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久しぶりの秘密基地。
帰宅から数日が経ち、その間オズはずっとリーンにべったりだった。どうやら見送りの時はこんなに長く家を空けるとは思っていなかったらしい。今日も家を出るのが大変だった。
リーンのシャツを掴んで号泣するオズに出掛けるのをやめようとしたが、ミリアに泣いたらお願いを聞いてもらえると思ってしまうからダメだと言われて送り出されたのだ。
ものすごく後ろ髪を引かれた。帰ったらいっぱいぎゅうぎゅうしよう。
今は倉庫の横に果樹を植えたところ。
びよん達の池の畔に植えるのは変な実が出来そうなのでやめたが、ここなら池から程よく近いのでよく育つだろう。
そのびよん達はいつも通り池でチャプチャプしている。
「ぷよぷよ久しぶりに見た」
「そーだねぇ。最近変身が流行ってたから」
「おい。アレいいのか」
セオの言葉にリーンとケネスが視線をずらすと魚の姿になった青びよんが陸に上がってビチビチしている。
「なにしてんのーーーー!!」
ダッシュで走っていって青びよんを池に戻そうと頑張るケネスとビチビチ暴れてその手から逃れる青びよん。
「魚じゃねえんだから死にゃしねーだろ」
セオの言う通りどんな姿でもびよんはびよんなので問題無い。ケネスは見た目のインパクトで大慌てしているが。
「ふふ。楽しそう」
その後しばらくケネスは青びよんに翻弄され、リーン達はそれをほのぼのと眺めた。
「はい!もぉスキル調べるよ!」
あの後やっとの思いで青びよんを池に入れたらそのほかのびよん達が全部魚になって陸でビチビチし始め、そこでようやく揶揄われたことに気付いたケネス。ご機嫌斜めだ。
リーンはクスクス笑いながら肩掛け鞄からスキル辞典を出した。分厚い本はずしりと重いが収納鞄に入れていればいつでも持ち歩ける。
スキルが書かれた羊皮紙もそれぞれ出して三人で本を覗き込んだ。
「まずはリーンだね〜。攻撃魔法強化は……」
■天変地異:各種属性の攻撃魔法の威力大幅アップ。発現およびスキルレベルアップの条件不明。精霊との関わりが深い者が発現し易い。
■無慈悲:範囲指定で使用した攻撃魔法の威力アップ。
「やっぱどっちもじゃねえか」
「精霊との関わりだってぇ」
三人共びよん達が遊ぶ池に視線を向ける。
「え。ご飯のお礼……?」
リーンがポツリと呟いた言葉にケネスがブフッと吹き出しセオが顔を背けて肩を叩いてきた。真相は分からないが、リーンは三人の中で一番魔力を食べられていると思われるので有り得そうだ。
「そぉいえば水魔法も攻撃に使っても平気なんだよね?」
「うん。水魔法も風魔法と同じスキルレベルだったから使ってみたら大丈夫だった」
攻撃魔法というのは相手を攻撃する意思を持って魔法を行使したもの全てだ。亀を水球に閉じ込めた時も蟻を流した時もきちんと制御できていた。
「んじゃ〜他の属性もレベル上がったら使えるねぇ」
「ん。頑張る」
「天変地異スキルが上がらなきゃな」
「…………」
何をすれば上がるのかも分からないのに。
「……さ、次はセオのスキルだよぉ〜」
■斬:液体や気体などの形の無いものを含むあらゆるものを斬る事ができる。
■足運び:悪路でも体制を崩し難くなる。
■韋駄天:走る速度が早くなる。
■芸術家:その時自身が興味関心を持つ素材やテーマに対して思い通りの加工がし易くなる。但し製作途中でも興味を失うと効果も消える。
「首チョンパのスキルだ」
ケネスが言った通りだった。ドラゴンが来た時に衝撃波を斬ったのもこのスキルの効果だろう。
「足運び……そういや体勢崩し難くなったな」
「パウロさんとの手合わせの時めちゃくちゃだったじゃん」
あの時セオはヒットアンドアウェイを繰り返し無茶な動きをしても体勢は崩さなかった。それでパウロを追い詰めたのだからかなり有用なスキルだろう。
「で、それよりもさぁ〜」
ケネスとリーンの視線が一点に集中する。
「「芸術家」」
昔から杖や小物を作ったり秘密基地の東屋を造ったりしているのに制作系のスキルが無いのが不思議だったのだが。なんか凄そうなスキルを持ってた。
「ふはっ芸術家ねぇ〜。似合う似合う」
「うるせえよ」
ケネスがセオの背中をバンバン叩いて笑っている。あんまりやりすぎるとツムジぐりぐりされるので二人の意識をスキル辞典に戻そう。
「じゃあ最後、ケネスだよ」
■軽業:地面に足が接していない時に動きを補助する。
■風読み:風の強さや方向、温度や湿度などから天候や周囲の地形などが分かる。野外での弓矢などの命中率が上がる。
「猿みてえだな」
「それ師匠に言ってよぉ」
