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「!」


 分かっていた。

 憎しみが勝り、わざと目をそらしていたことを指摘され、私は言葉を詰まらせた。

 私を生贄にした人達はどうなってもいい。

 でも、何も知らずに生きている赤ちゃんや子供、一生懸命生きている人達が私のせいで死ぬことになったら……。


「それに、お前の周りにいた者のすべてが、お前を裏切ったのか? お前が生贄になることを知らなかった者がいるかもしれない。お前が信じられる者はいないのか?」


 魔王の言葉を聞いて、リオン様達の顔が浮かんだ。でも……!


「憧れていた人が! 信じていた人が! 私に『楽に死ねるように』と薬を渡してきたんですよ!? 私……もう誰も信じられません……」


 俯いて泣き出した私を見て、魔王はため息をついた。

 だが、呆れているわけではなく、心配しているようだ。


「お前達日本人は、素晴らしいモノを生みだす創造の民だ」

「…………え?」

「封印されている間、俺は暇つぶしに色んな世界を覗いた。その中で、君の故郷である日本に出会ったんだ」


 その時のことを思い出しているのか、魔王の目が輝いている。


「日本は魅力的なモノで溢れていた。本当に素晴らしい! どうしても手に入れたくなった物は、魔法で創造して手に入れてきた。実際に使ってみると、より『良さ』を実感して、俺は日本という沼から抜け出せなくなったよ!」


 魔王の顔は、おもちゃを買って貰った子供の様に嬉しそうだ。


 ……なるほど。

 だからこの部屋には、日本の物が溢れているのか。

 こんなに好きになってくれて嬉しい。

 なんだか日本人であることが誇らしくなってきた。

 そんなことを思っていたら……。


「俺は気が遠くなるような時間を、この孤独な空間で過ごしてきた。生きていることが億劫になってきていたが……。日本と出会ってからは、まだ生きていることを楽しく思えるようになった。だから俺は、日本人が『壊す』ところをあまり見たくない」

「…………っ」


 困ったように笑う魔王を見て、私は感情が高ぶった。

 日本を好きになってくれた魔王の気持ちに応えたい……。

 でも、行き場のない怒りが溢れてくる。


「じゃあ……私はどうすればいいんですか!」


 叫んでしまった私を、魔王はまだ優しい目で見ていた。

 そして、私の近くまで来てしゃがみ込むと、頭にポンと手を置いた。


「復讐はいつでもできる。まずは君の心を癒そう」

「……でも、私……復讐したいです……駄目なことだと分かっているけれど、したいです」


 復讐なんてするべきではないと分かっているのに、気持ちを抑えることができない。

 駄々っ子のように食い下がってしまう私の言葉に、魔王はくすりと笑った。


「大丈夫。何もしなくても、君を生贄にしようとした奴らにはツケが回って来るさ。そうだ、君が生贄にならなかった結果がどうなるか、俺と高みの見物をしないか? この世界の人間達が、どのような行動を取るのか見てみようじゃないか」


 私が生贄にならず、あの魔物が暴れはじめたらどうなるか。

 それは確かに気になる。


「それに、命は奪わなくてもざまぁはできるものさ。君の故郷では『ざまぁは寝て待て』、と言うだろ?」

「それは初耳です……」


 それを言うなら『果報は寝て待て』では?

 放っておいてもざまあになる、と言いたいのだろうか。


「とにかく、今はゆっくり眠れ」

「でも! …………あ、れ?」


 まだ食い下がろうとした私だったが、突然強烈な眠気に襲われた。


「……俺に任せろ。安心するがいい。ただでは済まさないさ」


 ……何の話? そう聞きたいのに言葉にならず、意識が途切れていく。

 目を閉じる前に見た、扉の方を見ている魔王の黄金の目が、妖しく光ったような気がした。

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