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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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手合わせは冒険者ギルドの訓練場でやるらしい。そんなものがあるのかと瞳を瞬くリーンにアマートがその他の施設についても教えてくれた。


地下に広い訓練場があり申し込めばいつでも使用可能。壁と天井には魔法を無効化する仕掛けが施してあるので多少火の玉なんかをぶつけても平気なんだそうだ。凄い。火柱も大丈夫だろうかと首を傾げたらケネスに肘でつつかれた。

一階は受付や納品買取のカウンター。食堂も併設されているのは気付いていたが、魔物素材やポーションを売る窓口もあるらしい。

二階には資料室と宿泊所があり、どちらも事前申請すれば使える。この街では広場は解放されていないので駆け出し達はどこで寝るんだろうと思っていたら宿泊所があったのか。

毛布一枚渡されての雑魚寝らしいので宿に泊まれるなら宿に行くんだろうけど。



そんな説明を聞きながら地下への階段を降りる。地下なので暗くてジメッとした場所をイメージしていたが広い空間で天井も高く、思っていたより明るい場所に出た。

「やっと来やがった」

「あぁ~待ちくたびれた~」

「おーい。さっさと始めろよー」

そして何故か人がたくさん。あちこちからヤジが飛ぶ。

前を歩いていたアマートが困った顔で振り返った。

「ごめん。なんか噂が回っちゃったみたいで。二人共平気ー?散らそうか?」

セオとパウロに向けられた言葉だが二人共構わないと首を振った。



それにしてもなんでこんなに見物人がと辺りを見回すと彼らの会話が聞こえてくる。

「狂犬が手合わせたぁ久しぶりだな」

「相手あのちっせーのか?試合になんのかよ」

「バーカ。ありゃ矢継ぎ早のパーティの剣士だぞ」

「お、マジで矢継ぎ早じゃん。ほっせーなぁ」

「お前らバカ。ほんとバカ。矢継ぎ早よりチビちゃんだろ」

「チビちゃんって蟻祭の……」


どうやらパウロが狂犬と呼ばれていて、その手合わせを見ようと人が集まったらしい。けどそれより、

「……ケネスに二つ名がついてる」

「リーンもついてるじゃん。チビちゃん」

「…………」

ジトっとした目でケネスを見上げる。セオのようにつむじをグリグリしたいが届かないので無言で脇腹を高速つんつんしといた。



訓練場の中心では用意ができたらしい二人が向かい合って対峙している。木剣を使うようだ。良かった。

首チョンパしたら困るし。


二人の姿を見た周囲が徐々に静まる。アマートが二人の間に立ちニコリと笑って「始め」と穏やかに告げた。





アマートが後ろに下がると同時にセオが飛び出す。

木剣は右手一本で持ち剣先は下。地面を撫でるようにして下段からの斬りあげ。

パウロは両手で剣を持ちそれを受ける体勢。剣がぶつかり合った瞬間甲高い音と共にパウロの剣が跳ね上げられ、がら空きになった胴にセオの回し蹴りが入った。バシィィ!という重い音と共に受けた衝撃に乗って自身でも斜め後ろに飛び退るパウロ。目を見開いて驚愕の表情だ。


「はぁ?力負け……?」

誰かが呟く声が響いた。セオはそのまま追撃はせずに剣を下げてパウロが体勢を整えるのを待っている。

こちらから見えるパウロの顔がニヤアと酷く嬉しそうに歪んだ。多分セオも獰猛に笑ってるんだろう。




「そういや剛力スキル持ってたっけねぇ」

「うん。韋駄天も」

簡潔に言うと馬鹿力で馬鹿速い。セオは脚力にものを言わせてヒットアンドアウェイでパウロを翻弄している。更にセオの方は無茶な動きをしても体勢を崩さずヒットがめちゃくちゃ重い。パウロが体勢を崩しながら反撃しても空振り。

