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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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「面目ない。スキルが発動するとは思わなかったし、発動して更に負けるとは。完敗」

パウロが眉を下げて笑いながら頭を下げる。先程見た狂気に塗れた表情とは全く違ういつもの穏やかな顔だ。



ギルドを出た後「お疲れ会しよう」というアマートの言葉に皆で賑やかな酒場に来ていた。元々外で食べようと思って宿とイワンには言ってあるので問題ない。

アマートのチョイスにしては珍しいなと騒がしい店内を見回すと「旅の中で一度くらいこういうのも良いでしょ」とウインクされなるほどと頷いた。本当にこういうのを外さない男だ。やっぱりちょっとケネスと似ている気がする。


それと店に来る途中でザラとも合流した。「あんたいつでもトドメさせるくせに遊んでくれて」とおデコをペチリとやられたが、やれやれという表情で怒ってはいなかった。「建物ごと崩壊させるのはできるんだけど。手合わせに勝つのは難しくて」と謝ると顔を引き攣らせていたが。

現状リーンの手札では試合となると相手の降参待ちを狙うしかない。

そのせいで相手を甚振る『小悪魔』という印象を周囲に与えたのだが。リーンが終始ニコニコしていたのも悪かった。


まぁその辺は今のリーン達のあずかり知らぬことである。




「いや。俺も追い詰められて強化スキル使った。あそこでスキル発現しなけりゃ負けてた」

「えぇ。あの時スキル覚えたのぉ?」

ケネスの言葉にコクリと頷き「じゃなきゃあんなマネできねえよ」と言うセオ。確かにあの時のパウロの猛攻は傍目にも凄まじかった。それを力ずくでねじ伏せるなど相当だ。

覚えた強化スキルというのは背水の陣だろうか。

「なにか反動とか無いの?平気?」

「ねえ。ただ、多分三日ぐれえ同じスキルは使えねえな」

やはり背水の陣だろう。昔本で調べた時に各種能力を数分間大幅に上げるが一度使うと一定時間再使用できないと書いてあった。


「俺のスキルは狂うと書いて『狂化』だよ。良いなぁそっちの方が使い勝手良さそうだ」

ニコニコと穏やかに言うパウロにアマートとザラがため息を吐く。きっとそのスキルでいろいろあったのだろう。なにせ狂犬と二つ名がつく程だし。



このパーティに出会った時にはアマートが飛び抜けて優秀でパウロは気が弱くどっちつかず、ザラが問題児という印象だったが。今はなんだかんだでそれぞれに補い合っているのだとわかる。

本当に人というものは面白いなと思いながらアマートが注文してくれたおすすめのポトフを口に運んだ。野菜が柔らかく味が染みていてとても美味しい。




「そういやチビちゃん達いつまでこの街にいる予定?」

アマートに言われて三人顔を見合わせる。

「あ~……予定は全部こなした、かなぁ?」

冒険者のランクをCまで上げて必要な買い物もした。教会でスキルも調べたし、考えたらこの街でやりたかったことはもう終わってしまった。

元々転移箱の性能を調べるための旅だったし。

「明日、は急だから。明後日に出ようかな」

リーンが考えながら言葉にするとセオとケネスも頷いた。

ここで過ごした短い時間は思い描いていた夢のような日々で、なんだか急に寂しいような気持ちになる。でもケネスは秋の種まきの前に帰らなければならないし、狩人達もセオの帰りを待っているだろう。


ふと眉を下げて情けない顔をした父親の顔が思い浮かびクスリと笑う。村で待っている人々の顔を思い出せば夢の終わりの寂しくなった気持ちも吹き飛んだ。

「うん。明後日、帰ろう」

満面の笑みでもう一度言うリーンに二人も「そうしよう」と笑う。夢の続きはまた来年。




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宿に戻りイワンにも明後日この街を出ようと思うと告げ了承を得た。その後ヨーシフの部屋を訪ねて同じく出発の予定を告げると「寂しくなるねぇ」と眉を下げ明日の夜は一緒に食事に行こうと誘ってくれた。

そういえばびよん達の話を詳しく聞きたいと思っていたなと思い出す。この街での予定がひとつ未消化になるところだった。危ない。

明日は忘れず話を聞こうと頷いた。




「ふあぁ~。夢の冒険者生活も終わりかぁ」

「まだ帰り道あんだろ。気抜くなよ」

大あくびをしながらのケネスの言葉にセオが冷静に返す。

思えばこの街に来てからほんの二、三日しか経っていないのにとてもそうとは思えないのは過ごした時間が濃密だったせいだろうか。

「ふふ。それに明日はお楽しみだよ」

リーンの言葉に二人が首を傾げる。明日はアマート達と馬でちょっと遠出しようと約束しているが、お楽しみ?



実はリーンにはアマートが別れ際にこっそり予定を教えてくれていた。なんと日帰りできる距離にダンジョンがあるらしく、そこに行こうと誘ってくれたのだ。

そのダンジョンはBランク以上の冒険者、もしくはBランク以上の付き添いがあるCランクの冒険者でなければ入れないらしい。どうりでダンジョンの依頼など見なかったわけだ。


初ダンジョンな上に経験豊富なBランクパーティの引率付き。罠や魔物によっては命の危険もある場所なのだから当然ありがたい。

二つ返事で、というか食い気味でコクコク頷いた。

行きたい。すごく行きたいと全身で主張するリーンにアマートはプルプル震えて口元を押さえながら「じゃあ明日ね」と手を振った。



思い出してニマニマするリーンに二人の視線が刺さるが、明日になれば分かるし悪いことじゃ無いだろうと追求を諦めてため息を吐く。

こういう時に二人は無理に聞き出そうとはしない。楽しそうな友人の顔を眺めているのも悪くないと思っている。


「さあ、明日は早起きなのでしょう?もうお休みください」

三人の様子を微笑んで見ていたイワンが立ち上がって促し室内の明かりを消していく。

イワンにはちゃんと明日の予定を伝えて許可ももらっていた。そういうところ、基本的にリーンはいい子だ。

それぞれおやすみの挨拶をしてベッドに入る。リーンは明日への期待でワクワクしているが一日歩き回って最後に魔力も使ったおかげで睡魔は割とすぐにやってきた。



明日もきっとピカピカ輝く思い出になる。宝箱出ると良いなぁとニマニマ笑うリーンを夜目のきく二人がチラリと見て満足そうに目を瞑った。



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