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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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色々と衝撃だった夜が明けて翌日。今日は結界を張っていないので壊さなくていい。ただ、別の問題が。


「だぁかーらー、一匹だけ。他は帰ってくださ〜い」

ケネスがびよん達に言い聞かせているが抗議なのか激しくびよんびよんしている。ケネスの頭の上には引き続き小鳥バージョンの青びよん。

同調がかなり有用だったので道中にスキルレベル上げをしよういう事になったのだが、彼らは皆外に出るのが好きだ。自分も自分もと主張されている状況。



「一緒に行けるのは小鳥の青びよんだけだよぉ」

ケネスの言葉に全員がピタリと止まり、ギュッとなって色とりどりの小鳥になった。

「あ。やっぱり皆できるんだ」

「すげー目立つ」

「目に鮮やかですね」

「…………」

これ全部引き連れて歩いたら凄そうだ。口をポカンと開けているケネスをチラリと見る。

うん。謎の鳥使いの噂が立つかもしれない。



結局びよん達は交代で同行する事になった。

朝から疲れた顔をしてるケネスの頭の上でご機嫌な赤びよんが朱色の翼をバッサバッサしている。

ケネスの髪の毛が凄い事になっているが大丈夫だろうか。


「そもそもさぁ〜姿変えられるんならもっと前にさぁ」

なぜ自分が呼ぶ精霊は半透明のゼリーみたいな奴らなんだろうと苦悩していた時期は何だったのか。

「できるようになったのかも」

「何か条件があったとしても分かんねえけどな」

相変わらず意味不明な存在だ。





そうしてびよん達の謎に首を傾げたり、はしゃいで飛び回る赤びよんと同調しているケネスが酔ったりしながら街へと近付いていく。

森からは昨日よりも多くの魔物の視線を感じるがやはり出てはこない。不気味にザワザワと蠢いていて迂闊に森に足を踏み入れれば命は無いと警告されているかのようだ。

先へと進む程に嫌な感じが増していっている。



背中がゾワゾワする。森の中にどれだけの数の魔物がいるのか。もうこの道はこれ以上進みたくない。

「うぅーん。残念だけど」

「そ〜だねぇ」

「ん。戻るか」

いつも無茶をする三人が引き返そうと決断する程に森は危険な雰囲気を放っていた。

「その判断は正しいと思います。ただ、ここから戻るよりエンハの街の手前から西に抜けましょう」

街の手前で西の国境の方に道が分岐している。そのルートなら巨大蟻の魔物があちこちに巣を作っている平原も迂回して国境沿いに北に戻れるし、やばい気配がビンビンする森からも離れられる。それがいいと三人も頷いた。


少しでも森から距離をとる為に森に沿って続く道を横目に見ながら草地を進む。分岐はもうすぐ。

それにしても村で聞いた話もアマートの口ぶりもこんな深刻な感じではなかったのだが。



「うわ後ろ、馬車が魔物の大群に追われてる!」

警戒の為に赤びよんを上空に飛ばせていたケネスが叫びセオが舌打ちする。

ギリギリのところで保たれていた緊張状態が一気に崩壊する合図だ。ここから魔物達は全力で人に牙を剥くだろう。

三人が馬を全速力で走らせるがこの速度は長く持たない。

「振り切れるか?」

「多分無理ぃ〜!」

「仕方ありません。このまま街に入りましょう!」

分岐を通り過ぎてエンハの堅牢な石壁を目指して走る。背後からは腹に響くような地響き。

街でも異変に気付いたのか大慌てで大きな門を閉めようとしているのが見えたが、間に合いそうだ。



リーンは伸び上がってイワンの肩に掴まり後ろを見ていた。追われているという馬車が小さく見える。

どう考えても街に辿り着く前に魔物の群れに飲み込まれるだろう。既に何度も馬車に張り付かれて中の人達が必死に応戦していた。


少し遠い。もう少しだけ距離が縮まれば……。気付いたイワンがほんの少し馬の速度を弛めた。

「よし」

リーンの魔力が干渉出来る範囲に馬車が入ると同時に馬車の後方に大きな土壁を作る。一瞬で壊されるがその一瞬の間に一枚追加。次の一瞬でもう一枚、更にもう一枚。

魔物達の動きを一瞬だけ留める壁を次々と作り次々と壊される。遂に馬車が魔物の群れを引き離した。

更にリーンの背中、進行方向から矢が飛んでいき馬車の屋根に引っ付いていた猿のような魔物と御者台に飛びかかろうとしていた狼の魔物をほぼ同時に射抜く。その神業のような腕前にふふと笑い、最後に馬車の後方の広範囲に出来るだけ分厚い土壁を複数作って終了。前を向いて座り直した。

