十話
久しぶりの更新です。
お待たせしました。
俺が兄に絵のレクチャーを受けた後に麗子さんと父帝が戻ってきた。
麗子さんは苦笑いで父帝も難しい顔をしている。どうしたのかと兄と顔を見合わせた。
「……父上。女御様。いかがなさいましたか?」
「……光。それに翔。ちょっとな」
「父上?」
俺が訊くと父帝は俺の頭を撫でた。兄も不思議そうに問いかける。
「翔。私は光や女御と戻る。すまんがまた明日だな」
「……わかりました。お待ちしていますね」
「ああ。翔、ちゃんとお薬を飲んでおくれ」
兄は頷く。俺は父帝や麗子さんと三人で弘徽殿に戻ったのだった。
弘徽殿に戻ると麗子さんが説明してくれた。何でも父帝は近い内に退位する事を考えているらしい。次の東宮には三宮がなる事も内々には決めてあるとか。次期東宮妃に四の姫宮が目されている事も話してくれたが。けど、兄はまだ七歳だぞ。後見は誰がするんだよ。
「……後見は。あたしと主上がするわ」
「えっ。本当ですか?」
「本当よ。光の君には悪いけど。これはもう決まった事よ」
麗子さんは女御としての顔で言った。父帝も重々しく頷く。
「……ああ。東宮には悪いが。後二年もしたら。私は退位するつもりだ」
「父上。四の姫宮の入内はいかがなさるのですか?」
「そうだな。姫宮も二年経てば。裳着の式は済ませるだろうし。入内は可能なはずだ」
父帝はそう言うと俺に目線を合わせるためにしゃがみ込む。頭を撫でられた。
「……光。そなたには左大臣家に行ってもらう。更衣にも言っていたのを聞いたぞ」
「あ。お耳に入っていたんですか。俺は左の大臣にお世話になるのは決定事項となったと見ていいんですね?」
「そうだな。左の大臣には年頃の姫もいるし。いずれはそなたと婚姻する事になるだろう」
俺は頷いた。タイムリミットは二年。その間に祖母や母がもっと健康的に過ごせるようにしなければ。そう決めたのだった。
この話の翌日から俺はシャンプーやリンスにうってつけの植物を探しに行く事にした。シャンプーだと合歓の木辺りが良いだろう。リンスは確かぬるま湯に蜂蜜を垂らしてするか。それとも他に何があるだろうな。必死こいて登山の準備をして。こっそり一人で後宮を抜け出そうとした。山々に分け入るためだ。が、すぐに両親に見つかる。ちなみに清涼殿を通ろうとしたからだが。
「……光。何をしている」
「……父上」
「よもや。後宮を出ようとするとはな。そなたは馬鹿か」
何気に酷い事を言われた。父帝よ。ちょっとそれはあんまりじゃないか。
「光。それに主上も。どうなさったんですかや?」
「更衣。ちょっと男同士でゆっくり話したい故。席を外してくれないか?」
「……わかりました。わらわはしばらく後涼殿に戻っております」
母は驚きながらも素直に頷いた。そのまま、清涼殿を去っていく。人払いもする。そうした上で父帝は俺に正面から向き合った。
「光。何で後宮から出ようとするんだ」
「何でって。ただ、洗髪料に合う材料を探しに行きたかったんです」
「……そうか。だが。一人で行く気だったのか?」
「そうですけど」
「あのな。そなたは仮にもまだ此処に身を置いているんだぞ。いくら幼いといっても。ちょっと軽率過ぎるんじゃないか」
父帝は眉間を指で揉みながら言った。確かにとは思う。
「すみません。反省はしています」
「……ならいいんだが。光。せめて従者は連れて行け。そうだな。そなたの乳兄弟で今若がいただろ。後、二人くらいは護衛の者も必要だな」
「わかりました。次回からは護衛の者を連れて行きます」
頷くと父帝はほうと息をついた。ちょっと疲れているようだ。
「光。後、言うべき事があるだろう」
「……はい。勝手に出て行こうとしてごめんなさい」
「まあ。わかっているならいいんだ。今度からはせめて更衣には行き先を言うんだぞ」
俺は再び頷いた。父帝は良いパパではある。兄にはちょっと素っ気ないが。それさえなければ、満点ではあるか。そう思っていたら父帝は両手を広げた。
「……光。来なさい」
「……父上。何ですか。その妙なポーズは」
「ポーズな。意味は弘徽殿から聞いているが。なに。膝の上に乗りなさいと言っているんだが」
俺はドン引きした。何が悲しゅうて親父の膝の上に乗らないといけないんだ。悪いが乗るなら母の膝の上の方がいい。
「……光。どうした?」
「……わかりましたよ。乗ればいいんでしょう」
仕方なく俺は父帝に近づく。ゆっくりと膝の上に乗ってみた。うん。やっぱり座り心地は悪い。内心で文句を言いながらも上目遣いで父帝を見る。
「やっとそなたとゆっくりできるな。たまには羽根を伸ばしたらいい」
「はあ。まあそうですね」
「……何だか。あまり嬉しそうじゃないな」
俺が虚空を見つめていたら。父帝は寂しそうに言う。
「父上。もう降りてもいいですか?」
「そんな。光が冷たい」
「どうとでもおっしゃっていたらいいですよ。俺はもう母上の元に戻ります」
俺は父帝を置いてさっさと後涼殿に戻る。父帝が何かを言っていたが。スルーして戻って行ったのだった。




