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ギールの街までは石畳が綺麗に敷いてあるので、ぬかるんだり変な窪みにハマったりしない。相変わらずガタゴトと揺れはするし石を踏めば飛び上がるが、それでも快適だ。
そして今までの道と違って人が歩いていたり他の馬車が走っていたり。リーン達は、というかリーンとキャシーの二人は馬車や人とすれ違う度にニコニコと手を振り道行く人々を和ませた。
ケネスは、あれセオがやったらどうなるんだろうとちょっとだけ考えた。
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見渡す限り防壁が続き、その奥に大きな建物の屋根が並んでいるのが遠く霞んで見える。防壁自体も一つ前の村の石壁が玩具に思える程の重厚さ。高さも倍以上ある。
対の塔に挟まれた街の入口では簡素な鎧を着た兵士達が並び街に入る人達と何かやり取りをしているようだ。そこに続く馬車と人の二列の行列は、もしかして街に入る順番待ちなんだろうか。
入口周辺には色とりどりのテントが設置され商人が大声で何かを宣伝し、行列の合間を縫って歩き回る大きな籠を抱えた子供達が愛想良く商品を売りさばいていく。
「わぁ……」
「すげえな」
「えぇー……別世界ぃ」
「おぉーきーーーね!」
とりあえずキャシーの頭を撫でておいた。
馬車の列の最後尾に並びしばらく待つ。一応遅々とした速度で進んでいるようだしリーン達の後ろに馬車も増えている。
こんな状態で街に住む人はどうするんだろうと思ったら、街に住んでいる人は専用の門があるらしい。じゃあこれ全部、用事があって来た人なのか。
マリーお母さんはここで暮らしていたんだ。
昔の話などほとんど聞いた事は無かった。過去の思い出の中ではなく今を笑って生きようという人だったから。
でも、こんな凄い所でどんな風に暮らしていたのか聞いてみれば良かったなと少し勿体なく思った。
結局物売りが四回、街の中の宿屋や馬の預かり所を宣伝する人達が五回訪れた後に街に入る事が出来た。
入口にいた兵士は馬車の中を確認して、イワンと何かを話し銀貨を何枚か受け取って脇に避けた。通り過ぎる時に窓から顔を出すリーンとキャシーに「ようこそ。楽しんで」と笑ってくれたので二人共ニコニコで手を振った。
街の入口となっている大きなアーチのトンネルをガタゴトと進む。少し暗いなと思っていたらすぐにパッと光の中に出た。広場だ。
広場は全部石畳で覆われていてとても広い。入口周辺には外にもあった商人のテントがあちらこちらに見え、こちら側でも賑やかに客寄せをしている。
広場の外周には小さな荷車に果物を積んだ物売り達や食べ物をその場で焼いて売る屋台が並んでいて、広場の奥には水がたくさん出てる……なんだろうあれ。疑問に思っている間に見えなくなってしまった。
馬車は広場の横を通り過ぎて更に進んでいく。
道の両側にせり出している建物を見上げ、一体何階建てなのかと呆然と考えた。下を見ると一階部分はみんなお店のようだ。布、籠、服、多分薬?何なのか分からない物もたくさん並んでいる。それらに目を奪われていると分かれ道で右に進み、しばらくして馬車が止まった。
イワンがまた一人で降りて建物に入りすぐに十歳ぐらいの少年を連れて出て来た。
「いらっしゃい!馬車は運んどくよ。中へどうぞー!」
その言葉にドランがニコリと笑う。
「良かった。部屋は空いてたみたいだね。さあ、今日からしばらくの宿だよ。中で休もう」
それぞれ荷物を持って馬車を降りると、少年がヒョイと御者台に乗り馬車を操って隣の厩に消えていった。ウォードとジャネットも馬を連れて後に続く。
「いっちゃった」
キャシーは馬が居なくなってちょっと残念そう。
「お部屋に行こう」
隣に並び手をきゅっと握る。何かもう、驚き過ぎて一周回って冷静だ。セオとケネスもそんな顔をしている。
宿は昨日の宿と同じくらいか少し小さい。看板には『金のそら豆』と書かれている。厩の方に大きな木が生えているのが見え、葉の緑と白い壁、オレンジの屋根でなんだか可愛らしい印象だ。
中に入ると入口は吹き抜けになっていて明るく、奥のカウンターに恰幅のいい女性が笑顔で待っていた。
「さあさ、お疲れでしょう。お部屋にご案内しましょうね。あぁ、あちらの奥が食堂で朝と夕に食事が出来ますよ」
入口右手を指して言うと棚から鍵を取り出して階段に向かう。どうやらここは酒場兼用ではなく、宿に泊まる人だけが食事をするらしい。食堂はまだ静まり返っていた。
部屋は三階で、ゆったりした四人部屋が二つ。リーン達の方にはベッドを一つ足して五人で使う。もちろんドランとキャシーにいつもの三人だ。
「明日教会に行こう。お父さんの用事があるからその後三日ここに泊まって、次の朝に出発する予定だよ」
明日。明日かぁ。長かったようなあっという間だったような。セオとケネスがグッと手を握りしめたのが見えた。
題名が大冒険なのに序盤ヒューマンドラマなので駆け足で進めました。街に着いたのでこの後スキル開示が終わったら更新スピードを緩めます。
閲覧、ブックマークや感想本当にありがとうございます。拙い作品を読んでくださってとても嬉しいです。
お好みに合いましたら引き続きよろしくお願いします。