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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
小鳥の居場所
13/50

第十三話 皆との旅行

「よっしゃー!海行くぞー!」

昨日誘われた筈がその翌日に迎えが来た。イヌイさんにとってまた今度とはどれくらいの間隔なんだろう。僕は少なくとも三日四日は空くと思っていたんだけど。昨日コンさんが、行くなら早く準備しておいた方が良いよって言ってくれたおかげで間に合ったけど、もし言ってくれなきゃ三十分は待たせてしまう所だった。

「ゴン君手ぶら!?」

「おう、だって海って泳ぐだけだろ?」

「キャンプとかもありますよ?」

「まぁどうせカンが全部持っていってくれてるんだろ?」

「いやそうですけどちょっとは気を遣って下さいよ。」

「よし、行くぞー。」

「ゴン君!?」

だから昨日あんなに早かったんだ。カンさんが昔人間から貰ったというキャンプ用品のあれやこれやを押し入れから掘り出している最中、ゴンさんはコンさんと一緒に話していた。というかカンさんは人間に貰ったというけど、聞く限りじゃ言葉も話せない相手の姿も見えないんじゃ盗んだのではと思ったのは言うまでもない。気になって詳しく聞いてみても、何か大きな建物の中に幾つも並べてあったから取って良いってことなのかなと思ったらしいけど、それって盗難だよね。きっと監視カメラにも映らない透明人間が商品を盗んでいったって有名になるよ。もし見つかったらの話だけど。

「そういや此処からどうやって行くんだ?」

「準備ができたら、此処へ来て。」

「此処へって来ればいいのか?」

そういって四人が一ヶ所に集まる。

「荷物を持って、手を繋いで。離さないでね。」

言われた通りに手を繋ぎ、イヌイさんに完了の合図を送ると、行くよっと声がしたと同時に一斉に宙に浮く。

「…!?なんだこれ、内蔵がきもぃ、」

「そのうち慣れますよ。」

「…おい、照葉が目ぇ開けてないぞ。大丈夫なのか?」

「僕は高所恐怖症なんです。」

「えっそうなんですか?」

カンさん、見えないけどきっと目を輝かせているでしょう。今どんな気分?とか何か聞こえるけど、これ以上止めてください。手を離さないので必死なんです。今まではイヌイさんが抱き抱えてくれていたから良かったけど、今は自力でしがみつかないといけない。そんなこんなで海に着いたときには手の感覚が無いくらい疲れてしまった。

「お疲れ様、大丈夫か?」

イヌイさんが手を揉んでくれる。何て優しい人なんだ、この一瞬で何回ありがとうございますと言ったことか。僕が本調子に戻るまでずっと付き添ってくれた。

「ありがとうございます。もう大丈夫です。そういえばゴンさんは?」

「向こうで泳いでる。」

「カンさんは?」

「ゴン君に引っ張られてる。」

引っ張られてるってどういう状況なんだろうと思い身を起こすと、確かに向こうで浮き輪の上に座ったカンさんをゴンさんが泳いで引っ張っている。マッサージ中に悲鳴が聞こえていたのは、あれはカンさんの声だったのか。

「カンさんは金づち何ですか?」

「金づち?」

「泳げないって事です。」

「そうなのか。いや、あいつは泳げるよ。早くはないし、上手くはないけど。一回あいつと泳いだら分かるよ。ありゃ泳いでるっていうより波に乗っている感覚だね。」

「そっか、カンさんは水を操れるんですもんね。」

「そうそう、あれを泳ぎと言って良いのか未だに分からない。」

そんな会話をしていると、ゴンさんが此方に手を振っているのが見えた。

「お前らもこっち来いよー!」

「今行きまーす!」

「元気そうで何より。来て良かったな。」

「そうですね。イヌイさんは行かないんですか?」

「俺は見守り隊だ。」

「了解しました。」

僕は走ってゴンさんの方へ行く。勢いよく行ったつもりだけど、波打ち際まで来た時に足を止めてしまった。何時もは兄と一緒に海に入る。じゃないと海がとんでもなく怖いのだ。入った瞬間何処かへ連れていかれそうな気がしてならない。

