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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第2章 少年期
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あの旅から二年が経ち、季節はリーンがこの村に来た頃と同じ春の初め。



まだ夜明け前の暗い時間、むくりと起き上がる人影が眠そうに目を擦りフルリとひとつ震える。

名残り惜しいけれどモッフモフの毛布から出なければ。

この毛布は二年前旅の帰り道でウォードとジャネットと、なんとセオが狩った巨大牛ハピスの毛皮で作られている。隣のベッドでモコモコしてるのも、セオとケネスが使っているのも同じ物だ。



着替えて空の桶に水魔法で水を出し顔を洗う。髪を梳かして一本の三つ編みにして身支度は終わり。

使った桶の水を窓から捨ててキャシーのためにまた水を入れておく。



裏口から薄暗い外に出て畑に向かった。キャシーは畑のおかげで野菜嫌いはほぼ無くなったが、なんとなくまだ続いている。

「雨」

リーンの声と共に畑の上にサアっと細かな水が降る。狭い畑の中をゆっくり歩き満遍なく恵みの雨を降らせた。

この畑はキャシーの芽吹きと厩番兼庭師のフレディのよく分からない植物育成スキル、それとたまに来るケネスの緑びよん(精霊)のお陰で育つのがとても早い。

昨日もお願いして緑びよんにびよんびよんしてもらったので蕪が食べ頃になっている。いくつか収穫して水で洗い籠に入れた。



籠を片手に家に戻ると、丁度フレディが外に出るところに出くわした。

「おや坊ちゃん。おはようございます」

「フレディ、おはよう」

「蕪ですか?この時期にもう収穫たあ驚いた」

リーンが持つ籠の中身を見て感心した声を出す。

「うん。今日は最後だから。朝食に出せる野菜が欲しくて昨日ケネスにお願いしたの」

「そうですか。きっとお嬢様もお喜びになりまさぁ」

「うん。ありがとう」

フレディに手を振り調理場へ向かう。



「トーマスおはよう」

「おう坊ちゃん。畑はどうだった」

調理場では山賊みたいな風貌の料理人が既に朝食の準備をしていた。

「うん。蕪が食べ頃だったよ。スープにしよう」

「はぁー蕪ねぇ。魔法ってぇのは凄いもんだ」

「ふふ。うん。ケネスのお陰」

フレディにしたのと同じ話をして自分用の低く作られた作業台の上に蕪を出す。慣れた手つきで葉を落として蕪は縦に八等分、葉は適当にザクザク。蕪が終わったらベーコンと玉ねぎも切ってトーマスに渡す。フライパンや鍋は重いし竈は位置が高いのだ。



リーンはこれでも二年でだいぶ背が伸びた。栄養状態が良くなったからだろう。それでも平均よりはちょっと小さい。

そしてセオとケネスは相変わらずスクスク育っている。


トーマスがベーコンと玉ねぎを炒めて葉を加え、鍋のスープに蕪と一緒に入れてくれた。後は蕪が柔らかくなったら出来上がりだ。

簡単だけどキャシーが好きなスープ。きっと喜ぶだろう。




家族揃って朝食の習慣は変わらない。食堂に行くとオズが満面の笑みで走ってきた。

「にいーちゃ!おはよ!」

「おはよう〜オズ」

しゃがんで両手を広げ小さな体を捕まえる。オズからきゃーと楽しげな声が上がると同時、今度は背中にドーンと衝撃。

「お兄ちゃん、オズ、おはよう!」

今日もキャシーは元気だ。オズとキャシーに挟まれキャアキャアやるのが毎朝の日課。それも今日で最後だ。

「ほらほら、三人共席につきなさい」

大きな手が子供達の頭を順番にポンポンポンと一度ずつ叩いて終了の合図。オズをミリアの所に連れて行って自分も席に座る。


「さあ、今日はキャシーの旅立ちの日だ。キャシーの行く先が明るく照らされますように。そしてキャシーも皆も健康に過ごし、またこうして家族で笑い合おう」

いつもの食前のお祈りの後にドランが付け足した。キャシーは今日リュクスの街へと旅立つ。





「お兄ちゃん、スープ美味しかった!」

「ふふ。さっきも聞いた。あと、頑張ったのはケネスとトーマスだよ」

「いいの!お兄ちゃんにありがとうなの!」

家の前で最後の見送り。

ぎゅうぎゅう抱き着いてくるほぼ同じ身長の妹の髪を撫でる。キャシーはこの二年お勉強を沢山してシルヴィオからたまに届く手紙や贈り物に一喜一憂して過ごした。

その生活はかなり変わったと思うけど性格はあの頃から全く変わらない。それで良いと思う。



「ほら、せっかくヴィオが送ってくれた綺麗な服がシワになっちゃう。皆にも可愛い姿を見せてあげて」

ヴィオが旅立ちに合わせていくつか荷物を送ってくれて、お陰で今日のキャシーはとても華やか。本当に気が利く男だ。

「キャシー。おじい様とおばあ様と仲良くね。もちろんシルヴィオ様とも。体に気をつけて」

「ねーちゃ、おでかけ?」

母親と弟に向き直り、グッと歯を食いしばった後ニコリと笑って二人とそれぞれギュッとする。

「行ってきます。お母さんも体に気をつけて。オズ、大きくなったらお姉ちゃんに会いに来てね」

「キャシー……」

「そろそろ出発するよ」

涙ぐむミリアの肩を優しく撫でてドランが皆に告げる。



近くで見ていたケネスと父親に見送りの挨拶を終えたセオが隣に来てくれた。今回馬車は二年前の物より小型な物だけど、護衛はあの時と同じ三人。道中安心だ。

ドランにも狩人達にも気をつけてと声をかけ、最後にもう一度キャシーとハグをしてニコリと笑って送り出す。



あの時の再現のよう。イワンの穏やかな声と共に馬車が動き出し、ガラガラと音を立てて段々と遠ざかって……

「お兄ーちゃーーーーーん!髪切ったら、ダメだからーーーーーー!!!」

なんか叫んでる。



「お前の妹、すげえな。色々」

「えぇ。最後にそれぇ?さっきまでの空気は」

なんでかキャシーはリーンの髪がお気に入りだ。仕方ないなぁと苦笑して返事代わりに片手を大きく振った。



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