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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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宿は無事にとれた。こぢんまりした家庭的なところで、お客さんは皆商人や家族連れのようだ。おすすめしてくれたアマートに後でお礼を言おう。



「ふ、ふふふ。こんな時に使える同調!もぉ八分持つようになってるよ〜」

宿の部屋でケネスが得意気に胸を張るのをセオと二人拍手で褒め称える。

スキルレベルが低いうちは上がり易いとはいえ、一日でもうレベル4とは。恐らく精霊召喚そのものの他に使役とか支配とかのレベルも高くなっていたのだろう。



テーブルの上に色とりどりの小鳥達。誰が行くのか相談でもしているかのように顔を見合わせている。可愛い。

「決まったみてえだぞ」

セオの言葉通り白い小鳥が輪を抜けてケネスの前にチョンチョンと跳ねて出た。

「危ないぐらいに近付いちゃダメだからねぇ」

「気を付けてね」

「食われんなよ」

それぞれの言葉に「ピィ」と返事をして窓から飛び立つ。

ベッドに移動して座るケネスの両隣にリーンとセオも座って左目で視界を共有させてもらった。



「街、大きい」

「そぉだね~」

「砦っぽいな」

入口から見た石壁はギールの街よりもずっと重厚で無骨だった。こうして上空から街を見渡すと街というよりはセオの言うように砦みたいだ。あちこちにゴツゴツした物見の塔が建っていて、区画ごとに石壁で区切られて門を閉められるようになっている。


「これ、魔物に街の中に入られてもどうにか出来るよーになってるんだろうね」

ケネスが感心したように言う。入り込んだ魔物を石壁で閉じ込めて各所に設置されたバリスタ(大型の固定弩)で攻撃できる造りだ。

左目の視界はすぐに先程までいた北門の上空まで来た。

ちょうど門を開けて打って出たところで 、同調を使う本人しか聴覚は共有できない筈なのにリーンの耳にもわあわあという喚声が聞こえる。宿にまで聞こえる程の音量なのか。

「わぁ」

「声すご」

「迫力やべえ」

門の上にはずらりと弓兵が並んでいて、門を開ける前に一斉射撃をしていたのが遠目に見えていた。

盾を構えた兵士達が魔物を一気に押し返し、組になった槍兵が槍を突き出す。そしてその隙間から冒険者達が躍り出た。

彼らが剣や斧で魔物を屠り後方からは魔法と弓やバリスタの矢が飛ぶ。所々で怪我人が出て門の中に退避してはいるが、全体的に見れば一方的な展開だった。



「ほんとに大丈夫そうだった」

同調が切れて白びよんも戻ってきた。あんなに凄まじい数の魔物達を相手に全く問題無さそうだった事に驚く。

「冒険者強いねぇ〜。兵士達も一糸乱れずって感じ」

「集団戦初めて見た」

二人共あの光景を見た興奮がまだ覚めないようだ。目がキラキラしている。多分自分も。



「この街の兵士達は一定期間ごとに辺境と行ったり来たりするので、スタンピードには慣れているのです。冒険者達も同じようなものですね」

イワンがお茶を持ってきてくれた。

「スタンピード」

「魔物が大量発生して暴走状態で街を襲う事です。この辺りは分かりませんが、辺境ではほぼ毎年起きます」

あんなのが毎年。そんな所で暮らしている人達がいるのか。

「それ、街の外なんか出られないじゃん」

ケネスの言葉にイワンが微笑む。

「冒険者達は毎日元気に森に出て行きますよ。スタンピードはあの街の人々にとっては祭のようなものですし」

「……すげえな」

ちょっと想像がつかない。辺境の人達も冒険者達も逞し過ぎないだろうか。




三人がなんとも言えない顔になったところで先程の商人のおじさん、ヨーシフが部屋を訪ねてきた。

お礼の品を持ってきてくれたようだが、部屋にいるびよん達を見て驚いている。ケネスが口を「あ」の形にしているのが見えた。忘れてたらしい。


「ペディかい。これ程集まってんのは初めて見たな」

「ペディ」

って何。子供達もイワンも疑問の表情。

「あーええと。こっちじゃ違う呼び名なんかね。俺の故郷じゃこいつらみたいな幼い精霊はペディと呼ぶんだが」

「幼い?おじさん精霊の歳分かるの~?」

「まさか」

ヨーシフが笑って首を振る。

「ただ、こいつらはまだ姿を定めてないだろう?歳くってりゃ自然と姿も定まるもんだ」

「ヨーシフ殿は精霊にお詳しいのですか」

「いやぁ、詳しいって訳じゃあないんだが。……家族みたいなもんかねぇ」

「すげえ詳しいだろそれ」

ケネスがヨーシフの腕をガッと掴んだ。思わぬ所で救世主が現れたかもしれない。



ヨーシフの故郷は元々は北にある大山脈の中にあった名もない集落で恐らく隣国だそうだ。子供の頃に大規模な山崩れがあって数家族で山を下りたので詳しい場所が定かではなく、今もあるのかも分からない。

集落の周りには精霊達が自由気ままに暮らしていて、厳しい自然の中でその力を借りて暮らしていたらしい。



精霊達が普通に山に住んでいるという話がまず驚きだ。なんかよく分からない異界とかに住んでいるのかと。

「集落の人達、精霊使いだったの?」

「そんな大層なもんじゃないさ。精霊が喜ぶ細工物を作ったらその礼に風を緩めてくれるとか。仲良くやってたんだ」

懐かしむような目で頬を緩めてびよん達を見る。

「で、で?ペディ?は成長するのぉ?」

「あぁもちろん。人と同じで、いろんなもんを食って段々と成長していくよ」

「……食う?」

セオが訝しげに眉を寄せる。びよん達が食事をしているところなど見た事が無い。リーンとケネスも「え。ご飯必要だったの」と慌てた。

「勝手に食う……吸収と言った方がいいかねぇ?普通は住み着いた場所の風とか雪とか食って力を強めるんだが」

そこでびよん達を見回して首を傾げる。

「こいつらは坊ちゃんらの魔力食ってるみたいだなぁ」

「え」

知らない間に食べられていたらしい。




ちょっと色々と衝撃だった。

まだまだ聞きたい事はいっぱいあったが、宿に役人と冒険者ギルドの職員が来たとかでヨーシフとイワンは部屋を出ていった。多分街に入った時の状況の聞き取りだろう。

「魔力食べるの?」

手のひらに魔力を出してみるがびよん達は特に反応しない。

「あ〜?でもほら、リーンが魔法の練習する時寄ってくるじゃん。あれってさぁ」

ご飯だったのか。

「倉庫の奥の池が好きなのもそれか」

秘密基地の倉庫の奥にある池はリーンの水魔法で出来た池だ。びよん達のお気に入り。

あれ。もしかしてしょっちゅう勝手に寄ってくるのって。

「ごはん……」

リーンが遠い目で呟いた。



「ふ、ふふ、ふは」

プルプル震えて笑いを堪えるケネスをじとりと見るが、プルプルが酷くなっただけだった。

「まあ、俺らも食われてるらしいけどな」

そうだった。ヨーシフは『坊ちゃんらの魔力』と言っていた。それに水魔法で作った池は今はもうびよん達の魔力で満ちている。あれはいったい。

「やっぱり、よく分からない」

セオとケネスもリーンの言葉に頷き、部屋の中を好き勝手に動き回るびよん達を眺めてため息をついた。


とりあえずヨーシフが戻ってきたら質問攻めにしよう。



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