「…大丈夫か?」

ゴンさんが僕のもとまで上がってきてくれる。

「どうした?怖いのか?」

僕が固まって動けずにいると、カンさんが手を差し伸べてくれた。

「僕と一緒だと、溺れることはまずありません。」

その手を掴もうとしたら、後ろに身体を引かれ、掴むことが出来なかった。

「自分で入ってみ。君はそんなに弱くないんだから。」

振り返るとイヌイさんが僕を見つめる。その目は僕を見ている様で見ていなかった。僕は溺れないと言うカンさんを信じ、自分を信じて一歩足を踏み出してみる。

「ほら、言っただろ。」

足に波がかかり一瞬後退しそうになったが、思いきって前に進んでいく。人に導かれて進むのと自分で進むのとは全然感覚が違うように思え、より一層わくわくしてくる。その勢いにのって足のつかないところまで走ると、手を動かし泳いでみる…んだけど、運動神経の悪い僕には想像では完璧でも身体が言う通りに動かない。おまけに調子に乗って足のつかない所まで来てしまったんだから、僕は相当阿呆なのだと思う。身体が沈みそうになったその時、海水が下から強い力で僕を押し上げた。

「任せて下さい!」

「ぁ、ありがとうございます。」

確かに、ゴンさんの言う通りこれは泳いでいると言えるのだろうか。どっちかっていうと流されている方が表現としては正しい。でもそう思いながらも擬似水泳というものを楽しんでいると、また別の水圧に今度は身体が沈んでいく。何とかして頭だけでも上に出そうとしたけれどそれは叶わず、遂身体全体が水に包まれる。息が苦し…くない。

「え、」

声も出せる。何が起きたんだろうと理解できずにいると、すぐ横にカンさんがいた。

「折角なので冒険してみませんか。」

「…?」

「見てみたいでしょう、海の中を。」


一方、陸ではゴンとイヌイが二人で海を見つめていた。

「イヌイさん、でしたっけ。」

「ああ。何だい?」

「始めて会う人に、大変失礼なのはわかっていますが…」

「構わない、言ってみな。」

「胸元、見せて貰えませんか。」

「…え、」

「あ、いや、そう言うんじゃなくて、」

「君、そういう趣味は隠しておくもんだよ…」

「違います!!全くの誤解です!!いや、本当に違うくて…何か隠してますよね。さっき、俺らで手を繋いで此処まで来るとき、ずっと胸元を押さえてませんでした?」

ゴンは弁明の必要もあって必死で目を合わそうとしているが、それに対してイヌイは一切ゴンの方を見ない。

「胸元を見せないというのはデリカシーの話な気がするが。」

「違いますね。貴方が隠すのは何時も片方だけ。左側だけなんです。…ねぇ、何を隠しているんですか。」

「どうしてそんなに気になるんだ、と問いたいけれど、君。もう見てしまったんだろう。だから急に敬語を使っているし、そんなにしつこいんだろう?俺の口から言ってくれないと気が済まないのだろう?」

イヌイの推測はあっている。意を突かれたゴンは、そうですと頷くしか無かった。

「一体貴方は誰なんですか。」

「素直でよろしい、じゃあ言ってあげようじゃないか。俺はイヌイではない。ではなくもないが…唯、正式な名では無い。俺の本当の名はー」


「ゴンさん!イヌイさん!」

「ただいま帰りました。」

「イヌイさん、凄かったですよ、海の中は。本当に綺麗です。真っ青です。深いです。恐いですし楽しいです。」

「ハハハ、一旦落ち着きな。もうそんなに海と親しくなれたのかい?良かったじゃないか。」

「はい!カンさんのおかげです。」

「それほどでも。」

分かりやすくカンさんが照れている。ここまでデレデレのカンさんはコンさんの前では滅多に見ないから新鮮だった。

「よし、帰ろうか。少年、思出話はコン君にでも話してやれ。俺に話すと全部話た気になってしまうだろう?おれはまた今度に聞くよ。」

「分かりました!」

じゃあ行こうと言われ、周りを整えてからまた皆で手を繋ぐ。今でこんなに夕焼け空じゃ、家に着く頃にはもう真っ暗だろうな。コンさんが一緒に来ないと言うのは予想外だったけど、イヌイさんの言う通り、沢山思出話をしてあげよう。行った気にさせてあげよう。

 今夜の彼のサービス精神は、山に佇む一件の家を、一層賑やかにしたのだった。

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