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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
空の居場所
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第十八話 彼らの戦争 Ⅰ

 一難去ってまた一難。その一難のスケールが大きくも小さくも差はあれども、一難は一難だ。では何が一難かというと、なんとこの家に住み着く住民がしれっと一人増えている。それも朝起きてみると気付けばベットの隅ギリギリで、そいつは堂々とベットの中央で寝ているのだ。

 僕が跳ね起きた衝動で皆も目を覚ますも、同じ反応が繰り返される。一つの衝撃がかける三倍となって吸収しきれなくなったベットの振動が、当の本人を起こす行為を代行してくれた。

「ん、何や?おはようさん。」

「お、おはようございます?」

「こら、そんなに丁寧に挨拶しなくて良いですよ。不法侵入者じゃないですか。」

「こら、誰が不法侵入者や。ちゃんと玄関から入ったわ。」

「でも玄関には鍵が…」

と玄関を見ると、なんと昨日まであったドアが無い。

「あぁすまん。中々開かへんかったから焼いてもうたわ。」

「君は朝から何て事をしてくれるんだイ。」

「だって開かないドアはドアじゃないやろ?」

決してそんな事は無いです。一度でも良いからこの人を僕らの世界に招き入れてみたい。そしてドアというものを、家というものをちゃんと一から学んで欲しい。鍵一つで防犯効果が抜群と言われているのに、それが此の世界で通じないというのは、分かってはいたけど何処か悔しい。僕は鍵職人なんかじゃないけど、それでも何処か悔しさを感じた。

「リーさん、自分の家はどうしたんですか。」

カンさんがドアがある筈だった焼跡を見ながらそう聞く。

「焼き払ったで。」

「何故です!?」

「なんか、焼き払いたくなったんや。」

「きっと失恋の所為だネェ?」

「…この家も改築してやってもええんやで?」

貴女の言う改築は破壊ですよ、とカンさんが然り気無く突っ込むのを他所に、ゴンさんが寝起きで頭が回っていないのか、たった一人賛成の意を示していた。

「兎も角、帰って下さい。」

「あれ、家も無い女に帰れというのか?」

「アッハハハ、フられて悲しんでいる女に、の間違いじゃないかネェ。」

「…殺してやる。」

そう言って本当に火の粉を飛ばすもんだから、カンさんが必死に止めにはいった。それもリーさんを、ではなく、まだまだ煽り続けるコンさんを。

「分かりました、分かりましたから家だけは壊さないで下さい。」

「よし、じゃあ此処がうちの部屋ー。」

勝手に自室を作るリーさん。一体この人にマナーというものは備わってないのか。数少ない部屋の中でこの人数分を一人ずつ分けていくなんて至難の技だ。それなのにスルッと部屋に入っていったかと思えばきっとくつろいでいるだろう姿が目に浮かぶ。

「そこ、僕の部屋なんですが。」

当然起こりうる争い。でも確かによく考えてみると、女性と男性が同じ部屋なんてあまり良くない事ではある。

「…仕方ないですね、僕は居間で過ごします。」

「だめだよ、居間は皆の場所ダ。どうせあれでショ?テレビとか乗っ取るつもりなんでショ。」

「違います。部屋がもう無いんですよ?照葉君はお客ですし、一人の方が良いでしょう。リーさんも、仕方ないですし。貴方達も二人で一つの部屋を使って貰っているのでこれ以上無理はしない方が良いでしょう?そもそも僕が嫌です。」

「何デ?」

「何でって、そりゃあ君達の世話を焼くのに身体を壊したくはありませんよ。」

「そんなにストレスなのか?」

「そんなにって言う程では無いですけど…。」

「僕と一緒の部屋にします?」

「いえ、そんな迷惑な真似は出来ません。」

「じゃあ良いでショ?僕ら三人の部屋にしようヨ。」

「決まりだ決まり。早く荷物を持って来い。」

「え、ちょっと!?居間じゃだめなんですか?」

とまだ言い終わっていないのに、そそくさと元カンさんの部屋に押し流されていく。ドアを覗いて気付いたが、もう既にカンさんの荷物はリーさんの手によって片付けられていた。

