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 俺のお気に入りの巨大クッションに横たわっている少女の体を抱き上げる。

 日本を覗き見た時に、白馬の王子様がお姫様を迎えに来る話を読んだが、俺の元には黒髪のお姫様がやって来てくれたようだ。


「お姫様のおかげで、千年過ごしたこの部屋ともおさらばだな」


 まさかこのようなきっかけで、外に出るとは思わなかった。


 俺は封印されていたが、本当は自らの力でも出ることができた。

 それをしなかったのは、人と関わることが面倒になったからだ。


 俺も人に裏切られた経験がある。

 小夜は復讐を望んだが、俺の場合は全てを諦めた。

 人に希望を持っていた俺が愚かだったのだ。


 だからと言って、奴らをきっかけにして自らの命を捨てるのは馬鹿らしい。

 封印されたまま、俺は気ままに生きていくことにした。


 だが、何もない空間に閉じこもっているは、死ぬほど退屈だった。

 俺は暇つぶしに、色んな世界を覗いて見ることにした。


 どの世界を見ても、俺がいる世界と大して変わらない。

 暴力、殺戮、裏切り、虚構の平和――もううんざりだ。


 だが、地球という比較的マシな世界を見つけた。

 その中でも、俺は日本という国が気になった。


 日本は平和な国で、武器を持つことが禁止されていた。

 ナイフを持ち歩いているだけで危険人物とされ、保安組織である警察に捕まる。

 治安が良く、ゴミがなくて美しい国だった。

 決められた場所以外に物を捨てることは禁止。

 盗むことはもちろん禁止だが、落とし物を我が物とすることも禁止で、金品を落としても持ち主の元に帰ってくることが多い、という事実は信じがたかった。


 災害が起きても奪略は起きず、人々は助けあっている。

 物資の配給も必ず行われ、善意の物資も国内中から届き、受け取る側も秩序を守って並ぶ。


「俺の国も日本のようであれば……。いや、もうどうでもいいことだ」


 未練などない過去の記憶に浸りそうになってしまったため、意識を切り替える。


「それにしても、日本に惹かれた俺の元に『日本人』が来るとは……運命かもな」


 小夜の寝顔を見ながら呟く。

 死の恐怖を味わったせいか、ひどく疲れている様に見える。

 早く整った環境で休ませてやりたい。

 小夜を連れ、封印をされていた空間を出た。


「おっと。この恰好のままではまずいか」


 日本の漫画で見た『魔王』を参考にした黒衣に、魔法で着替えながら封印の間から出ると、暗い洞窟の中にいた。

 ここは小夜がさっきまでいた場所のようだ。


「……アア……ア……アケ……」


 洞窟を閉じている扉に、小夜を襲った魔物――グリンブルスティが張り付いていた。


「封印されている間に外界は臭くなったのかと思ったら、お前がいたのか。外に出たら、『シャバの空気は美味い』と言いたかったのに、台無しじゃないか」


 背後で文句を言う俺を気にすることなく、グリンブルスティは何度も頭突きで扉を開けようとしている。


「俺を無視するとは、いい度胸だ。それにしても……これはタチの悪い魔物だな」


 倒せるが、倒してしまうと厄介なことになる。

 触らぬ神に祟りなし、というものだ。

 動きを封じ込めて被害がないようにすることはできるが、俺がしてやる義理はない。


 俺が観察している間も、グリンブルスティはひたすらに頭突きを続けている。


「そんなに出たいか? それなら開けてやろう。……迎えも来ているようだしな」


 扉の向こうに、複数人の気配がある。

 小夜を生贄にした者達だろう。


 それならば、俺も挨拶をしなければいけない。

 俺は魔法で扉を開けた。


「開いた!? わああああああっ!!!!」


 頭突きの勢いで扉の向こうに飛び出たグリンブルスティに、人間達が悲鳴を上げた。

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