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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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オークキングの部屋の前に着いた。少し早いが朝食が早かったので土のテーブルと椅子を作りお昼ご飯にする。

ボス部屋の扉前の空間は魔物が入ってこないらしいので。


「……なんでボス前に魔力無駄使いしてんのよ」

「ご飯食べてる間に回復するから大丈夫」

頭が痛いと言いたげなザラにニコニコと頷く。

無茶な付与や欠損箇所の再生などしなければ全く問題ない。

いや、あの頃より格段に魔力の総量も増えたし回復速度も上がった。今なら同じことをしても問題ないだろう。



収納鞄からソーセージとザワークラウトを挟んだパン、チーズとベーコンを乗せたパンを出し、豆と干し肉のスープを鍋ごと出してコップに配る。大きなキッシュを切り分けておかわり用のパンも真ん中にドンと置いた。

キッシュはニコラスの家で奥さんのエマに教わり、朝に宿で厨房を借りて焼いてきた。美味しくできたはず。

「うわー美味そう。俺らもいいの?」

「うん。たくさん作ってきたからどうぞ」

嬉しそうなアマートに答え、ザラとパウロにも座るように促す。セオ達はテーブルと椅子が出来た時点で即座に着席してご飯が出てくるのを待っていた。


「手作り……」

何故かザラが絶望した表情でキッシュを恐る恐る頬張り「おいしい……」とまた絶望している。え。なんで。

「あー、乙女?にはいろいろと思うところがあんのよ」

首を傾げてザラを見ていたらアマートに気にするなと肩を叩かれた。よく分からないけど美味しいならいいか。




お昼も美味しく食べて気合い充分。ケネスはキッシュがとても気に入ったらしく、美味しい美味しいと食べていた。

食べ終わった後で悲しそうに皿を見てたので街を出る前にもう一度焼いておこう。

テーブルと椅子を分解しようとしたら放っておいても数日でダンジョンに飲み込まれるし、あったら便利だからそのままでいいと言われた。これも飲み込まれるんだ。


不思議なダンジョンの仕組みに考え込みそうになるがセオとケネスに背中を押されて扉に誘導された。苦笑して頷く。

入口の扉と同じく三人でそっと触れるとひとりでにギギギギと音を立てて開いていき奥に随分と大きなオークが両手に斧を持って立っているのが見えた。




部屋に一歩踏み出した瞬間にオークキングの咆哮が響き渡る。硬直の効果があるらしいが三人には効かない。

ケネスが早速目を狙って矢を放つが顔の前に斧をかざして防がれた。得意げな顔のオークキングの脳天に大きな石が直撃する。

「グ、ブ……」

「でけえな」

呻き声を上げてふらつくオークキングの左足をセオが膝から切断し、絶叫して斧を振り回そうとしたところで大きく開けた口の中に矢が何本も刺さった。

「ガ……グガ……」

動きを止めて倒れ込む前に背中側に土の階段が瞬く間にせり上がりそれを駆け登ったセオが首をはねて終了。


「倒れ込んでから首チョンパじゃダメだったのぉ?」

「あっちの方がかっこいいかなって」

土階段の上から飛び降りて歩いてきたセオが満足げに頷いている。なるほどロマンかとケネスも納得して頷いた。



「早すぎるでしょ」

「えー……雑魚相手にしてた時と変わらなくな〜い?」

「三人でB級瞬殺ってほんとだったね」

後ろで見ていたBランクの三人は、目の前の子供達が本格的に冒険者として活動し始める前に何としても実力とランクを上げようと心に決めた。先輩風を吹かせておいてあっという間に抜かされましたなんてシャレにならない。


