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 突然、頭の中に映像が流れてきた。

 場所は今私が立っている、ここ――。


 そこで恐らく私と同年代、高校生くらいの銀縁眼鏡をかけた黒髪少年が、地面に握りしめた石で何かを描いている。


『絶対に許さない……俺を生贄にしやがって……みんな道連れにしてやる!!』


 眼鏡の少年は怒りで顔を歪め、泣きながら魔法陣を刻んでいる。


『あと少し、あと少しで魔王を……魔王の封印を解くことが! …………あ』


 背後の何かに気がついた少年が、顔を強張らせたまま固まった。

 そこに何がいるのか私には見えないが、それが何なのかは分かる。


『来るな……来るな!! クソッ、あと少し……!』


 眼鏡の少年は再び描き始めたが、手が震えていて上手くいかない。


『クソッ! こんなところで死にたくない! 死にたくない! 来るな! 来る……わあああ!!」


「…………」


 そこで映像は途切れた。

 生々しい光景に、私は思わず目をぎゅっと閉じた。

 この後眼鏡の少年がどうなったかは想像したくない。


「きっとこの魔法陣を描いていた人ね」


 見えたものが何なのか、どうしてこんなものが見えたのか分からない。

 でも、過去にこの場所で起こったことだと確信した。

 私と同じ、生贄にされた人だろう。

 眼鏡の少年は、日本人だったようにも見える。


「これは魔王の封印を解くための魔法陣だわ」


 今、この世界では、魔法を使える人は少なくなっている。

 昔の人はみんな魔力を持っていたそうなのだが、現在は極少数だという。

 そのため、魔法を学ぶ人が少なくなっているのだが……私は知っている。

 私には異世界を題材にした漫画などでよくあるチートな能力はなかったが、魔力は少しあった。

 だから、いつかはチートな能力に目覚めるかもしれない、という厨二な思考で、魔法については熱心に学んだのだ。

 そのおかげでこの魔法陣も、どういうものか理解できた。


「魔王、か……」


 魔王とは、遥か昔に独自の国を作り上げ、世界を恐怖で支配した者だと、リオン様とこっそり盗み見た禁書に書かれてあった。

 御伽噺のようなものだと思っていたが……。


「あ!」


 考察しているうちに、魔物の気配がすぐ近くまで来ていることに気がついた。

 思っていたよりも早く追いついて来た。動きが速くなっている!


 ――ニタァ……


 暗闇の中で見えないが、魔物が笑ったのが分かった。


「ひっ…………!」


 逃げたいけれど、もう逃げ場がない。

 もうだめだ……私はこの魔物に食べられて死ぬ運命なのだ。

 手に握っていた薬の存在を思い出し、ギュッと握りしめた。

 生きたまま食べられ、痛みや恐怖を味わいながら死ぬくらいなら……!


『絶対に許さない……俺を生贄にしやがって……みんな道連れにしてやる!!』

「!」


 命を諦めようとした瞬間、眼鏡の少年の声は頭に響いた。


「……分かるわ」


 今の私には、黒髪の少年の気持ちが痛いほど分かる。


「どうして私が、縁もゆかりもなかった世界にある国のために、生贄にならないといけないの!? 異世界人を犠牲にし続ける国なんて滅滅びてしまえ!」


 私は足元にあった石を拾うと、必死に描きかけの魔法陣に手を加えた。

 魔王がどんなものかは分からない。

 でも、このまま死んでしまうなんて嫌だ!

 私のことを家族や仲間だと言っておきながら、生贄にした人達を許せない!


「復讐してやる!」

「グオオオオオオオオオッ!!!!」


 あと少しで完成するのに、のろのろと動いていたはずの魔物が、勢いよく突進してきた。

 恐怖で手が震える。

 でも、「ただでは死なない!」と己を奮い立たせた。


「よし、描けた! あとは私の血を捧げれば……!」


 普段であれば、自分を傷つけて血を流すなんて、怖くはできない。

 でも、今はためらうことなく自分の手を思いきり噛み、血を流した。

 痛みなど感じる間もないまま、必死に魔法陣に手を押し付ける。


「お願い! 魔法の封印よ、解けて! この世界を滅ぼして!!!!」


 思いきり叫んだ私の目の前には――。


「ひっ!」


 あの魔物がいた。

 あの悪臭を間近に吸い込み、吐き気に襲われる。


「あ、ああ……あ……」


 吐きそうなのは臭いのせいだけではなく、恐怖が極限に達したからかもしれない。

 そんなことを考えながら、私の意識は遠くなったのだが……。


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