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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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村に怪我人がいるようなので、薬師と回復魔法使いだと告げて案内してもらった。

案内してくれた人はリーンとケネスがついて行ったので何度も振り返って見てくる。イワンが行くと思ったらしい。


二人は一緒に行っても役に立たないからと言って熊を解体している。熊肉は下処理に手間がかかるのでお昼ご飯に食べるのはちょっと無理だ。収納鞄に入れて帰ってからワイン煮にでもしようかな。




「ここです、が……」

ほんとに?と言いたげな顔で建物を指さす案内人に頷いて中に入る。途端にぶわっと血の臭いが押し寄せてきた。

ざっと見渡すとこの広い部屋にいる怪我人は七人。土気色の顔で両膝から先を欠損している男性が一番酷い。他の六人はとりあえず命の危険は無さそうだが。


欠損。欠損した箇所を再生できるのは回復属性が強くてスキルレベルが高い人だけだ。リーンは試した事も無い。

再生できなくても傷口を塞いで治療すれば命は助かる。助かるけどその後この男性はどうやって暮らしていくんだろう。

きっと、あの暗いドロドロに飲み込まれてしまう。



「あんたらあの化け物倒してくれたんだってな。礼を言う。寝床も食事も提供するし報酬も支払う。だから……ちょっとだけ、外で待っててくんねぇか」

男性の傍でその手を握って座る若い男が静かに口を開いた。

目線は男性に向けられたまま。一瞬でも目を離したら終わってしまうんじゃないかという恐怖はリーンにも覚えがある。


過去の自分とあの若い男の姿が重なる。大きく息をして両手をグッと握りしめた。

出来るだけやってみよう。記憶の中の自分の為にも。



男性のすぐ傍に近付くと若い男が眉を顰めて顔を上げた。

「おい、だから」

「大丈夫。助かるよ」

ニコリと笑って膝をつき床に寝かされている男性に両手をかざす。大量の魔力を込めて男性の膝の途切れた部分から先を形作っていく。

人の体の構造についてはケネスと一緒に学んだから知っている。学んだ知識と時魔法で読み取った数時間前の男性の情報を元に回復魔法でその時の姿に戻す。

脚が再生されていくと同時にどんどんと魔力が消費されていくのを感じる。本来できない筈の事を魔力量のゴリ押しと時魔法を混ぜる事で無理矢理やっているせいだ。

あ。このままいくと魔力が少し足りない。



「ケネス、魔力、ポーション」

ケネスは念の為この旅に各種ポーションを作って持ってきている。小さな壺に入れているので魔力は徐々に抜けていくがポーチに入れておけば問題ないので。

「え、あ、うん」

奇跡とも呼べる光景に周囲と同様に見入っていたケネスがハッとしてポーチから魔力ポーションを取り出しリーンの首に後ろからかけた。ポーション類は肌からも吸収できる。

額に汗を浮かべて集中するリーンに飲む余裕は無いだろう。

念の為もう一本。一度に沢山使うと中毒症状が出る危険があるが、二本程度なら問題ない。

「ありがとう。でも冷たい」

ふふと笑っていつも通りの調子でリーンが言う。

ケネスが視線を向けると、男性の両脚は最初から何も問題無かったかのようにしっかりと存在していた。



男性は他に肩と脇腹を負傷していたが、そちらは通常通りの回復魔法で治せる。ケネスが多めに魔力を回復してくれたので、傷をサッと治療して弱った体内も癒し失った血を再生させる魔法もかけた。

男性の顔色が良くなったのを確認したところで視界がチカチカと明滅する。ここまでで限界だ。

「ごめ。ケネス、後お願い」

「大丈夫、任せてぇ。お疲れ様」

ケネスがリーンをひょいと抱えて隅に運び自分のマントを床に敷いて座らせてくれた。慌ててこちらに来ようとする村の薬師と怪我人達に首を振る。寝れば治るから。というか怪我人は安静にしててほしいんだけど。


ケネスはポーションで濡れたリーンの首と背中を布でワシャワシャ拭いて怪我人の所に戻っていった。

壁に寄りかかりながらその後ろ姿を見送り、村の薬師と話をしてテキパキと残りの人達に必要な処置をしていくのをぼうっと眺める。もう一回魔力ポーションを使う可能性もあるかと思ったが回復魔法無しでも問題無さそうだ。

先程脚を再生させた男性が目を覚ましたのも見えた。若い男が泣きながら何か喋ってる。ケネスがすぐに気付いて診察に行ってくれた。



もう大丈夫だ。何か問題があればケネスが対処してくれる。

後を丸投げする事に申し訳なさを感じながら安心して瞳を閉じようとすると、若い男がこちらに走ってきた。

「あり、ありがとう。ありがとう。本当に」

号泣しながらリーンの体温が下がった両手を握って礼の言葉を繰り返す男にふわりと笑う。

「ふふ。良かったね」

良かった。過去に絶望した自分の記憶とは別の未来にできた。その事に湧き上がる嬉しさを感じたのがその場での最後の記憶となった。ちょっと、もう本気で限界。




------------------------------




目を覚ますとどこかの部屋のベッドに寝かされていた。部屋に入り込む日差しはオレンジ色で、朝なのか夕方なのか。

「あ、起きたぁ」

「お前ほんとすぐ無茶すんな」

ニコニコ笑うケネスとため息を吐き出すセオ。

「ん。心配かけてごめんね。……イワンは?」

ゆっくり起き上がりながら辺りを見回す。当たり前だが見てもどこなのか全く分からない。

「イワンさんはこの村の士爵様と話してるよぉ。ここは士爵様の家で、リーンが脚生やした人」

「あのおっさんさっきまで死にかけてたってマジか?普通にピンピンしてたぞ」

「死にかけって言うか、ほぼ死んでたねぇ」

どうやら今は夕方で男性は元気になったらしい。良かったとウンウン頷いてハッとして顔を上げる。

「あ。野営」

「緊急事態〜」

「緊急事態だ」



楽しみにしてたんだけど。人喰い熊?の襲撃に怪我人達の治療は確かに緊急事態だ。翌朝までは怪我人達の経過も見る必要があるだろうし。

リーンが納得して頷くと部屋の入口から扉をノックする音が聞こえた。

「はいは〜い」

ケネスが応えると扉が開き、先程治療した男性がしっかりとした足取りで室内に入ってくる。と思ったらその後ろから飛び出す影。さっきの若い男だ。

こうして元気な姿を並べて見ると男性と若い男は切れ長の目と口元がよく似ている。親子かな?兄弟かも。



「あんた、目覚ましたのか!」

輝く笑顔で走ってきてそのままベッド脇に跪きリーンの両手をぎゅっと握る若い男。

あれ。さっきは凄く静かな印象だったのに。

それぐらい喜んでるって事かなと思いニコリと笑って頷く。

「うん。ベッド貸してくれてありがとう」

「そんな事に礼を言う必要なんか無い。本当に、本当に感謝してる。あの時はもう、ダメなんだと……」

首を振って、話すうちにその時の絶望を思い出したのか涙ぐむ男。握られている手が細かく震えるのをポンポンと叩いて宥め再度ニコリと笑いかけた。

「元気になって、良かったね」

感極まったような表情でリーンを見る男。



「……俺と、結婚してくれ!」

「お断りします」

骨髄反射で断った。



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