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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
彼等の居場所
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第四十一話 彼の思惑

 朝が来た。身体を起こすとソファにはまだカンさんが寝ており、窓からの光を直で浴びていた。眩しく無いのかな。意外と眩しく無かったりして。

 僕は部屋を出て廊下を降りた。食卓に入ると、其処にはシンさんが唯一人ポツンと座っている。しかも気まずい事に、一人で鼻歌を歌い盛り上がってた所だったそうで、僕がギリギリ席に着くまで相手は歌い続けた。その相手は僕の存在に気付くと、急に鼻歌をやめて顔を赤らめてしまう。

「なんか、すいません。」

「あぁいや、此方こそすまん、つい。」

「大丈夫ですよ。歌が好きなんですか?」

「あぁ。上手くは無いけどな。」

「上手いじゃないですか。まさか人間の時は歌手だったりして。」

「それだと良いな、有難う。今更だけど、照葉って呼んで良いか?」

「お構いなく呼んで下さい。」

本当に今更だな。まぁシンさんから名前を呼ばれた事なんて今までで数少ない気がするけど、流石に今相手が許可を求めてくる何て思ってもいなかった。

「じゃあ、照葉、」

「何ですか?」

「…いや、読んでみただけ。」

「…。」

待て待て待て待て。この人の距離感どうなってんのかな。ツッコムにもタイミングを逃してしまったし、僕はどすれば良いのか分からない。まるで恋愛ゲームの攻略をしているみたいに、この人に対する一つの選択を間違えた気がする。

「あ、珍しいメンツや。」

「リーさん‼︎」

「うぉっ、何や急に。」

あまりの安心感に立ち上がって名前を叫んでしまった。

「シン、照葉に何したんや⁉︎」

「何も、強いて言えば名前を呼んだ。」

「それだけな訳無いやろ。」

「いや、それだけだ。」

「どうなんや?照葉。」

「名前を呼ばれただけなんですけど、唯、距離感が掴めなくて…。」

「…え?」

あぁと傾れる僕をリーさんが支え、一旦三人で話そうかと事態を収めてくれる。

「ーなんやそんな事かいな。確かにシンの人見知りは厄介やな。でも初めて名前を呼ぶんやったらせめて好きなものでも聞かんかいな。」

「そうなのか?」

「あったり前やろ!あんた今まで何と会話してきたんや。名前呼んで、実は読んでみただけですっていうボケが通じんのは原則知り合って二週間は我慢して?じゃないと相手が困るから、な?」

「あぁ、分かった。」

「せやけど、二人の仲がそんなに具合が悪いとは思ってなかったわ。どや、うちいといたるからちょっと三人で出掛けへんか?」

「え?」

「折角同じ家に住んでるんやし、話した方がええやん。喧嘩してる訳でもないんやろ?」

「はい…。」

僕はシンさんの表情を伺った。シンさんは上を見上げ何かを考えていた様だけど、急にパッと顔を会わすと「良いですね。」と一言。良いんですか?なんか嫌な予感しかないけど。

「じゃあ早速行こっか、うちちょっと片付けてくるから何処行くか二人で決めとき。」

「え、」

「え、やないわ。これから仲良くなり言うたのにそんなんも決められんでどうすんや。」

確かにそうだ。そうだけども、まだ早いよ。

「…何処が好きなんですか?」

咄嗟に考えたせいで、お見合いでもしてるかの様な質問が出てきた。

「好きな所?…高い山かな。登山がしたい。」

「あ、良いじゃないですか。僕のおじいちゃんも登山が好きなんですよ。それで良く…。」

しまった。日焼けをしていて体格の良いシンさんの事だから海でサーフィンとか言うのかなと思ってドキドキしていた割に、意外と身近な解答が返って来たもんだから、そのギャップについ油断してしまった。

