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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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休憩中の四人の元にアマートが一人で歩いてくるのが見えた。イワンが立ち上がる。



「……壁?何これ」

「確認は終わりましたか」

ここに来る途中から訝しげな顔になり結界の手前でピタリと止まったアマートにイワンがにこやかに話しかけた。

「あーいや。申し訳ないんだけど、ちょっと魔法使い殿に手を貸して頂けないかなぁと」

ひとまず見えない壁はスルーする事にしたらしく、ヘラリと笑って申し訳なさそうに言う。

どうも落ちたパウルの救出に手間取っているらしい。穴が深いため自力では上がれず、穴の縁が熱を持っていて使ったロープが焼けて切れてしまったのだそうだ。


「ロープを差し上げますので冷えてからもう一度頑張ってください。私達はさすがに待てないので、終わったら穴を埋めてくださいね」

「うーん。なかなか鬼だね」

ニコニコと告げるイワンにアマートが苦笑する。

「不用意な行動で魔物が焼けた穴に仲間を落とすような馬鹿者共には充分過ぎる優しさかと」

表情を変えないまま首を傾げるイワン。

「あー……おっしゃる通り、デス」

アマートはバツが悪そうな顔で髪を掻き上げ天を仰いだ。




「ちょっと、別に難しい事頼んでる訳じゃないでしょ。こんな大穴開けられるなら人一人出られるようにするなんて簡単じゃないの!」

「ザラ、だからそういう問題じゃないんだってば」

「じゃあ何が問題だって言うのよ。そもそも穴塞ごうとしてたんでしょ?こんなの只の嫌がらせじゃない」

礼を言ってロープを受け取り大穴の方に戻ったアマートがザラと共に再度やってきた。

イワンがため息をつく。



「私達が手を貸さないのが嫌がらせ、ですか」

「だってそうでしょ。どうせあの穴を埋めるんなら、手間は変わらないじゃないの」

「おや。彼ごと埋め立てて良いのですか?」

「良い訳無いでしょふざけないで!」

「ふざけているのはそちらでしょう。人のすぐ傍で影響が出ないように魔法を使うのが同じ手間とは。それで彼が怪我でもしたら大騒ぎでしょうし。御免ですね」

良い笑顔で言い切るイワンに三人も心の中で同意した。

リーンは攻撃魔法以外は完璧に制御するしパウルを助ける手段など正直いくらでもある。だが原因を作った人物がこの態度では手を貸そうとは全く思わない。


子供のリーンが各種魔法を自在に使うというのが他人に知られるのは多少なりともリスクがある。

ニコラス達の村では、まず最初に村人達がこちらを助けようと声を張り上げて警告してくれた。魔物を呼び込むと分かっていて早くこっちに来いと口々に叫んでくれた。

怪我人の治療を手伝うと申し出たのはその返礼のようなものだ。彼らとは違う。




「ザラ、パウルが落ちたのは君がふざけたせいでしょ。俺も止めなかった責任があるし」

「わざとじゃないわ。それに、私だって責任を感じてるからこうやって交渉してるんじゃない」

聞こえてくるアマートとザラの会話に首を傾げる。責任を感じて他人に何とかしろと詰め寄る?分からない感覚だ。

子供がこの件に口を出したら余計にめんどくさい事になるのが分かっているので、うわぁと思いながら反応せずに黙々と片付けた。

あちらはイワンが魔法使いだと思っているようだし。



「準備は終わりましたか」

「うん」

「終わったよぉ」

「ああ」

「では出発しましょうか」

畳んだタープを括りつけた馬と他の二頭の馬をセオが引いてくる。他人の前では収納鞄は使わない約束だ。



「ちょっと!話はまだ」

「ザラ!」

アマートの険しい顔に怯んだザラの視線がウロウロとさ迷った後リーンに固定された。

「ねえ、あんたも酷いと思わない?私達本当に困ってるの」

「そっかぁ。頑張ってね」

「……は?」

ニコニコと頷くリーンに顔を歪ませる。一番素直そうな相手を選んだのだろうが。

すぐにセオとケネスがリーンの前に出て、イワンがヒョイとリーンを持ち上げ馬に乗せてくれた。

「てめえのケツぐらいてめえで拭け」

「コックローチの死骸の山に落とされた上に落とした本人コレかぁ。俺ならパーティー抜けるね〜」

二人が威圧を発動しているのかザラが後退る。アマートは「本当に申し訳ない」と頭を下げた。


セオが更に進んで拳を握って体を捻り、勢いよく目の前の何かを殴りつけた。

「ひっ」

ザラの小さな悲鳴と結界がひび割れる「ピシ、パキパキパキ」という音が重なる。セオがもう一度軽く叩くと涼やかな音と共に完全に砕け空気にとけていった。




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少し進むとすぐに関所があり銀貨を払って通る。ここからは隣の領だ。

冒険者でも商人でも無い子連れの旅人?と首を傾げられたが、イワンがドランの書状を出して「ご子息の武者修行のようなものです」と言うとすぐに納得した。跡取り選びの一環と思ってくれたようだ。



「あの人達は良いけど、穴は塞がなくて良かったの?」

後ろのイワンを振り返ってリーンが聞く。道の途中にあんな大穴があったら迷惑どころじゃない気がする。

「首に下げたプレートの色はBランクでした。Bランクなら自力でどうとでもするでしょう」

それなりに実力があり臨機応変に対応できなけれなれないランクだ。さっきはすぐ側に簡単に解決できそうな他人がいたので声をかけただけだろう。

アマートはまともなようだし、どうにもできないのなら最初に断った時に頭を下げて頼み込んでいた筈だ。



「えぇ。自分達で解決できるのにあんなに騒いでたのぉ?」

「ねえな」

二人はイワンの説明にドン引きしている。

「あの人達Bランクなんだ」

リーンの眉がへにょりと下がった。子供のような事をして仲間を危険に晒し、それを他人にどうにかしてもらうのが当然という態度の人間がBランク。

「冒険者などゴロツキと変わりません。しかしアレは考えを改めなければAランクには上がれないでしょうね」

Aランクになると貴族や国とも関わる事が多くなるためその人格も審査されるらしい。ちなみにSランクは色んな意味で人外なので関わってはいけませんと言われた。



「イワンは何ランクだったの?」

「ふふ。内緒です」

悪戯っぽく片目を瞑って答えるイワンにリーンは「内緒かぁ」と笑い、二人は胡乱げな視線を向ける。


このじいさんがその他大勢に紛れる筈がない。

実は元Sランクとか……と疑惑を深める二人とのほほんと笑い合う二人の一行は次の村へと馬を進めた。



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