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付与を頑張ってみよう。
先日近い将来に商会を作りリーンの付与品も商品にすると決まったので、色々と試してみる事にした。
まずはいつも通り付与の練習。中に木の枝が入った大きな氷を量産した後、付与で何が作れるかを考える。布は氷が溶けるまで使えなくなるのでやめた。
魔法の鞄は作れる。氷属性の布は練習。後は……?
「冷たい布の反対の温かい布、とか」
チラリと氷が山ほど入った桶を見る。火属性、派手に燃えそうだ。ちょっと顔を顰めてこれは保留にしようと頷く。
うーんと考えていると左手に着けたブレスレットが目に入った。もしもの時に身代わりに砕けるというのは何の魔法なんだろう。他にも付与品ってあるのかな。
一人で考えても良く分からないので元プロに聞く事にした。
「一般的な付与品、ですか」
「うん。どんなのがあるのかなって」
イワンが調理場で豆を剥いていたので、隣に座って同じく豆を剥きながら聞く。
身代わりの魔法は闇属性らしい。リーンは使えない。
「そうですね。属性付きの武器、属性付きのマントなんかは見ましたが。珍しい物だと時魔法で状態を固定した切れ味の落ちない剣もありました」
「属性付きのマント?」
マントがメラメラしてたりビリビリしてたり?
「ええ。迷宮には火山の中のような場所や常に吹雪が吹き荒れる場所があるので。マントにそれらを防ぐ効果を付与した物です。冷たい布とは逆の付与ですね」
暑さや寒さを防ぐような効果を付与する事も出来るらしい。なるほどと頷くリーンにイワンが続ける。
「属性付きの武器は魔法剣が使えない者も似たような事が出来るようになりますし、魔法剣が使える者が同じ属性の武器を持てば強化されます」
「魔法剣が強化」
セオのビリビリが強くなる。それはいいかも。
「ただ鉄と魔法は相性が悪いので、ミスリル製の武器でないと付与が定着しないそうですが」
「ミスリル」
詳しくは知らないが確か鉄よりずっと貴重な金属だ。セオのビリビリ強化はちょっとまだ無理そう。
豆を全部剥き終わり、お礼を言って調理場を後にする。
防ぐ効果の付与というのはいい話が聞けた。魔法のレベルか付与のレベルが上がらないと使えないかもしれないけど。それと鉄に付与は難しいらしい。
よし、気分転換に散歩しながらもう少し考えよう。
村の中を亜麻色の三つ編みを揺らしてテクテク歩く。
普段自分が使う魔法は雨を降らせる魔法、土で壁や屋根を作る魔法、空気の足場を作る魔法。どれも付与には向かなそうだ。うぅーんと周囲を見回す。
道の脇には木が生えていて蔦が絡まっている。木魔法で植物を急速に成長させる事は出来るけど、なんて言うかスカスカになる。野菜なんかを木魔法で成長させると味が薄くて美味しくない。緑びよんの効果と何が違うんだろう。
魔法繋がりであれこれ思考を寄り道させながら特に目的地も無く歩いていく。ポカポカして気持ちがいい。
「お前!こんなとこで何してんだよ!」
「あ、ハドリーこんにちは」
声をかけられたのでニコニコと手を振る。ハドリーは珍しく一人で、ザカザカと足音荒く近付いて来た。
「何してんだよ!あっちに行け!」
「散歩だよ」
「あっちに行けって言ってるだろ!」
「あっち?どうして?」
この辺は特にハドリーの家の近くでも担当の畑でもない。
「どうしてもだよ!あっち行けよ!」
「そっかぁ」
特に理由は無いらしい。ウンウン頷きまた歩き出す。
「おい!聞いてんのか」
「おい!」
ちょっと煩い連れが出来た。ハドリーは一人でも賑やかだなぁと笑う。
ちなみに彼は絶対に手は出してこない。以前リーンの腕を強く掴んで雷魔法でバチッとやられたからだ。昔攫われかけた後にイワンに特訓させられた。
使うとリーンも結構痛いのであんまり使いたくない技だが、自分から離して雷を発生させると標的が消し炭になるので仕方ない。
村の住人を消し炭にするのはちょっと。
「おいって!おま」
「ねえハドリー」
そうだ。ハドリーにも聞いてみよう。
騒ぐ声を気にせずニコニコ歩いていたのに突然くるりと振り向いたので、ハドリーがギョッとして一歩下がる。
「あったら便利な物って何かな」
「はあ?」
「あったら便利な物」
「……お前を、閉じ込める牢屋!」
「うぅーん?そっかぁ」
牢屋かぁ。それ自体は付与は関係無さそうと思いながらも、せっかくなので考えを広げてみる。
寒くて汚いジメジメした場所。温かい布は保留にしたので、綺麗になる布…絨毯?とかあったら便利かな。綺麗にする魔法って何を使えば良いんだろう。
「ありがとう。ちょっと考えてみる」
ハドリーはニコリと笑ってお礼を言うリーンを理解出来ないものを見たという顔で見送った。
ハドリーが変な顔で動かなくなったのでバイバイと手を振り、また一人でテクテク歩いている。
綺麗になる魔法。光属性の浄化とか?でもあれは毒とか呪いを浄化する魔法で別に綺麗になる訳じゃないし。
試しに自分のブーツに魔法をかけてみる。
「浄化」
スウっと清涼な空気が通り抜けたような感覚はしたが、泥汚れは付いたままだ。
「うーん」
凄く綺麗になった感じがするのに。感じるだけだ。ダメかぁとまた歩き出す。
ん?泥?そもそも泥が付かないようにしたら汚れないのでは。泥は水と土が混ざった物だ。水と土を防ぐ効果を付与すれば汚れないブーツになる。
ウンウン頷き頭の中の候補に入れる。他には何があるかな。
この日、村の各所で何かをじっと見て首を傾げたりウンウン頷くリーンが目撃された。
村の住人達は特に気にしなかった。いつもの事なので。