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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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一瞬エドアルドの嫁にと言われたのかと思ったがそんな訳は無い。じゃあ誰だと固まったままドランは脳内で忙しくメイソン侯爵家の人々を思い浮かべる。



侯爵の長男は騎士団長を務めているはずだ。跡取りに指名されていたのに騎士団に入り騎士団長にまでなってしまった。彼が「領地を継ぐ暇などあるか!」と言って戻らないのでエドアルドが未だ現役なのだ。

既に結婚し子供も何人かいたはず。その子供のうちの誰かか?次男か三男辺りの嫁に迎え近くに置けば、一族の主要人物が恩恵を受けられるし街の人口も増える。

もしくは、


「長男が戻って来ないせいで私が隠居出来ないでいるのは知っているだろう?」

「…っ、ええ」

今考えていた事がそのまま侯爵の口から出てきて思考を強制的に断ち切られた。

「更にその長男、私から見ると孫だが。その子を跡取りにしようと思っていてね。身内贔屓かもしれないがこれがまあ、出来た子なんだ」

「そうですか。それはようございました」

話が見えない。

「その子をどうだろうと思ってね」

「……………は」

「歳の頃も丁度いいだろう」



ニコニコと笑う侯爵の前で、ドランは本日何度目か分からないが固まりついでに意識も飛ばしかけている。


じきこうしゃくふじん


ドランの脳裏に常にやる気に満ち溢れているお転婆な娘の笑顔が過ぎった。




------------------------------




どこに行っていたのかドランがフラフラになって帰って来た。随分疲れているようだ。

夕食の席で向かいに座った父親に心配気な視線を向ける。

「お父さん、大丈夫?」

「あ、あぁすまないね。ぼうっとしていた」

リーンに笑顔を向けるがやはり疲れが見える。


ここの宿屋の食堂は四人掛けのテーブルがいくつか置かれている。リーンの席はキャシー、ドランとイワンが一緒だ。イワンもドランを気遣わし気に見ていて、キャシーは肉をもぐもぐしてる。

ちなみにイワンとウォードはドランに同行したが別室で待機していたので、話の内容は知らない。帰りの辻馬車の中では呆然としていて説明出来なかったのだ。



「明後日の午後、侯爵閣下にお茶に招かれているんだ。リーンとキャシーも一緒に行こう」

「ボクも?」

「そうだよ。あちらの十歳の子も一緒だから、きっと退屈しない」

「でも、さほう」

「ふふっリーンは元々お利口さんだし、普段通りにしていれば大丈夫だよ」

ほんとに?と父親を見上げるが、笑顔で頷かれた。本気のようだ。ガッチガチの貴族様のお屋敷でお茶。大丈夫だろうか。


まあ大丈夫と言うなら気にしなくていいか。そう思い食事を再開しながら、口の周りを肉のソースだらけにしたキャシーを見る。……大丈夫だろうか。





子供達が寝た後でドランはイワンとウォードを連れて宿の中庭に出た。侯爵家での話をする為だ。

侯爵はとりあえず会わせてみようと言って茶会を提案してきた。お互いに何も知らせずに相性を見ようというのだ。


仲良くなれなそうなら別の方法を考えようと言ってくださったけれど、正直家格が違い過ぎて受けるのも断るのも気が重い。いや、断れる立場じゃないが。

そもそもキャシーが公爵夫人?現在進行形で田舎で伸び伸び育っているあの子が?



話をするとイワンもウォードも唖然としていた。わかる。

「とんでもないスキルだな。その恩恵で三人のあの大量のスキルか」

「元々お三方共に優秀なせいもあるでしょう」

「……育てばもっと増えるんじゃないのかあれ」

「そこは今は考えたくない」

ウォードの言葉にドランが笑顔で答える。

『芽吹き』とキャシーの種は侯爵と次期侯爵が出生率とか田舎で伸び伸び侯爵夫人にエルフの大量属性を武神が意味わからん多才に………あああもう無理だ。



笑顔のままスルスルとしゃがみ込み頭を抱えたドランを見て、イワンとウォードが目を見合わせる。

(もう、いっぱいいっぱいみたいです)

(だな。つついたら転がるか?)

(ふ・ざ・け・る・な)

人差し指を出すウォードとその指をへし折ろうとするイワンで、しばらく無言の攻防が続く。

(……やめましょう)

(こいつまだ復活しないのか。相当だな)

(だから言っているでしょう。優しくしてください)



「あー…玉の輿だろ?次期公爵夫人。ヨカッタヨカッタ」

ドランが絶望の表情で顔を上げる。イワンが巨体の体重を乗せてウォードの右足を踏んだ。ウォードが「ぐぅ」と変な声を漏らして三歩後退する。もう言わない、の意思表示だ。


「しかし、素晴らしいお話ではありますよ。安全で豊かな生活を保証されるのですから」

「それは……そうなんだけどね」

「何はともあれ、茶会が終わってからです。もしかしたらお互いに運命の出会いになるやもしれませんし」

冗談めかして言うイワンにドランが力無く笑う。

「もしそんなおとぎ話みたいな話になったら、もちろん喜んで送り出すさ」



これ俺必要だったか?と思いながら、幼なじみの村長さんと昔山ほど "教育的指導" をしてきやがった巨体の爺さんを眺めるウォード。彼は躾の結果あまり口を開かなくなったが、中身は子供の頃からほぼ変わっていない。無口で渋い武人というイメージは幻だ。




見た目は素晴らしいのに中身が残念なお父さん二人が同時にため息を吐き、イワンが仕方がないなと苦笑する。

大人達の苦悩はまだしばらく続く。



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