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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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今日はイワンの授業の日。

「ドラゴンは基本的には温厚な生き物です」

「温厚」

「どあごん!!」

出会い頭に咆哮で硬直させてブレスを吐くのは温厚と言えるのだろうか。膝に乗っている弟のぽわぽわした髪を撫でながら、うぅん?と首を傾げた。


リーンの様子に苦笑しながらイワンが続ける。

「攻撃を加えたり寝床を荒らしたりしなければ、こちらに攻撃してくる事はほぼありません。ただ特に理由も無くブレスを吐いたりはしますが」

「えぇ」

「えー?」

「良くも悪くも人という生き物を気にしていないのです。私達が蟻や羽虫を見るような感覚なんでしょう」



なるほど。散歩していて蟻の巣を踏んでしまっても気付かないし、部屋に羽虫が入ってきたらやだなと思う。そんな感じだろうか。

話を聞きながらオズの頭に頬ずりした。くふ、ふふ、と抱えている小さな体が揺れる。擽ったかったらしい。

温かくてプニプニしててフワフワしてるオズは世界で一番可愛い生き物なんじゃないだろうか。


リーンの外出禁止はまだ続いている。そしてそれを大歓迎しているのがオズだ。

いつもは出掛ける事が多くて忙しいお兄ちゃんがずっと家にいるので、大喜びで雛鳥のようにリーンの後をついてまわっている。とても可愛い。

そしてその光景をクレアが凝視して胸を押さえている。本人も皆も大丈夫だと言うけれど。大丈夫だろうか。



「怒っている時のドラゴンの咆哮は、強化魔法などの効果を消し飛ばし『恐怖』という状態異常を引き起こします」

「恐怖」

「どあごんおこる?」

「はい。体が硬直してパニックや茫然自失となり、酷ければ失神します。レジストに失敗すれば死を待つのみです」

え。その状態で自分に穴を掘って逃げるように指示したジャックは凄いのでは。


パチクリと大きな瞳を瞬いているとイワンが頷く。

「恐らくドラゴンが激怒していなければ問題なく退避出来たと思いますよ。通常は逃げるのを追いかけてまで攻撃はしませんので」

ただ、そういった習性を知っているだけに油断があっただろう事はいただけませんと眉を顰めてため息をついた。



先日出会った火のドラゴンの他に水や土のドラゴンなどもいるらしい。大体は人に対して無関心だが何がきっかけで叩き潰されるか分からない。そんな存在。

過去に彼らを怒らせて壊滅した街や滅んだ国の話を聞けば、今回の自分が余程運が良かったんだと思えた。イワンはあのドラゴンは大きさから見てまだ若い個体だろうと言う。

え。普通もっと大きいの?アレより?


近寄らない事にしよう。あと短距離転移の練習頑張ろう。

ウンウン頷くリーンの膝の上で分かったような顔で同じく頷くオズ。

オヤツを持ってきたクレアがまた発作(?)を起こした。




庭に出て短距離転移の練習。オズはお昼寝。

転移の魔法自体は早くに習得したのだが、最初は移動距離がとんでもなく短かった。ん?ズレた?ぐらい。

やっと意味があるぐらいの距離を転移出来るようになったけどやっぱり発動に時間がかかる。もっとシュシュシュっと移動出来れば戦闘中も逃げる時にも役に立つのに。



考え事をしながらも体は短距離転移の魔法を繰り返している。外出禁止の間に暇をみては練習しているが、中々発動までの時間が短くならない。

水や風や土ならこうしようと思ったら即座に発動するのに。

転移の魔法は発動しようと思ってから二、三秒は気合いを入れなければ発動しない。戦闘中だったら普通に八つ裂きになっているだろう。

一旦止まってうぅーんと首を傾げる。何か、解決策は無いだろうか。問題は魔力操作?いや水魔法なんかはパッと発動するのだからやっぱり空間魔法のスキルレベルか。地道に練習するしか無いかなぁ。



あ、一度にもっとたくさんの距離を移動出来ないかな。戦闘中はダメだけど逃げるだけなら一度で安全な距離に逃げられる方がいいし。

よし、と頷いて転移の魔法に魔力を注ぎ込む。家を挟んで反対側まで行ける?ドラゴンみたいな大きいのが相手だとそれでも足りないかも。安全な距離……安全な場所って。


庭に居たリーンがふっと消えた。




トス。

ん?何か踏んだ。何かと思って足元を見ると熊。……熊?

「…………」

「ちょ……え?リーン?えぇ?」

「おま、どっから」

顔を上げるとびっくりした顔のセオとケネスと師匠。

「あれ。ここどこ?」

キョロキョロと辺りを見回すと見覚えがある。森の入口にある解体作業用の広場だ。


「待て待て待て。坊ちゃん今どっから来た?外出禁止じゃぁなかったんか?」

「あ」

そうだ外出禁止。慌てて庭に戻ろうともう一度転移魔法に魔力を注ぐ。確かこのぐらいで……。

「おい、待」

「ちょ…説」

「坊ちゃ」


戻ってきた。それにしても転移ってあんなに遠くに行けたんだ。ちょっとびっくりした。

「坊ちゃん」

振り向いたら目の前に笑顔のイワンがいて、即座にガシッと捕獲された。



すぐ後にセオ達も大慌てで家にやって来て囲まれた。

「坊ちゃん、転移で森の近くまで行ったのですか」

「突然だぞ突然。なーんの前触れも無かった。あぁーくっそびびったぁ」

イワンが眉を下げて言い、ラウロが疲れたように言う。

普段当たり前のように周囲の気配を読んでいる人にとっては、突然気配が消えたり現れたりするのはゾッとする出来事らしい。涙目で鳥肌のケネスにぎゅうぎゅうされながら首を傾げる。分からない感覚だ。


「僕も、あんなに遠くに行けると思わなくて。びっくりしたんだけど」

「行けません」

ん?笑顔で首を振るイワンと目を合わせる。

「今の時代の人は、目視出来ない距離に転移は出来ません」

あ、また古代の人のやつ。

ニコニコしたイワンと三人の呆れたような視線の中、これも保留とウンウン頷いた。



その後なんで解体用広場に行ったんだと聞かれ、安全な場所って思い浮かべたらなんでかあそこに転移したと答えた。

セオとケネスがやる気を漲らせていて師匠に「燃料投下すんなアホ」とデコピンされた。なぜ。



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