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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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「ひぃぃぃやぁぁぁぁ〜」

岩山をくり抜いて作った長いトンネルをケネスが悲鳴を上げながら水流に流され滑っていく。

「おおぉぉぉぉぉぉ」

続いて聞こえるのは悲鳴なのか雄叫びなのか。セオではない。ハドリーだ。

バシャーン!という派手な水音が二回続けて聞こえ、さっさとどけとかそっちがぶつかってきたんでしょ、なんて言い合う声も聞こえてくる。


「ケネスー、ハドリー、怪我しなかったー?」

池の真ん中の岩山から下を見下ろして声をかけた。

ケネスがハドリーを水に沈めてヒラヒラ手を振っている。大丈夫そうだ。

「良かった」

「あいつすげえ顔して落ちてったな」

「ふふ。うん」

ハドリーはトンネルの入口で引き返そうとして後ろ向きの四つん這いで滑っていった。ハドリーには悪いがちょっと、だいぶ面白かった。



今日は念願の水遊び。

青びよんが前に綺麗にした池で皆で遊んでいる。ハドリーはここに来る途中で絡まれたのでそのまま連れてきた。


池の中央には以前は無かった大きな岩山。外側に木で階段を作り、内部をぐるぐる回るようにトンネルを掘った。トンネルの中は一度火魔法で溶かしてツルツルにしてある。氷コーティングは却下された。

そして池の水を岩山の上に汲み上げてトンネル内に流す仕組みまで付いている。ケネスの指示通りに岩山に穴を掘っただけなので何がどうしてそうなるのかは全く分からないが。



「いくよー」

下に向かって叫んで走り出し、階段の反対側に作った飛び込み台から勢いよくジャンプした。

フワッと自分が軽くなったような気がした後で何とも言えない内蔵が浮き上がるようなゾワリとする感覚。自然と体を丸めたところでドボーン!と水に落ちた。

この辺は深くしてあるので底にぶつかる事はない。水をかいて水面に出ようとしたらその前にケネスに引き上げられた。

「ぷあっ」

「なんでそー思い切りがいいんだろぉね。も〜、お尻ぶたなかったぁ?」

「あははは!ぶった!」

お尻が痛いし鼻もツーンとする。でも楽しい。

満面の笑みで答えるリーンにケネスも仕方ないなと笑う。

「お前ヘッタクソだな」

「ふふふ。うん。そうみたい」

鼻で笑うハドリーにもニコニコと返す。憧れの飛び込みを初めてやったので大満足だ。



でも上手な飛び込みってどんなだろう。ハドリーに聞こうと口を開いたら腕を引かれた。

「セオも飛び込むみたい」

ケネスに引っ張ってもらいながら上を見るとセオが飛び込み台の端からこちらを見ている。手を振ったら片手を上げて応え後ろに大きく下がった。

ワクワクと見守っているとタン、タンと跳ねるように走り力強く踏み切って青空に舞い上がる。すぐに体を丸め、縦に二回転した後真っ直ぐ頭の先に揃えた両手から着水。ザン!という水音の後に静寂が訪れた。


今、何を見たんだろうか。

水遊び……水遊びってなんだっけ。


「あ?何ボケっとしてんだ」

「セオォォォ」

セオが耳に入った水を抜きながら岸に上がるとリーンとハドリーの魂がどっか行ってた。そしてケネスに両肩を掴まれてガクガクされる。なんでだよ。



その後無事に魂が戻ってきたリーンが「あははあはははは」と爆笑しながらトンネルを流れ、セオは「お」と一言だけ漏らして流れていった。

「リーンの爆笑初めて見たんだけど」

ケネスが真顔で呟く。まさか壊れたんじゃないだろうなと真剣に悩んでいる。

「おいあいつ何なんだよ。何があんなに面白いんだ。つーかおってなんだ。おって!」

「あーあれね〜。それはさぁ〜」

後ろに煩いのを引き連れてちょっと移動。位置調整。煩いのをちょっとだけ優しく押す。

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」

流れていった。


トンネルの出口は柔らかい砂が敷き詰められているので大丈夫だろう。




東屋でお昼ご飯。冷えた体を温める効果のある薬草入りスープ、肉の香草焼き、それとチーズとパン。土で作って焼いた器にスープを注ぎ皿に肉を山盛りにしてそれぞれの前に置く。自分のは小盛り。

「召し上がれ」

ニコリと笑って出された許可に飢えた獣達がわっと肉にかぶりついた。

「ううぅめぇ!」

「そっかぁ。良かった」

ガツガツ食べる三人を眺めながらスープに口をつける。自分で思うより体は大分冷えていたらしい。温かいスープにホッと息をついた。


「リーンはどんどん料理の腕が上がるねぇ。これ肉にも薬草使ってるの?凄く美味しい」

「うん。夏だし。胃腸を整える薬草入れてさっぱり風味」

ケネスのおかげで薬草に詳しくなった。料理にはどうやっても使えないような物も多いが、あれこれ試してみている。

「なるほどね〜。こんな使い方もあるのかぁ」

「さっぱりしてんのもいいな」

「…………!!」

一人食べるのに夢中過ぎて無言だが、全員から高評価をもらった。これは『良』と頭の中のレシピにメモする。

また今度作ろう。



「お前らいっつもこんな旨いもん食って、いっつもこんな楽しく遊んでんのか!」

皆で食後のお茶を飲んでいたところで突然ハドリーがくわっと目を見開いて吠えた。さっきまでまったりしてたのに。

セオはめんどくせえなと顔に書いてあり、ケネスは今更かと呆れた視線を向けた。

そしてリーンはニコニコしている。

「美味しかった?」

「うま……まあまあだな!」

「楽しかった?」

「まあまあだ!」

「そっかぁ。良かったね」

「おう!良かった!」

良かった良かったと頷きお茶を飲むリーンと変な顔で固まるハドリー。最近よく見るパターンだ。

二人はホントこいつ懲りないなとため息を吐いた。



「ハイハイ。リーンが作ったから残りで片付けするよ〜。ほらハドリーも皿持って」

「お、おう」

「じゃあお前皿洗いして片して竈の掃除な」

「セオ!虐めないのぉ!」

わちゃわちゃと遠ざかっていく三人を楽しそうだと眺めてニコニコするリーン。

ハドリーがリーンを見る瞳には強い嫉妬と敵愾心があった。昔は。今はほとんどそんなものは見えない。条件反射で文句を言ってくるだけだ。


普通に仲良くしてくれればいいのにと思った後に、彼はあのよく分からない言動が魅力なのだと思い直した。

是非このままでいてほしい。




その日は午後まで遊び尽くし大満足で水遊びを終えた。

帰り道でこれは普通の水遊びではないとケネスとハドリーに言われ、セオと二人で首を傾げたが。


箱入り気味のリーンと友達が二人しかいないセオはこういうイベントにとても憧れている。そして憧れのままにあれこれと想像して彼らの中で色々と壮大なものになっている事をケネスはまだ知らない。

そしてこれから先も想像を実現出来てしまう無駄に能力の高い二人に巻き込まれるという事もまだ知らない。



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