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「…………」
「…………」
「…………」
三人の前にびよんびよんしている半透明の集団がいる。いつもの光景ではあるが。
瞳を瞬くリーン、鋭い眼光を光らせるセオ。ケネスは明後日の方向を見ている。
「えっと。初めまして」
見覚えの無い黄色いびよんを前にペコリと頭を下げた。
びよんびよんしていた半透明な物体がピタリと止まりぐにゃっと半分から折れ曲がる。
挨拶してくれた。パチクリと目を瞬いた後パアッと笑顔になるリーン。その背後でセオの眉間のシワが深くなる。
「おい」
ケネスは明後日の方向を見ている。
「おいこら」
「……増えてたんだよぉ〜。分かんないけどぉ」
ケネスがわっと頭を抱えた。増えたらしい。
その日は特に予定も無かったので、付与のスキルレベル上げをしながら夏の計画を立てようかなと思っていた。最近ポカポカを超えて暑いと感じる事も増えてきたし。
そんな時にケネスがセオを連れて訪ねてきた。珍しい。
相談があると言うケネスにセオと二人首を傾げながら三人で秘密基地にやってきたのがさっき。
で、今これ。
「お友達増えて良かったね」
びよん達は新入りと一緒に楽しそうに跳ねている。喜んでいる?ような。
ニコニコとびよん達を見守るリーンに呆れた視線と困惑した視線が刺さるが気にしない。そもそも彼らの事は考えても何も分からないのだ。
「あ、そうだ」
何か思いついた様子で誰も居ない方へ歩いて行くリーン。二人の視線が追いかける。その後姿がスっと右手を上げて、
ドォーン!!
地面がビリビリと震える。チマっとした姿の奥に高さ5、6メートルはある巨岩が出現していた。
「え、ちょ」
「何してんだ?」
リーンの攻撃魔法がめちゃくちゃなのは周知の事実だが、土属性はその中でもまだまともな部類だ。人の頭ぐらいの石を落とそうとして成人男性サイズになる程度。風や雷も同じく。火と水が一番まずい。
という事は、あれは元々かなり大きな岩を落とそうとしたと思われる。……なんの為に?二人は顔を見合わせて、岩の前でウンウン頷いているリーンの元に向かった。
「リーン、なんか居たのぉ?」
「おいコレどーすんだ」
リーンが二人にフルフル首を振る。
「えっと。いつもの、これぐらいの石を落とそうとしたらこうなった」
これぐらい、と両手を自分の体の幅より少し狭く広げる。
「え……」
「土もか」
ついに土属性まで大暴走し始めた。
リーンの魔法が暴走するのは攻撃系に限られるので、恐らく攻撃魔法を強化するスキルを持っていると思われる。教会で調べた時には無かった筈だが増えたのだろう。
ただ属性で偏りがあるのが分からない。そして今日、超強化される属性が増えてしまった。
「えぇ?なんだろう。スキルレベルで属性の強化具合が変わるとか〜?」
「これ、いつからだ」
セオの質問にニコリと笑って答えた。
「今」
……今?まさか。二人がゆっくりと後ろを振り向き、新しく増えた黄色のびよんに視線を向ける。
「びよん達は、属性を強くしてくれるんだと思う」
なるほど。そういう事らしい。
リーンが攻撃魔法の練習をするのはここ。そしてここに来るとびよん達は自由行動で、リーンが魔法の練習を始めると集まって来て応援(?)している。
「じゃあ〜黄色は土属性って事かぁ」
「赤が火で青が水だな」
「そんで緑は木属性でしょ〜?」
「うん。白びよんと黒びよんは……光と闇?かなぁ」
木魔法はびよん達の近くで使った事が無いが、緑びよんは植物を成長させるので木属性で確定だろう。白と黒も後で調べてみなければ。
「それプラス、やっぱり攻撃魔法強化のスキルも強いの持ってるっぽいよねぇ」
先程びよん達から離れて試してみた。火と水はいつもより大人しくはなったが、やっぱり規模が大きいし他の属性はいつもと変わらない。普通に暴走している。
今まで火と水は二重の強化を受けていたという事だ。
そら大暴走するわ、と三人頷く。
「多分、属性魔法のレベルか、精密操作のスキルレベルが上がったら制御出来ると思うんだけど」
普段、攻撃魔法以外の魔法は驚くほど自在に操るのだ。攻撃魔法も自在に操るようになるのもそう遠くないだろう。
拳を握って気合いを入れるリーンに二人が頷く。
その後白びよんと黒びよんの属性を調べてみた。一匹ずつセオが小脇に抱えて運んでいく姿に助けなければと思ってしまうのは何なんだろう。
黒は何も強化されなかったので恐らく闇属性。
白は……明かりの魔法で三人目潰しを食らい回復魔法を使う阿鼻叫喚の事態となった。光属性だ。
そして更に後日。攻撃魔法の練習の時に寄ってきたびよん達を一度断ったらものすごくしょんぼりしてしまい、それ以降再び彼らの応援を受けながらの練習となった。
秘密基地に着いたら召喚しなくても勝手に出て来て自由に動き始めるびよん達に、もうケネスは諦めた。
秘密基地は今後も地形が破壊されていく。