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部屋にはベッドが人数分と小さな引き出しが四つ。部屋の入口の横にソファとテーブル。昨日の宿屋よりも大きな窓が二つ、こちらもガラスが嵌っている。あとは書き物机が一つと椅子。家族用だからか随分と充実している。
だが、三人は今日は部屋の中には興味を示していない。話題は教会やスキルの事に終始していた。
「どんなスキルかな」
「リーンは良いよぉ水魔法が確定してるんだから。俺『農耕』とかしか無かったらどーしよう」
「お前は絶対『話術』持ってる」
「『話術』と『農耕』でどーやって生きていくのさ!ダメじゃん!」
「口が上手い農民」
「くっそ。自分は武術系確定してるからって!」
わっとケネスが頭を抱える。
その様子をウトウトしているキャシーを膝に乗せてドランが笑って見ていた。自分にも覚えがある。
「別に明日出たスキルで終わりじゃないさ。生きていれば色んな経験をしてその分スキルも増える。今の君たちの年齢なら、本当に才能のあるものだけが出るだろうね」
スキルとは才能だ。才能が無くても五年十年努力すればスキルとして身につく物もあるが、子供の頃に調べて出るのはその子が経験した事がある系統で才能があるスキルだ。
だから結果に不満なら伸ばしたい方向で努力すればいい。とは言え、その努力が報われるかは分からないし 、何よりこの先家業の手伝いが中心の生活になっていくだろう。そう何度も調べに来る事も出来ない。
明日何らかの結果が出なければ諦めて生涯村で暮らす覚悟を決めるべき。自分の立場としてはその覚悟を歓迎するが、ケネスの心境が理解出来るだけに何も言えない。
彼の…いや彼らの納得出来る人生を送ってほしい。
未だワイワイと騒ぐ三人と膝の上で眠る娘を見て、その未来に思いを馳せた。
その日の夕食はゆっくりと穏やかな喧騒の中で取る事が出来た。この宿は商人が多く利用しているようで、それぞれが静かな声で談笑しワイン片手に料理を楽しんでいる。
昨夜のような賑やかで雑然とした雰囲気も物珍しくて良かったが、連日だとちょっと。遠くの席で罵声や大きな物音がしたりしていたし。こっちの方が安心してご飯が食べられる。
リーンはこの宿を選んだドランにニコリと感謝の視線を向け美味しい煮込み料理を堪能した。
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翌朝、なんとケネスが先に起きていた。
リーンはあまりにびっくりして起きた瞬間から目を見開いてケネスを見ている。もしかしてセオの酷い起こし方で寝起きが改善……
「寝てねえのか」
違かった。
「あはは。全然寝てない訳じゃ無いんだけどねぇ。なんか目が冴えちゃってさ〜」
「まぁ。気持ちは分かるけどな。多分意味ねえぞ」
「ん?どーいう意味ぃ?」
ため息を吐くセオと訝しげなケネスをリーンが心配そうに見上げる。
「ケネス大丈夫?」
「あ〜大丈夫。ごめんねぇ。これからの人生決まるようなもんだし、あれこれ考えちゃって」
「じんせいが、決まる?」
「ああうん…リーンは魔法適正あるし関係ないかぁ」
ケネスが苦笑する。
「うん。ボクは二人と冒険に行くし」
「え?」
「セオがお肉狩って、ケネスが色々けいかく立てて、ボクが飲み水出すの」
既にリーンの中で人生計画は決まっていたらしい。
「ふふっ良いねぇそれ。だからさ、俺がもし『農耕』スキルしか無かったら困るじゃん?」
「…?困らないよ。ケネスしっかりしてて頼りになるし」
当然のように返すリーンにケネスが目を瞬く。
「俺が、能無しでもいいの?」
「??のう無しじゃないから一緒に冒険行ってほしいんだけど。ボクとセオだと迷子になりそう」
「それは否定しねえけど。つーかお前は飲み水以外もなんか担当しろよ」
セオもこの人生計画に異論は無いらしい。だから意味ねえって言ったろと、ケネスに呆れたような視線を送る。
「じゃあ、師匠に弓を教わって」
「弓って結構力要んの知ってるか?」
「え。また、筋肉……?」
「ふはっ」
吹き出したケネスに二人が視線を向ける。
「ふっあはは。うん。じゃあさ、弓習うのは俺が担当するよぉ。リーンはほら、料理とか良さそう」
「ああ、それのがしっくりくんな」
「えぇケネスが弓なら、ボクもなんかカッコ良く戦いたい」
「だから水魔法使えよ。なんで飲み水限定なんだ」
「だって……」
昨日から思い悩んでいた様子の少年がいつもの調子に戻り、ワイワイと盛り上がるのをドランはほっとして眺める。
しかしうちの息子は旅に出てしまうらしいし、村人が二人減るらしい。成長と共に諦めてほしい気持ちと、このまま変わらず夢を叶えてほしい気持ちでちょっと複雑だ。
どちらにせよ彼ら次第。せめて息子達の助けになるようなスキルを出せよ、と教会の方角に向けて念を送っておいた。
そして数時間後、彼は念を送った事を激しく後悔する。多分何をしてもしなくても結果は変わらなかっただろうが。