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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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野営場所に着くまで魔物の数はどんどん増えていった。けれど多くの魔物が縄張りを越えて移動するという異常事態に警戒しているのか手は出してこない。

森の中からじっとこちらを伺っている視線がたくさん。



「鬱陶しい」

セオが森に向けて威圧を発動すると蜘蛛の子を散らすように逃げていく。でもまたしばらくすると戻ってくる。

もうここにテントを張ってから三回目だ。

「夕食を食べたら腹ごなしに少し間引いてきます」

「え」

見たい。凄く見たい。

三人が三人共キラキラ、いや一人ギラギラした視線をイワンに集中させる。が、

「ダメです。夜の森は坊ちゃん達にはまだ早いかと」

「ダメかぁ」

落胆の空気が漂った。イワンの言葉は絶対だ。

止まっていた調理の手を再び動かす。あ、ベーコンちょっと焦げちゃった。


「でも、同調スキルで見るのは構いませんよ」

リーンとセオがバッとケネスの方にキラキラとギラギラを向ける。ベーコンは完全に焦げた。




「いやいや。いやいやいや。無理でしょ」

「できる」

言い切るセオの横でウンウン首を縦に振る。前からびよん達とケネスは仲良しだしちゃんと指示も聞く。いける。

「それにこいつら飛び跳ねて移動だよぉ?絶対ついて行けないって〜」

周囲でびよんびよんしているびよん達を示して首を振るケネス。うーん確かに。

「シュッとしたらいいのか」

セオが足元の青びよんを捕まえて縦にグイッと引っ張った。

「ちょ、何してんの伸びてる、伸びてるからぁ!」

「伸ばしてんだろ」

「伸びても早くなんないよぉ〜」

青びよんがセオの手を透過して逃げたところをケネスがキャッチして元の形に戻そうと頑張っているが、恐らくあれは自由自在だ。伸びたのはお遊びだろう。


「やっぱたまに触れなくなるよな」

「触られたくない時は透過するみたい」

びよん達は割と気分屋なので抱っこされたくない時とかがある。そしてそんな時は通り抜けてしまって触れない。



セオと話してる間にも青びよんは伸びたままグネグネしててケネスが抱えて半泣きになっていた。完全に遊ばれている。

「ねぇ青びよん、ケネスがビュンビュン移動できるような形になってほしいんだって」

形が自由自在ならできるんじゃないだろうか。

ケネスの横にしゃがんで青びよんに話しかけると、そうなの?みたいな反応の後でギュッと縮まりケネスの腕の中で水色の綺麗な小鳥に姿を変えた。


……え。


「おい」

「リーン?え、なに、これ。知ってたの?」

「ううん。言ってみただけ」

二人の視線が突き刺さる。ここまで自由自在だとは全く思っていなかった。ただちょっと。

「足生えるかなって思って」

二人の視線が更に強く突き刺さった。




「まあ、良かったじゃねえか」

セオの言葉にもの凄く複雑そうな顔で頷くケネス。これならイワンについて行くのも問題ない。

「同調……同調ねぇ」

ケネスが難しい顔で唸っている間に青びよん(小鳥)の観察。びよん達には目も口も無いが小鳥はちゃんと小鳥だ。

クリクリした瞳でじっとケネスを見ていて可愛い。

「あれ」

じゃあ他のびよん達も姿を変えられるんだろうか。

周囲で飛び跳ねているびよん達の所に行こうとしたら首根っこを掴まれた。

「問題増やそうとすんな」

回収されて唸るケネスの元に戻される。後で試そう。

そしてイワンはこの間笑顔のままフリーズしていた。



「うぅーん。うー……あ?あ!できた!できたよぉ」

ほらやっぱり、とセオと笑いハイタッチする。

「あぁ~?でも調整が……んーこう、かな?」

何か首を傾げながら試行錯誤しているようだけど、調整?


