十二話
久しぶりの更新です。
お待たせしました。
何故か、俺は左大臣家の若君や随身の兄ちゃん達と共に北山まで来ていた。
ちなみに兄ちゃん其の一や其の二の馬に乗っけてもらったが。(そもそも兄ちゃん達の名前は知らない)
若君は名前を鶴若と言う。左大臣といったら、かの光の正妻の葵の父親だ。鶴若はその葵の実兄だが。
「……なあ。光の君」
「……なんですか?」
「洗髪料用の材料に。後は、髪の保湿用に。身体を洗う用のってなあ。どんだけ、採りに行くんだよ」
鶴若は唇を尖らせながら言う。俺は苦笑いした。
「僕はある程度、調べましたから。洗髪用には合歓の木の皮と、髪の保湿には。蜂の蜜と。身体を洗うなら草木の灰やらを採取しないと。さ、行きますよ」
「わかったよ。行こうぜ、皆」
鶴若は仕方ないという表情をしながらも、歩き出した俺に付いてくる。こうして、採取は始まった。
まず、合歓の木の皮は近くのお寺などに行き、生えていないかを訊いて回った。すると近くに生えているとある少女が言ってきた。
「……確か。こっちにあったよ」
「ありがとう。恩に着るよ」
「道具は、持ってきているの?」
「ああ。実は鉈やら持ってきていてね。確か、あの薮の向こうだったね?」
「うん。じゃあ、あたしは行くね!」
少女に手を振って、俺は藪の中に入ろうとする。けど、随身の兄ちゃん其の一に止められた。
「……若宮様!さすがに藪に入るのは危ないですよ!」
「いや、ちょっ。離してくれよ。ただ、合歓の木の皮を剥ぎに行くだけだって!」
「木の皮を剥がしたことなんて、ないでしょうに」
兄ちゃんはため息をつく。馬を近くの木に繋ぐと、俺に鉈を貸すように言う。そして兄ちゃんは驚いたことに藪の中に躊躇いなく入っていった。
「合歓の木の皮を剥ぐのでしたか?」
「ああ、そうだが」
「なら、私に前もってお頼みになったらいいんですよ。これくらいはお安い御用ですから」
兄ちゃんはニッと笑いながら藪を分け入っていく。合歓の木の側にたどり着くと、鉈を振り上げた。ガッと木の幹に刃先が食い込む。鉈の刃を立てながら樹皮を少しずつ剥いでいった。たぶん、八十センチくらいまで達したら俺は頷いて合図を出す。兄ちゃんは鉈を抜き取る。樹皮を両手で完全に剥ぎ取ってしまう。もう一人の兄ちゃんが縄を持ってきて、樹皮に軽く力を入れて曲げた。それにくるくると巻き付けたら器用にギュッと結ぶ。さらに、頑丈な油紙で包む。
随身の兄ちゃんは藪から戻ってきた。
「……手慣れたもんだな」
「それはどうも。次は蜂の蜜でしたね」
「ああ。また、聞き込みをしないとな」
そう言ったら、兄ちゃんはニカッと笑った。任せとけと言いたそうな表情だ。俺も頷いたのだった。
あれから、蜂の巣があるらしい木の捜索をした。同じく近くに住むおばちゃんが場所を教えてくれる。
「……坊や。あんな、木の上にあるのを取りに行くのかい?」
「ああ。母ちゃんにどうかなと思って」
「へえ。坊や、優しいねえ」
おばちゃんは歓心したように言うと、そのままで行ってしまった。けど、弱ったな。俺は木登りができないし。傍らにいた兄ちゃんも樹上を見上げて弱りきった表情をしている。
「……これはまた。凄い高い所にありますね」
「あー、確かにな」
「どうしましょうか」
俺と兄ちゃんは顔を見合わせた。梯子はないし。そうしたら、鶴若が近づいてきた。
「しゃーない。ここは、俺に任せろ」
「えっ、鶴若君?!」
鶴若は袖をまくって紐で括る。器用にそうしてから、何と木の幹にしがみつく。ちょっとずつ、手と足を使って登り始めた。俺は心配になりながらも彼を見守った。
あれから、三十分くらいは経ったか。驚くべきことに鶴若は、蜂の巣がある箇所にまで来ていた。太い枝の上に座ると、彼はおもむろに懐から小さなのこぎりを出す。それで巣と枝が繋がっている箇所を切るらしい。兄ちゃんは最初こそ驚いていたが。懐から木の枝やらを出すとランタンに近い道具を組み立てる。その中に火をつけた枝を入れた。するとモクモクと煙が出てくる。
成程、出てきた煙で蜂を大人しくさせるようだ。兄ちゃんはさらに団扇を出すとあおぎ始めた。
「あんがとよ!よし、巣を落とすから。どいていてくれ!」
「わかりました。気をつけて!」
鶴若が声を上げる。兄ちゃんも頷いて応じた。鶴若はギコギコと音を立てながら蜂の巣の枝に繋がった箇所を切り離す。しばらくして切り離せたら、巣が落下してきた。兄ちゃんは俺を脇に抱えると素早くその場を離れた。鶴若は小さなのこぎりを仕舞う。また、スルスルと猿のように降りてきた。いや鶴若といい、兄ちゃんといい、何者なんだ。俺はどうでもいいことを考えながらも地面にドサッと落ちた巣を回収したのだった。
合歓の木の皮や蜂の巣、草木の灰汁などを無事に採取できた。俺は鶴若や随身の兄ちゃん達に礼を述べる。
「今日はお疲れさん。おかげで大助かりだよ」
「いえ。お役に立てたなら、良かったです」
「おう。光の君、今日は楽しかったぜ」
俺は随身其の二の兄ちゃんにも礼を述べた。皆のおかげで成果は上々だ。ホクホクしながら後宮に帰った。




