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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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お人形は思っていたのと違った。子供の厄を身代わりに引き受けるまじないの人形だそうで、顔が可愛くない。と言うかちょっと怖い。

え、これ欲しいの?と思ってキャシーを見たら凄く微妙な顔をしていた。遠目に可愛いお人形に見えたらしい。


一行は無かった事にして別の方向に進んだ。



「あ、あれは〜?」

ケネスが示す方向を見ると何か小さな陶器やガラス瓶、貝殻が並べてあるのが見える。貝殻??

近寄って見てみるとそれぞれ何か入っている。

「おや。坊ちゃんらにはまだ早いかもなぁ」

中年の男が大きなお腹を揺らして言う。これらは化粧品と言う物らしい。唇を赤く塗ったり粉で肌を白くしたりするんだとか。リーンは化粧品=顔でお絵描きと理解した。



「早い?俺達は大きくなっても化粧しないよぉ〜」

「何言ってるんだい。好いた女に流行りの品を買ってやるのが男の甲斐性ってもんだろう」

「男のかいしょう」

「そうさ。まあ坊ちゃんらにはこっちかね。母ちゃんや姉ちゃんにどうだい?」

そう言って三人の前に並べられたのはいくつかの綺麗な絵付きの陶器。蓋を開けると中に軟膏が入っていた。手荒れに効く物だそうだ。


「軟膏か。疑う訳じゃないが、何が入っているのか聞いても?」

今まで後ろで見ていたドランがずいと前に出て商人に尋ねる。こういった物は流石に悪い物を掴まされても勉強だ、とは言えない。

商人が答えたのは肌荒れに効くと一般的に言われる薬草類と火傷に効く植物、口に入れても問題ない木の実の油など。鑑定持ちが居たら鑑定してもいいよと一つ渡してくるぐらいだ。問題無いだろう。



「悪かったね」

眉を下げて商品を返すドランに商人が腹を揺らして笑う。

「いいや。土産で渡したもんで嫁さんや娘の肌に出来物でも出たらことだ」

「その通り。だが不躾だったのは確かだ。一つ貰おう。いくらだい?」

「そりゃ有難い。だが……」

商人はしゃがんで軟膏をじっと見る三人に視線を移す。

「生憎と小さいお客さんらとの商談がまだ途中なんだ」

「おや。それは失礼」

ニコニコと三人に向き直る商人に苦笑して後ろに下がる。

粗悪品でなければ軟膏など子供の小遣いで買える物ではないのは、売っている本人が一番わかっているだろうに。

金にならない客にも誠実に相手をする人の良い人物なのか、ドランが金を出すと思っているのか。まあどちらにしても子供だからと蔑ろにしないのは好感が持てる。



「で、どうだい坊ちゃん達。ここに置いたのは一つ2300ルクだ。ただ坊ちゃん達が一つずつ買ってくれるって言うなら一つ2000にしよう」

こんなに小さいのに高い。でもそれも頷ける。入れ物も綺麗だし軟膏はとても高価な物だ。

「買います」

「俺も俺も〜」

「これなら文句言わねえだろ」

「おお嬉しいねぇ。じゃあ約束通り一つ2000ルクだ。好きなのを選んどくれ」

愛想良く答える商人にドランが目礼し、イワンが静かに頭を下げる。2300ルクでも値引いているはずだ。



「キャシー、お母さんのおみやげを選んでくれる?」

「うん!」

やっと出番だとキャシーがジタバタ暴れる。ドランが苦笑しながらリーンの隣にそっと着地させてくれた。

「うぅーんと…………これ!おはな!」

「ありがとう。凄くきれいだね。おじさん、これにする」

得意顔のキャシーの頭を撫でて商人に大銅貨を二枚渡す。セオとケネスもそれぞれ選んだようだ。



三人でいい物が買えたとお互いに選んだ絵柄を見せあっているとイワンも軟膏、ドランは小瓶をいくつか買ったようだ。

ニコニコ顔の商人と目が合う。

「おじさん、ありがとう。ボクが大きくなったらちゃんとした値段で買うからね。男のかいしょうだから」

「俺も甲斐性見せるよぉ。おじさんありがと〜」

「俺がデカくなる頃には砥石も置いてくれ」

一人若干違う気もするが。三人はちゃんと商人が大分安く売ってくれたのに気付いていた。商人の目がまん丸になる。



「そりゃあ楽しみだ。いい物用意しとくさ。お得意さんになっとくれよ」

ハッハッハと大きなお腹を揺らして笑う。


十数年後に約束は守られ、今回売れた軟膏の二倍の大きさの物が三つ正規の金額で売れた。砥石も売れた。

そしてそれ以降毎年、彼らの母親に届くように手配されるようになる。商人が言っていた意味での男の甲斐性とはちょっと違うと思うが。




結局その後ケネスは妹に鮮やかな糸で編まれた髪紐を買い、父親には帽子を買った。もちろんどちらもガッツリ値切っていた。セオは解体用のナイフを買った。そちらは相場より安くていい物だったらしく、ケネスの出番は無かった。



日が傾く頃に広場を後にして、また馬車に乗って宿に帰る。

色んな物を見てとても楽しかった。

馬車の窓から店仕舞いをしている商人や家路に急ぐ人達を見ながら、思いがけず手に入れた母親の作品やもう一人の母親への土産を思い浮かべる。

「面白かったねぇ〜」

「お前商人の方が向いてるんじゃねえの」

「やだよぉ。俺は冒険すんの。冒険。ね、リーン」

「ふふ。うん。ケネスがせつやくして、セオが稼ぐの。飲み水はボク」

「だからなんで飲み水なんだよ」



今日も三人はワイワイと楽しそうだ。寝入ってしまったキャシーを膝に乗せて大人二人が目を細める。三人の話題はもう今晩の夕食へと移っていた。


気が重い明日の事は明日考えよう。ドランも夕食のメニューについて考える事にして目を瞑る。



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