このまま押せそうだと思ったところでパウロが狂気に歪んだ顔で哄笑し始めた。



「アハハハ、アハハハハハハ」

うわぁと思って瞳をパチクリして見守る。ケネスがちょっとリーンにくっついてきて、セオも眉間のシワを深くして異様な光景を警戒しながら見ている。

「あ、やべ」

アマートの声が聞こえたと思ったらパウロが弾丸のように飛び出しセオを吹っ飛ばした。ギョッとして見ると一応剣で防いではいたらしく受け身をとって即座に起き上がる。

そこから笑い声を響かせながらパウロの猛攻が始まった。先程までとまるで動きが違う。

セオは受け流したり避けたり。多分まともに受けたらマズイのだろう。今度はさっきと逆にセオが反撃できない。



「ちょ、なにあれ」

ケネスのドン引きした声にザラが近寄ってきた。

「ごめん。パウロのスキル発動した。あれ狂ってるからどうにか止めるわ。ほんとごめん」

「狂ってるの」

「そう。戦いに夢中になると発動して無差別に襲うの。その代わりに大幅に強化されるんだけど」

そんなスキルがあるんだ。

でも無差別はシャレにならないんじゃと首を傾げるリーン達の横をザラがため息を吐いて通り過ぎようとする。

「待って待って。どこ行くのぉ」

「どこってアレ止めんのよ」

何か紫色の毒々しい色の液体が入った瓶を出して言う彼女の前に二人が立ち塞がる。その瓶も気になるけど。

「ダメ」

「ダメですぅ~」

「はぁ?お友達殺されると思うけど?」

顔を歪めて理解不能だと主張されるが、ダメなものはダメ。

まだ試合中だからと口を開こうとした時唐突に笑い声が止まりバキメキという音と共に「ぐふっ」という声。

振り向いたらセオが折れた木剣を振り抜きパウロが吹っ飛んでいくのが見えた。


「わりい。あばら折っちまった」

バツが悪そうな顔でパウロを指さすセオ。吹っ飛んだムキムキボディが地面でバウンドして「ぐ、あ、ぁ」と弱々しい呻き声をあげる。折ったのは木剣だけじゃなかったらしい。

リーンが満面の笑顔で頷いて治療に走った。大勝利。




パウロはまだ気絶しているが治療は終わったし今日はこれで終了かなと思ったらザラがビシィ!とリーンを指さす。

「あんた私と勝負しなさいよ!私達が子供に劣るわけないでしょ。絶対認めないから!」

セオとケネスがこちらに来ようとするのを止めて立ち上がりコクリと頷く。

「じゃあ、お願いします」

そして小声でありがとうと伝えると、フンっとそっぽを向いたザラの耳が赤くなっているのが見えた。


結果はリーンの圧勝。そもそも空中を好きにウロウロするリーンに双剣使いのザラは攻撃を当てる手段が無い。

一瞬で土壁に囲まれ苦労して脱出したら水球に囚われたり、小型の竜巻に追いかけられて落とし穴に落ちたり。

遊んでいるかようなリーンに散々な目に合わされザラが降参して終わった。



「おい、なんなんだ」

「ちょっと。どういうことぉ?」

対戦終了後小声で聞いてくるセオとケネスにリーンがザラの優しさだとニコニコ答えた。

セオの勝利で終わった興奮が落ち着いた頃に周りで見ていた一部の見物人達が矢継ぎ早と凄腕剣士のパーティにもう一人いるらしいぞと噂し始めた。二人より更に小さい見るからに無力な子供。あぁアレかとリーンに視線が集まる。

「どっちかの弟か?役に立たなそうだな」

「見目は良いんじゃね?チビちゃんとか呼ばれてんぞ」

どうやら "実力者に付き纏う子供" という評価になったらしい。セオとケネスは逆側でアマートと話をしていたが、パウロの治療と介抱をしていたリーンとザラには嘲笑がハッキリと聞こえた。


リーン自身は交流の無い人にどう思われようと気にしないがザラはかなり不愉快に思ったようだ。それで自分が相手になることで無力な子供ではないと見せようとしたのだろう。

リーンが空中を移動することなど知っていたのに飛び道具も用意してないのだから勝つ気も無かった筈。



「えぇ。いい人じゃん」

「逆にこええ」

「んで、アホな見物人どれ~?」

「ぶっ飛ばすか」

リーンの説明を聞いた二人の感想に笑い見物人の方に行こうとするのを慌てて止める。怒ってくれるのは嬉しいが全く気にしてないし、ザラのおかげでこの先もなんの害も無いだろうから。


ザラはまだ演技中なのか予想よりおちょくられて本気でイラついたのかギャンギャン喚いて去っていった。

目を覚ましたパウロとアマートと一緒にリーン達もギルドを出ることにする。お腹が空いた。



ちなみにこれ以降リーンが密かに『小悪魔』と呼ばれ始め、やがて二つ名として定着する。この時点で気付いていたらなんとしてでも阻止しただろうが……。



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