45
今日セオが向かったのは秘密基地がある森とは別の林の方だ。ケネスと一緒に村に近い場所を歩く。まだ戻って来ないと思うけど暇なので。こちらはあまり強い魔物も居ないので二人でも大丈夫だ。
「こっちにはあんまり来ないから新鮮〜」
「そうだね。森より明るい」
ここはいつもの森とは村を挟んで逆側。この林を抜けてずっと進むと国境となる広大な湿地がある。
隣国とは良好な関係らしいが交流があるのはもっと北の栄えている街の方なので、こちらの方は特に行き来は無い。
「あ、いたいた。あれじゃない?」
ケネスの指さす方を見ると武装した数人の集団が見える。師匠であるラウロと槍使いのジャネットも一緒だ。もう戻ってきたらしい。
「坊ちゃんとケネスじゃねーか!ぃよっし!これならいけんだろ」
こちらを認識した途端にラウロが大喜びで駆け寄ってきた。なんだなんだ。
「良いタイミングだねぇ。今日はついてる」
ガハガハとジャネットが笑う。首を傾げるリーンとケネスにラウロがニヤリと笑って言った。
「おめぇら蜂蜜欲しくねぇ?」
え。欲しい。
どうも村から差程離れていない場所に蜂の魔物が巨大な巣を作ってしまったらしい。この魔物はアピメルという名で地中に巣を作る為見つけにくい。
蜜蜂ではあるのだが、普通の蜜蜂よりも攻撃性が非常に高い上に今回のように巣が地表に露出してから見つかる事が多く厄介な魔物だ。
「あんだけ育つまで気付かねぇとかねーわぁ」
ラウロがボヤくのにセオとジャネットが頷く。他に二人居る狩人達は明後日の方向を見ている。普段彼らの担当の場所のようだ。
今回その二人を含めた林組から蜂の魔物がいると相談があり、ラウロとジャネットがセオを連れて同行したらしい。
「普段なら煙で燻して、たまぁに出てくる活きがいいのを弓で撃ち落としゃいいだけなんだがなぁ」
ありゃぁダメだと首を振る。今回は地上に露出している部分が大きいので囲わなければならない。オマケに地下部分もどれだけの規模なのか分からず普通に燻しただけでは恐らく奥まで行き渡らないだろうと言う。
「いやー魔法使い様々だねぇ」
ガシッとリーンとケネスの肩を掴んでジャネットがガッハッハと笑う。面倒な仕掛けを作らなくて済んでご機嫌だ。
「なんか用事あったんじゃねえの」
「あ。んー……後でね」
セオの言葉に魔法の鞄を思い出したが今は蜂蜜だ。夏の氷菓子山ほど食べよう計画の為にも。
またニマニマ笑うリーンにセオとケネスが顔を見合わせた。
蜂の巣だ。大きい。地上に出てる部分だけでセオ五人分ぐらいある。そして周囲にはリーンの手のひらサイズの蜂達が大量にブンブン飛び回っている。え。コレに気付かなかったってほんと?
目と口を開けたまま林担当の狩人達に視線を向けるとまた二人共ぐるっと明後日の方向を見る。蜂蜜欲しさに大きくなるまで放置して手に負えなくなった疑惑。
「こいつの処理を手伝ったら、おめぇら三人に報酬で蜂蜜と巣半分くれてやる。どーよ」
「乗った〜!」
ケネスが目を輝かせて答える。
「あいつ報酬って言葉好きだよな」
「ふふ。蜂蜜僕も欲しい」
ボヤくセオに答える。あんなに大きな蜂の巣の半分。早速魔法の鞄の出番かもしれない。
作戦は最初にケネスが巣の地上部分とその周りに眠りの魔法を範囲指定でかける。そしてリーンが地上部分を土壁で囲い、そこに煙を流し込む。だが。
「でもさぁなんか蜂興奮してなーい?あれ眠らせんの無理っぽいけど。てかなんで巣崩れてんのぉ?」
「ジャネットのバカヤロウが槍突っ込んだ」
ラウロのレアな真顔。
「ウハハハハ。いやー酷い目にあったね!」
林担当が死んだ魚の目をしてる。お仕置きか。巻き込まれたラウロとセオはご愁傷様としか言えない。と言うかジャネット本人も巻き込まれているが。
協議の結果、先に虫系の魔物を酩酊させる効果のある草を焼きその煙をリーンが風魔法で巣の周囲に拡散。蜂が大人しくなったら眠りの魔法をかけて壁で囲う事になった。
「このぐらいでいいか?」
「じゅーぶんじゃない?リーン、お願〜い」
「うん」
草の小山に火魔法で火をつける。乾いた草では無いので急速に燃え上がる事も無くプスプスと燻りモワッと煙が漂ってきた。風魔法でそれを巣の方に送りそこで軽く拡散させる。
「効くかなあ」
「多少大人しくなるぐらいで大丈夫だよぉ。流石にあれは興奮し過ぎだし」
「追いかけ回されたからな」
渋面のセオの言葉に後ろで子供達の護衛に待機しているジャネットが「過去の事気にする男はモテないよ!」とガハガハ笑う。もう過去の話になったらしい。
ジャネット以外の大人達はこの後で本格的に燻す時に使う木の枝を採りに行っている。酩酊の草だけでは圧倒的に量が足りない。
「そろそろいいかな〜」
大人達が戻り葉が付いた枝を積み上げている横でケネスが集中し始める。蜂達は若干飛び方に勢いが無くなって数匹フラフラしているのも見える。
「おぉ〜」
「おお」
「へぇ。大したもんだね」
飛んでいた蜂達がボトボトと一斉に落ちた。効かなかったのもいるが外にいた蜂の八割は落ちたようだ。
「事前準備があると効果が違うねぇ。よく効く」
機嫌良く頷くケネスに拍手を送り、じゃあ次は壁かと巣に視線を向ける。あれを全部囲うように、か。
「さっすが俺の一番弟子!坊ちゃん、あいつを囲んで天井塞いで入口を少ぉしだけ開けて欲しんだが」
ラウロがケネスの頭をグシャグシャ撫でながらリーンに言う。ケネスの頭がグラグラしているのを見ながら頷いた。
「せーの」
リーンが両手をえいと上げると、ザザっと一瞬で巣の周囲に壁がせり上がりあっという間に天井を塞いで四角い縦長の建造物が出来た。その後で正面にポカリと煙の入口が開き棒のように土が縦横に伸びて開口部を格子状に塞ぐ。蜂が出て来ないようにだ。芸が細かい。
ラウロを含め大人達は皆ポカンとしている。壁が出来上がるまでに逃れた蜂を叩き落とす気満々だったのに。一匹も逃れる隙が無かった。
「ほんとに。なんでこんなに細かく制御出来るのに、攻撃魔法はあぁなるんだろうねぇ〜」
「謎だな」
ケネスとセオが何か言っているが聞こえない。
「師匠ー。枝、燃やすんでしょ」
とりあえずラウロを揺すって覚醒させる。蜂蜜蜂蜜。
囲いの中では眠らなかった蜂や多分巣から出てきた蜂が異常事態にブブブンブブブンと大騒ぎだ。蜂蜜を手に入れるまではもう少し。
蜂蜜に目が眩んだリーンは今とても張り切っている。
VSアピメル(蜂)の話、もう一話続きます。
虫苦手な方すみません。どうしても、ケネスに蜂の子見せて「ひぃ…っ」って言わせたい。
あ、食べはしません。
-追記-
44でドラン達がまだ帰って来てないみたいな一文消し忘れてました。帰って来てるので修正します。
失礼しました。