「ほい、持ってって。そしてもう二度と入ってこんといて。」

そう言ってパタンと閉められたドアは、もう二度と触れてはいけない禁断の部屋と化した。

「入ってこないでって、僕の部屋なんですけど。」

僕は一連の流れを眺めている事しか出来なかったけど、できれば何か励みになれたらという思いでお茶を入れた。

「ありがとうございます。すいませんね、騒がしくして。」

「カンさんの所為じゃ無いじゃないですか。僕の事は気にしないで下さい、賑やかで楽しいです。」

最後の一言は余計だったかな。そうですか、良かったですとカンさんがボソッと言うと、立ち上がって居間に降りていった。

 なんか申し訳なくなって自分の部屋に入ったものの、やっぱり何かもう一声掛けてあげられないだろうかとドアを開ける。すると丁度同時にドアを開けたであろうリーさんとの衝突により、尻餅をつく。リーさんは体勢を変え僕だけに聞こえるように言った。

「ねぇ、あんたが本当に誰かの引き継ぎじゃないんやとしたら、ちょっと付き合ってもらえるか?」

「な、何をです?」


 そして連れて行かされたのは初めてケンさんと会った場所。そう、僕がリーさんから逃げてたどり着いたあの崖の下だ。

「何でこんな所に…。」

「人の勝手だろ。」

明らかにケンさんに会いに行こうとしている。ストーカーか何かかな、でもそれを聞いた瞬間殺されるだろうな。でも魂胆が見え見え過ぎて逆に突っ込みを待っているかの様にも思えるしな。

「ケンさん、いないですね。」

「誰がケンさんなんて探してると言ったんや、馬鹿。」

「でもケンさんと初めて会った場所に連れてけなんて、他に理由あります?しかも僕が引き継ぎどうこうとは関係無いじゃないですか。」

「それは別としてやな。ケン、うちの事について何か言うとったか?」

「えーと、苦手だって言ってました。」

「なんやそれ、それだけかいな。」

がっかりした様子で近くの木にもたれ掛かる。ケンさんが来るまで待っているつもりなんだろうか。

「はい。…リーさん、聞きたいことがあるんですけど良いですか?」

「うちにか?なんや急に。」

「別に答えたくなかったら答えなくても大丈夫です。唯、知りたいだけなんで。」

ええから言うてみとリーさんが言う。

「その…僕らが想像する戦争というのは、銃で撃ち合って殺し合ったり、命の駆け引きを行う国同士の争いなんです。でも、此の世界は国というような大きな団体意識は無いじゃないですか。力も一人一人平等な気がしますし、権力に差があるとは言っても皆さんしっかり言葉を交わせています。僕は此処に来て、此の世界を見て、凄く平和な世界だなとばかり思っているんです。けど、主にカンさんの話を聞く限り、戦争で八卦の内の殆どが消えたと言っていました。そんなに残酷な事が此処で起きたなんて信じられないんです。一体、何があったんですか?」

僕は息継ぎも忘れて一気に話した。それは知的好奇心による興奮からではなく、どちらかと言うと恐怖からである。もし今聞かなければ、一瞬でも自分に隙を与えてしまえば、ためらいの方が優先され、一生真実を知れないんじゃないかという恐怖だ。思いきって聞いてしまえば何でも上手くいくとは思ってはいないけど、優柔不断な自分にだけはなりたくない。それは兄からの教えの一つであった。

「…、あんたは賢い。だからかいろんな事を聞きいろんな事を想像する。せやけど此処は単純な世界や。国とか銃とか、そんなんやない。此処でいう戦争は、神対うちらや。」

確かに、単純だ。でも、単純だからこそスケールが大きい。神の使者がどんな仕事をしているのかについては以前コンさんらから教えて貰っている。しかし、それはあくまで規則の説明だった。

「別に体験談をすることに抵抗はない。唯、うちらは"体験談"しか話せん。長くなるけど、聞いてくか?」

「…聞かせてください。」

 そうして僕は知ることになる、此の世界の戦争を。

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