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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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「なんかねぇ、凄く変な感じ」

結界に囲まれてのケネスの感想だ。気配が分かる人達は凄く違和感を感じるらしい。これが結界だと分かっていれば問題ないとは言っていたが。

あの後魔力を固めずに広げる練習をして失敗した分、結界が五枚重ねになっているせいもあるかもしれない。

消し方が分からなかったのだ。



朝食を食べて出発。結界はセオの一撃でも壊れずイワンが大剣で叩き割った。

「じいさんすげえな」

「うん」

「主力武器使ってるの初めて見たぁ。けど相手、結界……」

「うん」

「なかなかの強度でした」

「うん。五枚重ねだし」

多分一枚ならそんなに強くないと思う。


頼むから消せるようになってくれ。つーかなんで消せないのに重ねがけした。三人の心の声がひとつになった。




昨日ケネスが言っていた通り今日は森に近いルートに戻って進む。徐々に緑が多くなっていく。

左手側にはまばらな木々の奥に巨木の集まりがモコモコしているのも見えた。あれがマルツ村の東から続く森だろう。


「へび。クモ、おっきい。狼。狼」

リーンは昨夜失敗しながらもコツを掴み無事に魔力を広げて空間把握で周囲を認識する事ができるようになった。

ニコニコと感知したものを呟くリーンをイワンが微笑ましげに見ている。

「早いやつ。鳥。虫」

「虫、虫、虫、虫、虫……」

「おい」

「ちょ」

聞くともなしに聞いていた二人がぎょっとして声を上げる。そしてイワンが森に視線を向けて眉を下げた。

「まずいかもしれません」


ちょうどその時セオとケネスにも小さな気配が大群で地を這いこちらに押し寄せてくるのが感知できた。

「う、わ。ちょ、退避!退避〜」

慌てて馬に指示を出して駆け出す。

「コックローチですね。稀にドラゴンも喰らいます」

「集られんのか」

「ええ」

「無理、無理ぃ〜」

ケネスは半泣きだ。そして後ろからザザザザッという音。

リーンが振り向くと黒い波がこちらを飲み込もうと追いかけてきていた。



「追いつかれるぞ」

「ヤダヤダ無理無理無理無理」

ケネスが無理無理と言いながら後方に小さな壺をいくつか投げた。あれは頼まれてリーンが量産したやつだろうか。

首を傾げて壺の着地点を目で追うと、壺は地面に落ちた瞬間に弾けボッと周囲に火を撒き散らした。

「わぁ」

火の手前で一瞬黒い波が止まるがそのまま飲み込まれた。

ダメージは受けたようだが全体から見ると微々たるものだろう。すぐに火は消えてしまったようだし。

「火は有効です。が、かなり広範囲か高火力でないと」

なるほど。じゃあ、

黒い波の先頭らへんに大きな深い穴を掘りその中に炎の竜巻を発生させる。火魔法だけじゃあっという間に暴走するけど半分風魔法なら少しの間は制御できる。と思う。


背後でゴゥ!!と風と熱気が渦巻く。ちょっとアレが燃える空気は吸いたくないので風の防壁も背後に作った。

どうなったのか炎で見えないが、イワンや二人が馬の脚を緩めたので何とかなったのだろう。

あ、空間把握がいつの間にか切れてる。他に集中してしまうとダメみたいだ。

ひとつ頷き反省しながら風と炎をゆっくりと解いた。




「あぁぁぁ。良かったぁぁぁ」

ケネスが馬上でぐったりして額をグリグリ馬の首に擦り付けている。馬が迷惑そうにヒィンと鳴いた。

「あれ程の群れはなかなか見ないですね」

生き残ったコックローチがバラバラと森に帰って行くのを眺めながらイワンが呟く。

「大物の死骸でもあるんじゃねえか」

「恐らくは」

「ケネス大丈夫?水飲む?」

風の足場を作りひょいひょい移動してケネスの側に行き水が入ったコップを差し出す。

「ありがと。ありがとぉ。ううぅぅ天使ぃ」

水を一気飲みしても錯乱しているケネスの背を撫でているとセオとイワンが馬を進めてケネスの馬の前に出る。ケネスもシャキっとして道の先に視線を向け、リーンを自分の後ろに座らせた。



「あれ〜旅人なんて珍しい」

「は?子供連れ?って、ちょっとアレ」

「うわ、コックローチだ」

三人の軽装の男女が歩いてくる。冒険者だろうか。

「どうもこんちはー。もしかしてコックローチに襲われた?んで、まさか撃退した、とか」

洒落た格好をして髪型も整えてある金髪の男が人好きのする笑顔で前に出た。ただ目は鋭くこちらを警戒している。



「ええ。どうにか。そちらはこの先に進まれるのですか」

イワンが馬を降り前に出て金髪の男と向き合った。

「いやぁ。この森の調査を依頼されたんだよねー」

「調査、ですか」

「そそ。エンハの街周辺で普段見ないような魔物がウロつき出したからさ。数も一気に増えたし」

「なるほど。それでその原因があの森にあると」

「この辺は逆に急に静かになったって話だったからねー。大物でも来たのかなって見に来たけど」

「コックローチの大量発生が原因、ねぇ」

金髪の仲間の女が呟くように言い、こちらに値踏みするような視線を向ける。

三人も子供を連れていて厄介な魔物の群れを撃退した事、その一行の後ろに見える黒煙を吐き出す大穴。普通に考えて警戒するだろうなとイワンは苦笑した。




「……あー」

「私は見ない。二人はちゃんと確認して」

「え、ズルくない?じゃあ僕も。わ、え、やめ、ぎゃあ!」

何やら金髪男のパーティーが大穴を覗き込んで騒いでいる。

金髪の洒落男アマートと茶色の短髪で気が強そうなザラという女性、それと人が良さそうなマッチョのパウルだ。

三人共恐らく二十代半ばぐらいだろう。


「女ともめてマッチョが落ちた」

「ひぃぃ。何してんのほんと何してんの」

「わぁ。大変そう」

彼らが大穴を確認中四人は少し離れた道の脇で休憩だ。先を進む前に穴を塞がなければならないが、アマート達が報告するので確認させてくれと言ってきたのだ。

特に不都合も無いのでじゃあ終わったら呼んでほしいと伝えてタープの下でのんびりしている。

ケネスの希望により周囲を結界で囲って浄化をかけた。生き残りのコックローチに集られると困るので今回は馬も結界の中だ。でも結界はともかく、浄化?



休憩中にコックローチという魔物について聞いたら三人に変な顔をされた。

あれは生物や生物の死骸を好んで喰らい瞬く間に増殖する悍ましく厄介な魔物で、虫の魔物の中でも特別に嫌悪されているらしい。なんでも人によっては名前を聞いただけで悲鳴を上げて逃げ出す程なんだとか。

「え。じゃあパウルさん」

「絶対に、絶対に近寄らないでほしい」

ケネスが真っ青な顔で首を振る。イワンは苦笑していてセオは我関せず。まったりお茶を飲んでいる。

「そっかぁ。じゃあ来たら水洗いかな」

「やめてあげて下さい」

リーンが汚れ物を洗う時に水球の中で激しい水流を発生させて雑に丸洗いするのを思い出したイワンが即座に止めた。

人なので多少は加減しようと思っていたが。

ダメかぁ。じゃあやっぱり近寄らないでもらおうと頷く。



今現在酷い災難に見舞われているパウルは更なる災難が用意されていた事もそれが未然に防がれた事も知らず、割と本気で泣きながら悲鳴を上げていた。



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