「同調を使っている人物に許可をもらって触れると、視界のみですが共有できますよ」

ワクワクがウズウズになった頃、復活したらしいイワンが教えてくれた。セオと頷き合う。

「ケネス、触るね。許可してね」

「触るぞ。許可しろ」

「え?許可?なに……」

構わずそれぞれケネスの肩に手を置くと、なんとなく分かってくれたらしく視界が青びよんのものに切り替わった。

でかいケネスが見える。

「わぁ」

「おい。これ片目普通の視界とかできねえの」

「さっきまでできてたの!もぉ〜ちょっと待ってね」

ケネスの言葉の後に視界がブレて右目が普通の視界になった。調整ってこれか。



「びよん、飛べる〜?」

青びよんが答えるように翼を広げ「ピュイ」と鳴いて大きく羽ばたく。

そして次の瞬間リーンの左目には上から自分達を見下ろし、旋回しながら更に上昇していく光景が映った。野営しているまばらに木が生えた草地も、森も、道も全部見渡せる。

自分の目で見るよりも少し明るい。


「う、わぁ」

「……すげえな」

「ちょ、風うるさ」


薄暗闇の世界と黒い森がせめぎ合っている中で月だけが呑気にピカピカと輝いていた。



「あ、待って待って。切れる〜」

唐突にブツリと接続が切れたような感覚と一緒に視界が戻ってきた。パチパチと目を瞬いて辺りを見回す。

「あーあ。スキルレベル低いからすぐ切れちゃうねぇ」

さっき一回繋ぎ直したんだけどとケネスが苦笑している。

なんだか夢を見てたみたいだ。セオも頭を振っているので多分同じ感覚なんだろう。


「あの、私はそろそろお腹が空いて倒れそうです」

「あ。ご飯」

イワンの言葉で完全に意識が現実に戻った。

三人のお腹も同時にぐうぅと鳴いて不満を訴える。大変だ。




急いでご飯を仕上げて掻き込むようにして食べる。お腹空いてるのもあるけど、イワンの戦闘を見たい。

「ほらほら、よく噛んで食べてください。坊ちゃん達が急いでも仕方ないでしょう」

イワンが困った顔で言うが、イワンより先に食べ終わらなきゃならないのだ。だって、

「ぼーふぉーあべなふぁ」

「むんむん」

ケネスの言葉に頷く。

「…………なんて?」

「ケネスが同調スキル上げるんだと。二分しか持たねえし」

「……よく分かりますね」


感心したらいいのか呆れたらいいのか分からず変な顔になるイワンとベーコンを味わって大事に食べているセオを他所に二人が立ち上がる。

「ぼっふぉーはまべひふぁ!」

「べふぃふぁ!」

「飲み込んでからです」

さすがに怒られた。




「くぅっ脇腹がぁ」と悶えるケネスに回復魔法で胃腸の働きを活性化させて、どうにかイワンの準備が終わる前に四分持つようになった。ギリギリセーフ。

「良いですか、同調が切れたら終わりですからね。夜番以外はちゃんと寝るんですよ」

三人揃ってウンウン頷いて見送る。青びよんはイワンの頭の上に乗って満足そうだ。



同調スキルを使うケネスの両隣にリーンとセオ。左目に映る景色は凄い速さで黒い森に近付いている。

「視界全然揺れないんだけどぉ」

「重心ブレねえな。足運びがすげえ」

「音も全っ然しないよー。無音無音」

これ、全速力の馬より速い気がするんだけど。

「あ。魔物」

「あ?死んだな」

「……今、何したの」

何をしたのか分からないまま魔物は息絶えて倒れた。そして次の魔物も同じく。


続々と魔物が集まってくるが、全て視界に入ったと同時に倒れていきポイポイと収納鞄に入れられている。

ケネスによると聞こえるのは魔物の声と物音だけで、イワンの方は呼吸の音すら聞こえないらしい。何それ。

そして同調スキルの時間切れで視界が通常に戻った。



「分からないけど凄かった」

「あれは無理だろ。見えねえって」

「あの人、なんで普段のほほんと家事とかしてんの」

強いだろうとは思っていたが、これはちょっと。

全く理解できない高みというものが存在する事を知った夜だった。


あと、今はただの爺ですという言葉は撤回してもらおう。普通の爺があれだったら世界が滅びると思う。



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