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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
小鳥の居場所
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第十六話 会議の行方

 いよいよ会議の日。月に一度なのだからもう少し時間はあると思っていたんだけど、今回は緊急会議ということで早くに開かれる事になったのだ。

「本当に僕がでても大丈夫なんでしょうか。」

「正直どうなるかは分からないけれド、何かあっても冷静を保っていて欲しイ。大丈夫、僕らがいるからサ。」

「いざとなったら、俺らだけで逃げようぜ。」

「僕もついていきます。」

「皆さん…本当にありがとうございます。」

「良いの良いノ、気にしなくてモ。」

 いよいよ部屋へ入っていく。

「お、来たか…」

そこは真っ赤な絨毯に真っ白な壁紙、柱の金が目立つ首脳会談をする時のような派手な部屋で、いかにも偉い人達の会議の場にふさわしい場所だった。でも、何より驚いたのは、会議の為に椅子が八個プラス僕の分が円形に並んでいるのだが、その中央の椅子にあのイヌイさんが座っていることだ。

「やぁ、少年。」

「イヌイさん!?なんでいるんですか、」

すると前に一方的に会ったことがあるリーさんが立ち上がる。

「イヌイ?誰やそれ。この人は"乾"さんや。失礼な奴やな。」

「え!!この人が、ケンさん!?」

そう僕よりも先に、反射的に驚きの声を上げたのは、ゴンさんだ。しかしその声はあっさりと流される。

「そう呼べと言ったのは俺だ。まぁまぁ少年、よく来てくれた。緊張すると思うが、どうか肩の力を抜いてくれ。」

イヌイさんの名前は嘘?本当はケンさんと言うの?って事は…今まで馴れ馴れしく話していた相手というのは八卦のトップ、ボスの様な人だったのか!?肩の力を抜けと言われても逆効果だ。全く抜ける気がしない。ましてやこれからイヌイさん、じゃなくてケンさんとどう接すれば良いのだろうか。そもそもさん付けで良いんだろうか。様をつけたほうが良いんじゃないか。そんな事を考えていると、此方ですよとカンさんに手招きされる。自分の席に座って周りを見ると、一部を除いた皆の様子が、何時も盗聴している時とは全然違う事に気が付く。特に、これまで仕切り役を務めていたであろう人の声が、一切聞こえない。外見からしてあの人だろうとの予想はつくも、まだ確定したわけじゃないから決めつけはしないけども。やっぱりトップの威厳というのはとんでもない影響力なのかな。

「にしても、やっぱりあんた達が人間の子を隠し持ってたんですなぁ?にしても、どないしてそんな害虫が入ってきたんやら。」

「ソン、私語は慎め。此方には此方の事情があるかもしらんだろう。」

「……。」

「そういや、あんたはなんで今まで休んどったんや。久しぶりに顔出したなぁ思たら、親友のうちに何も無しか。今更来たって、何の事情やねん。」

「俺は、別に会議なんて興味が無かっただけだ。」

「そんなん皆そうやわ。」

「それはすまない。兎も角、今日は来たんだ、会議を始めよう。」

そう言うと乾さんは目の前に張ってあった欠席の紙を丸めて投げ捨てた。

「今日集まって貰ったのは、ある事件についての解決を求めたいからだ。その事件というのは、昨日ダーが傷だらけの状態で倒れていたんだ。何か情報を知っている人は報告して欲しい。」

すると早速ソンさんが手を上げる。

「私はダーに会いに近くまで来とってんけどな、私が見たんは倒れてるダーの横にこの子がいたんや。」

「じゃあ犯人はあんたやな?」

「違います。僕は助けようとして側にいたんです。」

「にしては、あんな何もないところにどうやってダーを見つけたんかいな。あんたがコンに匿ってもろてるゆーのは今初めて知ったんやけど、あんたの家とはだいぶ距離あると思いますでぇ?」