ラウロは狩りの時はヒョイヒョイっと木に登り更に枝を伝って移動していって、あっという間にどこにいるのか分からなくなる。ケネスも似たようなことをさせられているので軽業のスキルが発現したのか。
それとやはり弓に関して才能があったらしい。矢継ぎ早も含めて弓の扱いを補助するスキルが多い。
「風読み、便利そう」
「そぉだね〜。今は特に何も感じないけど」
育つのが楽しみなスキルだ。
「お前気配察知のレベル低いのになんで範囲俺と変わらねんだよ。あとなんで状態異常耐性んな高えんだ」
「あ、ほんとだ」
羊皮紙を見比べていたセオの言葉にリーンもそれぞれの羊皮紙を見てみる。確かにセオの気配察知はLv7でケネスはLv4なのに二人が敵の接近に気付くのはほぼ同時だ。
それとセオの状態異常耐性はLv2でケネスはLv4。ピリピリのお茶を飲み始めたのは同時のはずだけど。
「あー。状態異常耐性はいろいろ薬作って自分で効果試してたからじゃない?オババ厳しいからぁ」
ケネスがちょっと遠い目で答える。苦労してそうだ。
「ケネスは気配察知の他に察知もあるよ」
「察知?気配察知とちげえの」
「あれぇ。ほんとだ」
リーンが指さしたところには『察知Lv3』の文字。前回見落としたのか今回増えたのか。とりあえず調べてみた。
■察知:気配や魔力、周囲の変化など様々なものを察知する。〇〇察知のスキルを強化する。
「これで気配察知強化されてんのか」
「あ〜なるほどぉ」
セオとケネスが納得して頷いている。周囲の人や物をよく見ているケネスらしい。
多分これでよく分からないスキルは無くなったはず。
もう一度見落としが無いかざっと見た後で二人は欲しいスキル探し、リーンは昼食の準備にかかった。
「これ強そぉ」「こっちのがかっけえだろ」と相談する二人を眺めながら旅で手に入れた食材を出して手際良く調理していく。家で辺境の甘辛ソースを作って試食済みだ。家族にはとても好評だった。
エンハのひとつ前の村で買ったキトの美やエンハで買ったスパイスもそのうち使いたいし熊肉も処理しなきゃ。しばらくはメニューに困らなそう。
お肉大好きな二人に甘辛ソースの肉炒めは大好評で、普段は仕方ないという表情で食べてる野菜もモリモリ食べてくれた。これは当たりだ。
そして午後はいつものご飯のお礼と二人が張り切ってオーブンを造りリーンを大喜びさせたのだった。
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※エンハで調べた時点でのスキル
リーン・ターナー 7歳
【親和属性】
水 風 土 回復 光 時 空間 木 氷 火 雷
【スキル】
水魔法Lv8 風魔法Lv8 土魔法Lv7 回復魔法Lv4 光魔法Lv2
時魔法Lv2 空間魔法Lv5 木魔法Lv2 氷魔法Lv4 火魔法Lv4
雷魔法Lv3
魔力操作Lv10 魔力回復Lv2 魔力増大Lv5 消費魔力軽減Lv3
集中Lv6 精密操作Lv7 精神耐性Lv3 状態異常耐性Lv7
結界Lv1 天変地異Lv3 無慈悲Lv1 見極めLv5 理解Lv3
空間把握Lv4 統合Lv2 付与Lv3 鑑定Lv5 医術Lv2 料理Lv6
細工Lv2 速読Lv1 馬術Lv1
セオ 8歳
【親和属性】
雷
【スキル】
魔法剣Lv8 剣術Lv11 棒術Lv5 体術Lv7 短剣術Lv3
槍術Lv2
体力回復Lv3 体力増大Lv3 剛力Lv4 頑強Lv1 気配察知Lv7
集中Lv5 状態異常耐性Lv2 斬Lv3 弱点特効Lv5 見切りLv6
単騎Lv4 受け流しLv4 足運びLv3 威圧Lv7 回避Lv5
根性Lv3 殲滅Lv1 投擲Lv2 追跡Lv4 見極めLv2 暗視Lv3
遠見Lv4 聞き耳Lv5 韋駄天Lv2 解体Lv8 釣りLv3 捕獲Lv1
馬術Lv5 古語Lv2 芸術家Lv1
ケネス 8歳
【親和属性】
精霊 精神
【スキル】
召喚魔法Lv6 精神魔法Lv5
弓術Lv9 体術Lv3 縄術Lv1
魔力操作Lv5 体力回復Lv2 俊敏Lv2 隠密Lv5 軽業Lv2
気配察知Lv4 集中Lv5 状態異常耐性Lv4 精密射撃Lv7
矢継ぎ早Lv5 回避Lv2 察知Lv3 同調Lv4 威圧Lv2 協調Lv7
使役Lv6 支配Lv5 投擲Lv2 罠Lv3 投げ技Lv1 捕縛Lv1
理解Lv6 暗視Lv2 遠見Lv4 風読みLv1 人心掌握Lv4
話術Lv7 細工Lv8 薬学Lv8 医術Lv5 算術Lv2 商才Lv2
地図作成Lv2 修繕Lv3 演技Lv2 解体Lv4 開墾Lv2 採取Lv5
料理Lv2 裁縫Lv5 速読Lv3 馬術Lv4
すみません。三人のエンハで調べた時点でのスキルを追記しました。