「それで良く、?」

「あ、おじいちゃんに連れて行って貰ってたんです。」

「へぇ。」

あれ、それだけ?聞いといてそれだけなの?ちょっと漂うこの人苦手だわ感。それが人見知りの所為なのだとしたら、人見知りというのはとんでもなく厄介な体質なんだろう。

「決まったか?」

リーさんが上着を着て戻ってくる。

「登山に決まった。」

「そうか。照葉もそれで良いのか?」

「はい。」

「オッケー。」

じゃあ早速と近くの山を見つけ、僕らは登り始めた。

「何話そ。そや、シンは一人でいた時は何してたんや?」

「俺は海釣りをしてたんだ。」

あ、してたんだ。サーフィンじゃなくて釣りだったけど、海の要素はあってたんだね。

「でその行き帰りの登山。どちらかというと海釣りはそんなに好きじゃなくてな。山を降りて登るのが好きなんだ。ただ降りるだけじゃ勿体無いからっていう理由で海釣りは始めたんだ。」

「シンさんの家って山頂にあるんですね。」

「そうそう。うっかり力を使って仕舞ったら大変だからな。」

「そういえばシンさんの力、僕見たこと無いかもしれません。」

「そうやったんか?じゃあ握手してやりぃやシン。」

「何故。」

と言いつつ無言で差し伸べられた手を反射的に握ってしまう。

「…ギャァ⁉︎」

「アッハハハハハ!」

リーさんの大笑いが聞こえないくらい、痛みが全身を駆け巡る。

「な、何したんですか⁉︎」

「電気を生み出す事が、俺の能力なんだ。今のは、静電気の中間値の衝撃。これを空に向けると、雷になる。」

シンさんが少し身体を傾けた所為で、後ろでずっとリーさんがお腹を抱えて笑っているのが見える。

「中間値でこれですか、手が千切れるかと思いましたよ⁉︎」

「ハハ、すまんな。」

またチラリと見えたリーさんは、まだ笑っていた。

「…後ろの人、大丈夫ですか?」

「後ろ?…あぁ、リーなら大丈夫だろ。」

「でもあれ笑い過ぎて息が出来てないような気がしますよ?」

「…。」

「シンさん?」

僕がリーさんを焦点に合わせていた頃、いつの間にかシンさんの焦点も動いていた。それも、僕とはまた別の方角に。

「…今あそこに誰かいなかったか?」

「え、?」

「あの、竹藪。」

シンさんが指を指す所を見るも、其処に誰かがいたような気配を感じない。

「動物とかじゃ無いですか?人の気配は感じませんよ。」

「そうか?なら良いが。」

とは言ってもやはり怪しげに竹藪の中を見ている。そんなに見るもんだから、僕も多少気になってしまった。

「…で、リーだったっけ?」

「はい。」

やっと諦めがつき二人して振り返った時。僕らはリーさんがいない事を知る。そういえば笑い声もいつの間にか消えている事にも気付く。一体いつからだ?シンさんが言う人影に気を取られていた為、全く周りの状況を把握せずにいてしまった。

「リーさん?」「リー?」

「…あれ?」

僕が懸命に周囲を見渡すもリーさんは見つからず、シンさんも周囲を確認する処か地面に手を当てたり空を見たりで本当に探しているのかすら分からない。

「何処見てるんですか?」

「いや…照葉、また時間を進めたな?」

「へ?」

時間?と思ってシンさんと同じ様に身体を、視線を動かす。

「ほら、此処に白い花があるだろ?これは"ヒイラギモクセイ"と言って、秋にしか咲かない花だ。」

「…でも僕…え、嘘。」

「意図的ではないんだな?」

「はい、」

「なら良い。」

え、良い訳ないですよ。これ以上時間を進めてしまったら、僕らは殺されるんですよ?リーさんもいないし…!

「そうだ、リーさん!家に帰りましょう!!」

「家?何で?」

もしかしたらリーさんが危ないかもしれない。

「兎も角、シンさんはケンさんを見付けて下さい。」

「ケンさん?何でだ、リーと何の関係がある?」

「説明は後でしますから!!」

僕はシンさんを置いて家へと駆け出す。何で毎回休ませてくれないんだ。まだおぼつかない自分の実力にはもう懲り懲りだ。未だに無意識に操れないなんて。その情けなさを怒りに、更にエネルギーに変え、僕は地形変動もお構い無く駆け巡った。これもケンさんの思惑なのなら、僕は心底ケンさんを恨むだろう。

 そうして僕は家に着くと、直ぐ様ドアを開ける。其所にいたのは、ケンさんだった。

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