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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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翌日、早朝のまだ薄暗いうちに宿に迎えにきたアマート達と一緒に街を出た。


南門では門番達にプレートを見せるとギョッとされたが、アマート達が一緒にいる上に噂も聞いていたらしく「君たちが例のアレか」と頷かれただけで通れた。

例のアレってなんだろう。どんな噂が回っているのかちょっと気になったがギルドまで走られなかったのは良かった。




「チビちゃん俺の馬に乗ればいいのに」

アマートがセオの馬に並び後ろに座るリーンに声をかける。

彼らは貸馬屋で馬を借りたのだそうだ。街には大抵どこにでもあるらしい。

「ううん。平気」

セオとケネスのどっちの馬に乗せてもらおうかと考えて、ケネスの方は前に乗っても後ろに乗っても弓の邪魔になるだろうとセオの後ろに乗せてもらった。

「問題ねえ」

チラリとセオに視線を向けるアマートにセオが答える。

ガクリと項垂れて「エルフ触り放題……」と呟いた声が聞こえた途端にセオがアマートから距離をとった。空いた距離にザラが馬をずいと進ませアマートの馬の尻を蹴る。

当然馬が驚いて走り出し「違う、違うからぁ……!」と叫ぶ声が前方に遠ざかっていった。


「ごめん。ほんと」

真顔で謝るザラにコクリと頷く。昨日一昨日普通だったので油断した。

リーンとしてはポワポワでプニプニのオズはいつでも撫でくりまわしたいと思うので、同じような感じだろうかと思えば分からないでもない。だが遠慮したい。



この後アマートが戻ってこようとする度に笑顔全開のパウロが追いかけ回し、ひとり前方に突出した状態のまま目的地まで進んだ。馬は無駄に疲れたと思う。




------------------------------




「ダン、ジョン……!」

「まじか」

目的地に着いてここが何なのか知った二人は呆然として呟いた。ケネスはプルプルしている。

「ふふふ。ね。お楽しみ」

ニマニマと笑うリーンはもちろんつむじをグリグリされ脇腹をつつかれた。



「いーい?ここは攻略済みで全45階層。15階層まではそれほど酷い罠は無いし、日帰りだから5階層突破が今日の目標」

ザラの説明に三人並んでうんうん頷く。


ダンジョンのタイプはオーソドックスな迷路型。石造りの壁の通路が縦横無尽に入り組み、場所によっては仕掛けを作動させたり暗号を解いたりしないと進めないらしい。

罠もあるが浅い階層は即死するようなものではなく単純に落とし穴に落ちたり一定時間進めなくなったりするだけなので、基本的にザラ達は後方で見守り攻略は三人に任せると言われた。

リーン達の周囲にいる大人は危なくなったら助けるから好きにしなさいと言ってくれる人が多い。本当にありがたい。


「5階層ごとにボスのちょっと強い魔物がいるけど、5階層のボスはオークキングだし問題ないよ」

パウロがザラの説明に補足する。オークというのは猪のような顔で2メートルぐらいの人型の魔物。オークキングはその強化版らしい。

B級の魔物なので万が一があってもアマート達は適正ランクだし何度も倒しているそうなので大丈夫だ。





併設されている施設に馬を預けドキドキしながら岩山に不自然に付いている大きな扉に向かう。扉の手前にいる兵士に首のプレートを見せて通してもらった。やはりここでもギョッとされたが。

「扉に触れてごらん」

アマートの言葉に三人で顔を見合わせ、せーので一緒にそっと触れた。ひんやりとした金属の感触がしたと思ったらゴゴゴゴと重い音を立てて巨大な扉がひとりでに開いていく。

隙間から見えるのは黒いモヤモヤ。前に布の表面に収納魔法を付与してしまったのを思い出した。

なんとなく三人で手を繋ぎまたせーので一歩を踏み出した。



なにかを通り抜けた感覚の後に踏み出した足が硬い石の地面を叩く。顔を上げると薄暗い石造りの部屋。奥に通路が続いているのが見える。明かりも無いのに何故かぼんやりと明るく視界は良好だ。

