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――ぽふっ
「?」
意識が遠くなるのを感じながら地面に倒れたのだが……痛くない。
倒れた衝撃はあるものの、冷たくて固い地面ではなく、柔らかいクッションの上に倒れていた。
しかも、そのクッションには、日本にいたころに見覚えがあった。
私が欲しくても買えなかった、これは……。
「人を駄目にするクッション!!」
お値段が高くて、女子高生の私にはなかなか手が出せなかった。
あれに座って一日中ゲームをするのが、私の密かな夢だった。
それにしても……ここはどこだろう?
洞窟の中にいたはずなのに、いつの間にか貴族が住むような豪華な内装の部屋にいた。
設置されている家具もアンティークのような高級そうなものだ。
そんな部屋に人を駄目にするクッションは異質だと感じ、部屋の中を見回してみると、もっと異質なものがたくさんあった。
たくさんのゲーム機、テレビ、ゲーミングPCとチェア。
冷蔵庫や値段が高そうなマッサージチェア、ランニングマシンなどの健康器具。
そして、床に散乱している物を手に取り、首を傾げた。
「……漫画?」
どれも日本で見たことがある物だ。
漫画以外にも、DVDやゲームソフトが散乱している。
とても親近感が湧く光景だ。
「もしかして、私……日本に帰って来たの?」
「……なんだ?」
「!」
部屋に誰かいる。
男の声が聞こえ、びっくりして肩が跳ねた。
声がした方を見ると、立派なゲーミングチェアがくるりと回り、こちらを向いた。
座っていたのは、長い白銀の髪に、黄金の瞳の美青年。
歳は恐らく二十代後半。
温泉宿にあるような浴衣をだらしなく纏っているため、細身だが引き締まった胸元や腹筋が丸見えだ。
「…………は? お前、どうやってここに……」
突然目に入った美青年の体に動揺してしまったけれど、話しかけられて本来の目的を思い出せた。
「あなたは魔王ですか!」
勢いよく質問した私に、男は目を丸くした。
「俺か? まあ、そう呼ばれることもある」
魔王の封印を解いたのに、快適そうな部屋に瞬間移動して混乱したが、目の前にいる美青年が魔王だと分かって安心した。
「私、あなたの封印を解きました! さあ、この世界を壊してください!」
「?」
両手を広げ、力説する私を見て、魔王はきょとんとした。
「世界を破壊? 何故だ?」
「何故って……あなた、魔王なんですよね? だったら破壊の限りを尽くしちゃってください!」
「だから何で俺がそんなことを……。ん? ちょっと待てっ!!」
面倒くさそうな態度をしていた魔王だったが、何かに気づいて目を見開いた。
「お前……日本人か!?」
「え? は、はい。そうですが……」
「!! やはりそうか! すごいぞ! 創造の民にエンカウントするとは!」
嬉しそうに万歳した魔王が、私の元まで駆け寄って来た。
そして、私の脇腹に手を入れると、持ち上げてくるりと回った。
「きゃっ! な、何!?」
「黒髪黒目! なんと愛らしい!」
突然魔王の口から発せられた言葉に戸惑った。
よく分からないが、面と向かって「愛らしい」などと言われ、カッと顔が熱くなる。
「突然なんですか!? 下ろして……!」
「! すまない。ついはしゃいでしまった」
魔王はすぐに下ろしてくれたが、私を見てニコニコしている。……何なの?
「あの、私……復讐をしたくて……」
「復讐!! もしかして……俺に『ざまあ!』を手伝わせてくれるのか!? そうなると、君は聖女か? 悪役令嬢か!?」
謎のテンションが爆上りを見せる魔王に、私は思わず引いてしまう。
「ち、違います。一応、神子とは言われてました……」
「あー……神子か……」
何がお気に召さなかったのか分からないが、あからさまにがっかりされて少し苛立った。