セオがケネスの馬にピタリと並んで並走し二頭の手綱を操っていたらしい。

「イワン、セオ、ケネスありがとう」

「お見事です」

「おう」

「どういたしまして〜」

無事に四人を乗せた馬三頭が門をくぐり、少し遅れてボロボロの馬車が滑り込んで門が閉じられた。




「あぁ、本当に助かった。ありがとう。もう魔物の餌になるほかないかと……ん、んん?もしや坊ちゃん達は」

馬車を操っていた大きなお腹のおじさんがお礼を言いに来た。この商人らしきおじさんには見覚えがある。そして馬車から降りてきた冒険者達にも。

「あーー!!あの生意気な子供達!」

「ちょっとザラ、お礼が先だよ」

「土魔法使いはチビちゃんの方だったか〜……マジで?」



冒険者達は向こうで騒いでいるのでとりあえず放置。

「いつぞやはありがとうございました」

イワンが馬を降り商人に丁寧に礼を言う。この商人は二年前ギールの街で高価な軟膏を安く売ってくれたおじさんだ。

リーンも降ろしてもらいニコリと笑いかけた。

「おじさん無事で良かった」

「やっぱりあの時の!こりゃあ随分と立派になられて」

あちらも覚えていてくれたようで「あの小さなお客さん達に命を救われるたぁなあ」と大きなお腹を揺らして笑う。



「よし、俺も男だ。命を救われた礼に有り金全部と」

「それはちょっと」

リーンが遮るとおじさんがキョトンとして「足りねえか」と眉を下げる。この人ほんとに商人なんだろうか。

「お礼ならさ、あの軟膏が良いなぁ〜」

「お袋が喜んでた」

リーンの両隣に来たケネスとセオが言うのに頷く。

「お母さんも凄く喜んでた。あれ一つずつ欲しい」

「一つずつ?そんなんでいいのかい」

「それが、いい」

おじさんが困った顔でイワンを見る。

「私も妻に一つお願いします」

可愛い物好きの妻に可愛らしい陶器に入った軟膏は大変好評だった。



じゃあ馬車の積荷丸ごとなどと言い出すおじさんを説き伏せ、後で一人一つ選ばせてもらう事になった。

「ひとまず移動しましょうか」

今いるのは街に入ってすぐの広場で、先程から続々と武装した兵士や冒険者達が集まってきている。門の外から魔物がギャアギャアと騒ぐ声が聞こえているしイワンの言う通り離れた方が良さそうだ。

「あ。街に入るお金」

元々入口に立っていた兵士を見ると苦笑していいから行けと手で示された。緊急時だからという事だろう。


「チビちゃん達、後でお礼させて。宿は西門の方の玉ねぎ亭がおすすめだよ」

アマートが一人でこちらに来てリーンに話しかけてきた。

「お礼は要らない。このまま魔物と戦うの?」

「そーそー。人遣い荒くて嫌になるね」

要らないと首を振ったリーンの頭を苦笑してそっと押さえお礼後でねと再度言ってヨシヨシと撫でた後に離す。

「だーいじょうぶ!あっという間に追い返すから。安心して宿でゆっくり休みな」

子供達を安心させるようにカラリと笑いかけ、後ろのイワンと商人に目礼して門の前の集団の元に歩いていった。




「さ、行きましょう」

イワンの言葉に騒めく広場を後にする。商人の定宿もアマートが言っていたおすすめの宿らしいので一緒に。

街の防衛戦は気になるけど、ここにいたら邪魔になる。

もう一度だけ門を振り返ったがもうアマート達がどこにいるのかは分からなかった。



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