まさか人影を追ってたどり着いたなんて言っても信じては貰えないだろう。じゃあ何と言う?嘘を言ってもどうせばれるだろうし、そもそも巧妙な嘘をつける自信もない。

「何か言ってくれないと分からない。」

イヌイさんがそう言う。それでも答えを導き出せずあたふたする僕。その後、とても苦しい沈黙を破ったのは、僕ではない。

「そもそも、君は一体誰なんだい?」

これまでの仕切り役であろう人が口を開く。その人のおかげで、一先ず何かを発信することが出来た。

「僕は、草薙照葉です。此処に来たにはかなり前で、バスの事故で気を失い、目が覚めたら此方の世界に来てしまっていました。」

「人間が此方に来ることなんて珍しいな。意図的に来た訳じゃないんだろう?」

「はい。帰る方法を探している途中です。」

「それは一生叶わんよ。」

リーさんが少し表情を暗くして言った。しかしその表情は、僕への心配とはまた別の方向を向いている気がする。

「ど、どうしてですか?」

「照葉はもう帰れないのか?俺らの力だったら、何とかして帰してあげられるんじゃねぇのかよ。」

「それはない、絶対。人間が此方に来るのには意味があるんや。神が統治する此の世界に、偶々、偶然何てもんは無いわ。」

即効否定されたゴンさんが、誰が信じるかと言いながら座る。一番信じたくないのは僕だけど、でも、何故だか不思議な事に、薄々僕は帰れないんじゃないのかなという予想はついていた。

「人間が来る意味って何だ?俺は初めて聞いたんだが。」

「戦争の後に来た奴らには分からないやろうな。」

「…すまない、教えてくれ。」

仕切り役の人がそう言うと、リーさんは一度視線を皆に送った。

「…八卦のうち誰かの死が近いってことや。」

皆が息を飲むのが分かる。皆、知らなかったんだ。僕は以前ケンさんから聞いていた。でも、その時聞くのと今聞くのとでは状況が違う。その時は自分とは全く関係の無い他人事のように聞き流していたけど、今は現に死にかけている八卦がいる。自分は偶々事故の衝撃で此処に来てしまったのだとばかり思っていたけど、まさか"兌"さんの引き継ぎとして来たのだとは。

「ってことはダーさんはもう助からないんですか!?」

「おい人間や、そう演技をせんでなぁ。あんたがやったんだろう?それであんたが引き継ぐのかい、何て汚い奴なんだ、だから人間というのは嫌いなんだよ。」

「早合点するな、ソン。まだ決まった訳じゃない。」

「何処が早合点何だい?きっとそやつは、自分が早く引き継ぎたいがためにダーを傷つけたんだ、そうだろう人間。さらにケンさんや、あんたはどないして人間を庇う、この子の何を知ってるというんや。」

「お前だって全てを知らんでよくそんなことが言えるな。リーも、言葉足らずだと人に誤解を与えかねんと、昔から言っているだろう。」

「…。」

「いいか、人間が此方に来るのは八卦の死が近いことを表すのは間違いではない。だがな、その死というのは寿命での死についてのみなんだ。」

「嘘、そんな事聞いとらんでぇ?、リー。」

「…。」

「その発言はどういう意味だ?逆にリーはソンに何を話したんだ?」

「え、いや…私は何も聞いとらん。」

「嘘だな。」

ケンさんがソンさんに圧をかけて言った。それに追随して、仕切り役の人も黙ってはいない。

「リー、観念しろ。何を話したんだ。」

「…。」

さっきからリーさんは首を下に曲げ床を見つめて黙っている。何時もだったら攻撃的になるのに、今は凄く大人しい。一体どうしたんだろう。体調でも悪いんじゃないのかな。

「おい、リー。話せ。」

ケンさんがとどめを刺したかと思ったら、突然勢いよく炎が舞い出した。勿論発火源はリーさんだ。僕はコンさんにてを引かれ一番乗りで入り口まで逃げた。

「リー、落ち着くんだ!」

「リーさん!やめてください!!」

カンさんがその力に対抗するように水を送るも、その力の差はやや負けている。皆席を立ち、入り口のほうに避難したというのに、会議の時から一切動かない人物が二名ほどいた。それはリーさんとケンさんだ。ケンさんにも火はかかっている筈なのに、リーさんを見つめてびくともしない。

 火の勢いが増し、カンさんも限界が近づいていた。

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