つい先程まで砂埃の匂いに囲まれ徐々に温度を増す日差しを浴びていたのに。ここは何の匂いもしないし何の音もしない。シンと静まり返っていて少し肌寒い。

そして目の前にはツルリとした四角い石の台座。

引き寄せられるようにして台座に近付いてみると台座の中心に青く輝く丸い石が嵌っていた。


「それは転移の台座。帰る時に楽だから手をかざして魔力登録しときなさい」

「何もしないで手をかざすだけで大丈夫だよー。石が赤くなったら登録完了。もっかい青くなってから次の人ね」

後ろから普段通りのザラとアマートの声が聞こえてちょっとホッとした。三人共に突然の非日常に呑まれそうになっていたのだと後になって気付く。

クスリと笑ったら両隣の二人も苦笑していた。





台座に登録をして進み、今は既に3階層。

「次の分岐を右に行くと階段」

「はいはーい。あ、ちょっと待って罠ある」

「でけえの近付いてくるから急げよ」

迷路に迷うことも無く、また罠も魔物もものともせずにスイスイ進む三人をアマート達が後ろからなんとも言えない顔で眺めていた。

「なんで正しい道がわかんのよ」

「罠のスキル既に持ってたのか〜。うーん優秀すぎ」

「気配察知も相当なレベルじゃない?っていうか俺真剣で手合わせしなくて良かった」


異様としか言えない光景だった。

リーンが時折立ち止まってキョロキョロし、あっちと指さす方になんの疑問もなく進む。そしてリーンの言葉をケネスが木炭で紙に書き写し即席でササッと地図にしている様子。どうやら行き止まりなども完璧に把握しているらしい。

更に罠があるとケネスがすぐに気付きそこに近寄らないように指示している。避けられない罠は首を傾げながらも短時間で解除していて、その所要時間も段々と短くなっていた。

ちなみに出てくる魔物は全てセオが出会い頭に首を刈り取っている。持っている剣は普通の剣に見えるのに一太刀で首切り……。リーンもケネスもそれに特に反応しない。



なんなんだこのパーティは。

このままだと入って二時間もせずに5階層のボスに辿り着きそうだ。そんなバカな。

戦闘能力が飛び抜けているのは知っていたが、まだ他にもいろいろとびっくり要素が隠れていたらしい。

アマート達は遠い目をしながら前を歩く小さな三人組を引き続き見守った。これ、俺ら必要か?




とても順調に進んでいる。

リーンの空間把握は日常的に気配を読むのに使っているおかげでここ数日グングン精度が上がっていた。それでもダンジョンの階層全ては把握出来ないが、行き止まりが分かるのでそれを避ければいい。

ケネスの罠スキルもここで実際の罠を察知したり解除したりしてスキルレベルが上がっているらしく数をこなすごとに簡単に解除できるようになっている。

リーンの空間把握では落とし穴があるのは分かってもその仕掛けが何によって作動するか分からないので、ケネスが罠のスキルを習得してくれていて助かった。



階段を降りて4階層に着いた途端に飛びかかってきた大きな蛇の魔物をセオが即座に首チョンパして収納鞄にしまった。

ここは大きな蛇や大きなネズミの魔物が多く、たまにオークも交ざる。ネズミとオークは魔石を取って放置。蛇は皮が売れるので収納鞄行き。ケネスが「お、蛇追加〜」と喜んでいる。収納鞄の使用に関しては冒険者登録をした時にイワンから解禁されているので問題なしだ。

ダンジョンは魔物の死体を放置しておくとダンジョンに飲み込まれて勝手に消えるらしい。不思議だけど便利。


「三匹」

セオが前方を睨みながらボソリと呟くのに頷く。

どうやらこの先は向こうも複数の相手になるらしい。リーンの空間把握でもこちらに歩いてくる三匹のオークが感知できた。ケネスが弓を構えリーンも手のひらに魔力を集める。




相手が複数でも差程変わりはなかった。一人で瞬殺していたのが三人で瞬殺に変わっただけだ。

「うん。知ってた」

アマートの呟きとザラとパウロのため息が空虚に響いた。

なんかもうちょっとこう、苦労してくんないかなぁ。

最初だけは初々しくて微笑ましかったのに。



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