後にこの日は彼らの転機となる。が、またそれは別のお話。

ひとまず今は初ダンジョンの初ボス攻略を祝おうと顔を見合わせて笑い子供達に合流した。





時間はまだあるし続きも攻略するかと聞かれたが三人共首を振った。困ったら助けてくれる人がいるというのはかなり甘えた状況だ。

助けを求めるようなことは無かったが、それでも精神的に余裕があったのは彼らが後ろにいてくれたから。

「今度はちゃんと自力で来る」

「いつか並べたらさぁ、一緒に依頼受けよ〜」

「手合わせも。また」



もう実力は並ばれてる気がすると思いながらも内心を隠して余裕の表情で笑う。

「いやぁ君らがランク上げし始める頃には俺達はSランクになってるかもよー?」

「それでも。追いつくから」

ニコリと笑いじっと見上げてくる視線に絡め取られた。

「うん。待ってるよ。もっと上で」

嬉しそうに笑って頷く様子に苦笑するとザラの「特訓ね」という小声の呟きが聞こえた。停滞してたスキルのレベル上げも再開しよう。死ぬ気で。




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予定よりもだいぶ早いが街に戻ってきた。

アマート達とはお礼を伝えて門のところで別れている。明日は見送りに来てくれるらしいのであっさりだ。



「約束の時間までちょっとブラブラする〜?」

「うぅーん」

「中途半端だな」

セオの言うように中途半端な時間だ。ヨーシフとの約束の時間には宿にいなければならないので余計に。

「とりあえずギルドで素材売ってこよう」

オークキングが持っていた斧は一つ3万ルクで売れるらしいので持って帰ってきている。武器としての値段ではなく鉄の塊としての値段だが。

セオに使うか聞いたら無言でつむじをグリグリされた。



ギルドで魔物素材と魔石、例の斧を売る。買取カウンターに大きな斧を二本ドンと出したらまた職員が虚無の顔になったが無事に買い取ってくれた。


15万程の金額を受け取りふと気付く。アマート達は今日一切の稼ぎが無かったはず。蟻祭の時も多少の小遣い稼ぎにはなったかもしれないが彼らを動かすに足る金額とは思えない。

何せBランクが入れるダンジョン5階層までで15万の儲けになるのだから。



「リーン〜?」

「どうした」

考え込むリーンに二人が近付く。

「ん。今日アマートさん達の稼ぎ無くしちゃったなって」

「あー……」

「そういやそうだな」

あちらから誘ってくれたのだし気にしなくていいのかもしれない。でもリーン達は今日とても楽しかったし後ろにいてくれてとても心強かった。

「追いつくって宣言しといて借り作るのは無しだよねぇ」

「だな」

予定が決まった。なにか稼ぎに見合う贈り物を考えよう。




宿に帰りケネスと二人で上級ポーションを作ることにした。

冒険者を続けていくならもしもの備えがあった方がいいだろうし、上級ポーションはあまり出回らない。

びよん達が大好きな池の水はケネスのポーチに入っているのでリーンは製作のお手伝い。セオは蓋担当でベッドに座ってコルクと木片を削ってる。

ケネスの指示に合わせて火魔法で鍋を温めたり風魔法で攪拌したりとなかなか忙しい。

「んあ〜……リーンいると楽ぅ」

拝まれた。



そうして出来上がったポーションをテーブルの上に並べる。

「あれ。よっつ?」

「これはびよん達の話のお礼〜」

なるほど。ヨーシフさんの分らしい。

ガラス瓶に入ったポーションは薄い緑色で日の光にキラキラ輝いている。

ニコニコとテーブルの上を見つめるリーンの視界に浅黒い腕がニョキっと入ってきてスっと消えた。瞳を瞬くと瓶に蓋がついている。


丸い蓋の真ん中には小鳥が彫ってあり右半分に半円を描くように水飛沫、左半分に同じく半円を描く雷。これは。

「僕達だ」

「おう」

満足げな低い声が返ってきた。

ケネスの小鳥のびよん、リーンが初めて覚えた水魔法、それとセオの雷。全部合わせてかっこいいマークになっている。

「あ〜!びよんだぁ」

ケネスがヒョイと覗き込んで嬉しそうに声を上げる。最近ケネスの中で小鳥=びよんになっているのがちょっと面白い。

リーンとケネスがポーションを作る間にセオも蓋を四つ作っていたので、瓶に蓋を嵌めリーンが時魔法を付与して蓋を開けるまで劣化しないようにした。




なかなか素敵な贈り物ができたと思う。

「ね、このマーク商会のマークにしよぉ」

「うん。かっこいい」

「そうか」

セオが眉間に盛大なシワを寄せて照れてる。

宝物の杖を作ってくれた時もこんな顔だったなと思い出し、ケネスと二人で顔を見合わせて笑ったらダブルでつむじグリグリされた。

身長縮んだ気がする。



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