

「何故?」

「それが、神だからだよ。」

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