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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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街の北門にヨーシフとアマート達が見送りに来てくれた。

「お世話になりました。これ、お礼」

リーン達がそれぞれアマート達三人にポーションを手渡す。


「お礼なんて……ちょっとこれ上級ポーションじゃないの。しかもこの蓋の意匠、見たことないけど」

「うん。ポーションはケネスが作って僕が手伝ったよ。蓋はセオが作った」

ザラがまた顔を引き攣らせている。ちゃんと鑑定もして効果があるのを確認したので大丈夫だと頷いた。

「そう、あんた達作るもんまで規格外なの……」

「マジか。うわー……マジかー」

「ありがとう。もしもの時に使わせてもらうよ」

それぞれがそれぞれらしい反応をするのを笑って眺め、もう一度頭を下げてお礼を伝えた。この数日本当に楽しかった。



「ヨーシフさんもお役人に怒ってくれて嬉しかった」

「よせよ。あんなこと別に」

「精霊の話もね〜。ありがとぉ」

「飯美味かった」

昨夜の食事はヨーシフの奢りだ。別で包んでもらったタルトだけはどうしてもと言って払わせてもらったが、それ以外は頑として受け取ってくれなかった。

「またどっかで会ったら一緒に飯を食おう」

「ふふ。うん。その時はちゃんとお客さんになるね」

二年前の約束がまだ果たされていないと言うと大きなお腹を揺らして「楽しみにしてる」と返ってきた。


「では、出発しましょうか」

イワンの穏やかな声に頷く。この街ともしばしのお別れだ。




皆に大きく手を振って門をくぐり、来た道を逆にカポカポ馬に揺られて歩く。ケネスの頭の上には黒い小鳥。帰り道も同調スキルのレベル上げをするらしい。

「来た時とは大違いだねぇ」

ケネスが辺りを見回して言うのに頷いた。あの時は必死で馬を走らせて駆け抜けたが今は平和そのものだ。

「普段よりもずっと静かなのでしょうね」

それはそれで野営がゆっくりできていいだろう。

一行は早朝の爽やかな空気の中をのんびりと進んでいった。




------------------------------




三泊の野営を何事もなく終えて夕暮れ前にニコラス達の村に着いた。



ここまでの道中、石壁の村の広場でリーンが駆け出し冒険者達に絡まれたぐらいしかトラブルは無かった。それもセオが戻った途端に蜘蛛の子を散らすように退散したので特に被害もない。

セオがいても絡んでくるハドリーは意外と根性があるんだなと改めて思っただけだった。


そのほかは、野営でキッシュを出したらケネスが大喜びして食べ過ぎまた胃腸を活性化させたとか、リーンが暇な夜番の間に小さな結界を量産してセオが全部拳で叩き割る羽目になったとか、びよんに他の姿になれるか聞いたら小さいドラゴンになったとか。

概ねいつも通りだ。




数日前に一泊したばかりなのに随分と懐かしい気がする。

こんな時間に訪ねては迷惑かとも思ったが挨拶無しですぐ側で野営をするわけにもいかず、とりあえず挨拶しておこうかと村の入口を通り抜けた。



村の住人達はリーン達にすぐに気付き口々に「おかえり」と声をかけてくれる。

「おかえり、かぁ。なんか変な感じ〜」

「まあ帰ってきたって気はするな」

「ふふ。そうだね」

「相変わらずの人気ですね」

くすぐったい思いをしながら進んでいくと前方からニコラスが歩いてきた。多分村人が知らせたのだろう。


「無事に帰ってきたな。おかえり。待っていたよ」

出迎えてくれる人がいるというのはなんて幸せなことだろうか。明日は家族の元に帰るのだが、とりあえず。

「ただ今戻りました」

満面の笑みで返事をした。




結局そのままニコラスの家に招待され部屋も用意されてしまった。イワンの顔を見たら「これは緊急事態ですね」とにこやかに言われたので目を瞑ってくれるらしい。



「行って戻ってきたらCランク冒険者になっているとは」

夕食の席でニコラスが面白そうに笑う。

スタンピードの件は心配されたが、蟻の大群の話やセオの手合わせ、街の賑やかさなどの話をケネスが面白おかしく話して聞かせリーンとセオが時折口を挟む。ニコラスもネイトも彼らの両親も奥さんのエマも皆ニコニコと聞いていた。ニコラスの娘はやっぱり人見知りでエマの陰に隠れている。


コックローチの話はご飯時なのでやめておいた。というか話そうとしたらケネスに肘でつつかれたのだが。



美味しい食事をご馳走になり、最後にお土産だと先程渡したベリーのタルトが切り分けられて出てきた。

「すごいな。甘くて別の食い物みたいだ」

「南の方は砂糖が豊富だと聞いてはいたが。美味しいな」

ネイトが一口食べて驚いている。タルトは一般的に作られるものだが差程甘くはないのだ。ニコラスも甘いものは食べなさそうな見た目の割に美味しそうに食べている。

「ほんっと。美味しいぃ〜」

エマが頬を押さえて嬉しそうに笑う。両親も「あら本当」などと言いながらニコニコ頷いて、娘のアナは無言で口いっぱいに頬張り夢中で食べていた。

「皆に食べさせたかったんだ」

これ程喜んでくれて買ってきた方も嬉しい。三人で顔を見合わせて笑った。



皆の笑顔に囲まれて美味しいものをお腹いっぱい食べた。

話は尽きなかったが小さなアナがセオの膝の上で居眠りし始めた頃にお開きにした。

人見知りのアナは「これも食うか」とセオの分のタルトを差し出されて一瞬でセオに懐いたのだ。砂糖パワーが凄いのかアナが大物なのか……。


眉間に盛大なシワを寄せる少年とその膝に座ってタルトを頬張る可愛らしい幼児は微笑ましいと言えないこともなかった。もちろんケネスは爆笑していたが。





「久しぶりのベッド〜」

藁が詰まったベッドにダイブしたケネスが満足そうに体を伸ばす。野営は楽しいけれどベッドはベッドでいいものだ。

「ニコラスさん足平気そうだね」

「もうあれは全く心配いらないでしょ。普通普通〜」

「ほぼ死んでた人間には見えねえな」

やはりちょっと心配だったのだがケネスの言うようにごく普通だった。食事や仕事ももう平常通りらしく、今はイワンと酒を飲んでいる。


「じゃあこの先二人が足とか腕失くしても大丈夫だね」

「いやぁ。神の奇跡体験はちょっと〜」

「そんなヘマしねえ」

ウンウン頷くリーンだが両隣からお断りされた。



明日は家族に会える。

ここで温かく迎えられてもちろん嬉しかったが、余計に家族に会いたくなってしまった。

(お父さん、また泣いちゃうかも)

その日は心配性の父親の顔を思い浮かべながら眠りについた。



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