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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
53/94

53 番外編2

リーンが居なくなってドラン達の方は大いに焦っていた。リーンの周囲には常に仲間がいたしセオとケネスもいた。

だがキャシーを抱えていたドランに人がぶつかりそうになり、誰もがリーンから一瞬目を離した隙に居なくなってしまったのだ。



この国では奴隷という物は無い。無いが人買いは居る。貧しい家庭の子供が家族に売られたり、借金を背負った人間が借金取りに売られたりして跡継ぎの居ない職人や人手の足りない採掘場などに売られる。

そういうまともな人買いは特に取り締まりもされていない。

取り締まりの対象となるのは見目の良い子供や女を攫って金持ちに売る人買い達だ。奴らに攫われればどんな目に逢わされるか分からない。早急に探し出さなければ。



「ウォードとセオは北門、ラウロとジャネットは南門だ。一時間後に一旦広場に集合。頼んだぞ」

各人が頷き散っていく。この村は南北にしか出口が無い。ドランとイワン、ケネスは村の中を捜索だ。キャシーは眠ったまま宿の女将に預けてある。

村に常駐する衛兵に話はしたが最初よくある迷子だと取合ってもくれなかった。メイソン侯爵家の紋章が刻まれた銅板を出し無理矢理動かしたが信用出来ない。ドラン達は逸る心を抑えてリーンが居なくなった広場の聞き込みに向かった。



「さっきも言ったが知らないよ。小さな子供ならその辺うろちょろして迷子にでもなったんじゃないか」

面倒そうに答える店主に舌打ちが出そうになる。硬貨を握らせようやく相手をする気になったかと思ったらこれだ。

「お館様、気が重いですが仕方ありません。侯爵様にご報告しましょう」

イワンが重い表情で発した言葉に店主がギョッとする。

「こ、侯爵様!?」

「えぇ。居なくなったのはメイソン侯爵様の親族に当たるお方です。次期ご当主様とも親しくされていて」

「ま…待ってください。でも、でもまだ全部の露天商に話を聞いていないし」

ケネスが真っ青な顔でイワンに縋る。

「ケネス、彼の世話役を任じられながらこの様な事態となったのは我らの不始末です。これ以上時間をかけて取り返しがつかなくなればどうなるか……分かるでしょう?露天商の取り調べは侯爵様にお任せしましょう」

青を通り越して真っ白い顔でガタガタ震えるケネスの肩を慰めるように撫でるイワン。それを見ている露天商達も顔色が悪くなっていく。

「さあお館様、一刻も早くギールに戻らなければ」


「待ってくれ!俺は怪しいと思ってたんだ」

「いいや、そっちより私の話を聞いとくれよ」

「これは噂なんだが……」


我先にと情報を提供しようとする露天商達。

ドランは頼もしい二人に心中で感謝して情報を順に聞き取っていった。



広場で集まり大人のみで北門に向かう。ウォード達が道を外れて続く真新しい轍の跡を三つ見つけ、露天商達の情報からそのうちの一つが怪しいとなった。

やけに金回りが良くその割に不定期にしか店を出さない女が所有しているというあばら家だ。女と親しい破落戸二人が睨みを利かせ、女の方は気前良く商品を買ってくれるので黙っていたとか。


子供達は宿で留守番。とても悔しそうな顔をしていたが、賢い子達だ。自分達が居れば足手まといだと理解して頷いてくれた。あの子達の為にも無事に連れ帰らねば。



近くに馬を繋いで足音を忍ばせて進み、着いたあばら家からは人の気配が複数。そして血の匂いが微かにした。鼻の良い狩人達が唇を噛む。伝えられたドランも拳を握った。

「普通、商品を傷付ける事などしません」

声を潜めてイワンがドランを励ますが頷くドランの顔色は悪い。何かがあったのは確実だ。


ウォードとジャネットが扉の前で頷く。ラウロが後方で弓を構えたのを確認してジャネットが扉を蹴破った。

「おらぁぁぁぁ!うちのチビさっさと返しな!」

「何もんだ!」

「くっそ!何なんだよもう!」

即座に立ち上がり短剣を構える年かさの男と慌てふためく若い男。床には殴られ手足から血を流す女。リーンが居ない。

「ぐっ」

「ぎぃ!」

それぞれ利き腕の肩に矢を受け、首に剣と槍を向けられる男二人。女の方は抵抗する気力は無さそうだがイワンがナイフを向ける。

「子供をどこにやった」

ドランの静かな声に年かさの男が舌打ちする。

「俺達ぁ知らねんだよ!そこの女に聞けよ!」

若い男がやけくそのように叫ぶのに、ドラン達の視線が女に集中する。ぐったりしているようだが致命傷は負っていない。

「あたしゃ……知らないって、言ってんだろ」

女の言葉に男二人が鼻で笑いため息をつく。リーンをどこかにやった女に制裁がされていたのか。

眉を潜めてドランが再度言葉を発する。

「もう一度聞く。子供を、どこにやった?」

「だぁかぁら!知らないって!いっ…」

吠えるように叫び身を起こす女にイワンが足払いをかけバーン!と大きな音を立てて女が倒れた。



狩人達とドラン、イワンが顔を見合わせる。女は嘘をついているようには見えない。これはどういう事なのか。


「つち」

この数時間待ち望んでいた声と共にズザァと土が崩れるような音。ピョコリと床から顔を出して「あ、お父さん」とニコニコ笑う土まみれの小さな姿に全身の力が抜けた。



その後三人を縛り上げ村に連れていった。ラウロが女の怪我に歩ける程度の回復魔法をかけようとしたが、リーンが自分がやると名乗り出た。

「だって、失敗しても大丈夫だし」

ニコニコと手を翳すリーンに女は真っ青になっていたが。

この子のこういうところはとても為政者向きだと思う。勿体ないなとため息を吐き、無事だったのだしそれだけで良いかと再度種類の違うため息をついた。




宿屋で涙ぐんだケネスにぎゅうぎゅうされてセオに頭をガシガシ撫でられた。自分としては寝て起きて、再度寝て起きたら迎えが来たのだが。随分と心配させてしまったらしい。


「みんな、助けてくれてありがとう」

セオとケネス、ドランとイワンと狩人達を見回して改めて伝えニコリと笑った。それぞれに無事を喜ぶ言葉をかけてくれてドランはゴシゴシと目元を擦っている。



皆のところに帰ってこれた。本当に良かった。

昔母親が死んで伯父に引き取られ、農作物も採れなくて食べる物に困っていた時。伯父さんに自分を人買いに売ってほしいと言って怒られた。

あの時は本気で構わないと思っていたけど、今日は何をしてでもどれだけかかっても帰ろうと思った。


帰る場所がある。そして心配してくれる人達がいる。

ポカポカする気分に嬉しいなぁとニコニコ笑った。



番外編はここで終了。次話から通常に戻ります。


人買いが普通にいる中で伯父さんは血の繋がった父親を探し遠方まで危険な旅をして送り届けました。

初期からあった設定ですがようやく出せて満足です。

ちゃんと大事にされていたと知っているのでリーンは伯父さん好きです。


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