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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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あっという間にギールの街へと出発する日がやってきた。キャシーの事もあったため、多少無理をして急いだ部分もあるようだ。


ただ、畑はあれ以降おかしな様子は見せていない。最初の成長こそ異常な速度だったが、その後はごく普通にゆっくりと茎や根を伸ばしている。キャシーが間引きや水やりをしても変わらなかったため、両親はほっと安堵の息を漏らした。

どんなスキルなのかは不明だが、少なくとも各地の権力者から狙われるような強力なものでは無さそうだ。



「坊ちゃまとお嬢様のお世話をきちんと頑張れよ。お前は要領がいいから大丈夫だとは思うが。………たまに要領よすぎてちょっとどうかと思うんだよな。もう少し苦労とか」

「それ今言う事なのか、もう一回考えてみて?」


「困ったわぁ。この子こんなに怖い顔でお世話係なんて大丈夫かしら。ほらほら睨んじゃダメよ。ニッコリー……ああどうしましょうとっても怖いわ」

「………………」



家の前の広場で、出発する人と見送りの人々との会話が聞こえる。今回同行するのは父親であるドラン、メインとなるリーンとキャシー、そのお世話係のセオとケネス。そして護衛を纏めて雑事を熟すイワンに護衛の狩人三人だ。

護衛の三人にはセオの父親のウォードも含まれている。凄腕で剣もナイフも弓も使いこなすため、遠出する際には毎度護衛を依頼するのだとか。


オズを抱いたミリアやクレア、その他の使用人達に見送りの挨拶を受ける。イワンが御者台に座り、護衛二人を残して全員馬車に乗り込みいよいよ出発だ。

今回使うのは中型の箱型の馬車で、中は壁に沿ってベンチが二列固定されており他に荷物を積むスペースも充分ある。ベンチを外して完全に荷運びに使う事も出来るらしい。

護衛は二人が外で馬に乗り、一人は馬車の中。交代で外に出るようだ。



「それでは出発します」

穏やかなイワンの声と共にガタンと大きく揺れ、その後はガラガラと車輪が回る音と振動が続く。

窓から手を振って見送りに応えた後、キョロキョロと馬車内に視線を巡らせたり再度窓の外を覗き込んだりと落ち着きの無い子供達にドランが笑った。

「元気なのは良いけれどね。揺れるし退屈だしお尻も痛くなるし。多分、君たちが想像していたような楽しいものでは無いと思うよ」


ケネスは名目上とはいえお世話係なのにはしゃいでしまい、バツが悪そうに頭をかいてベンチに座り直した。セオは最初から泰然と座っている。

こいつに子供らしさってあるんだろうかと遠い目で考え、リーンと一緒にかっこいい石?に盛り上がっていた事を思い出す。そういや変なとこでやたら無邪気なんだった。

リーンといえば、本気で同行をねじ込んでくれるとは驚いた。ポヤポヤしてんのかしっかりしてんのか……。

まあ、いいか。皆色々あるものだ。

小さな友人に感謝しておっかない顔の友人とお役目をこなし皆で楽しもうと気合いを入れた。



早々に退屈だ疲れたお尻が痛いと騒ぎ出すと思っていた大人達の予想は外れ、子供達は二回の休憩を終えた後もまだキラキラと瞳を輝かせ、それなりにお利口にしていた。

流石に疲れてウトウトし始めた子供達を眺めながら、ドランはここまでの彼らの様子を思い出す。



まず強面の狩人ウォードの息子で、父親と同じく強面のセオ。彼は顔に似合わずとても面倒見が良いらしい。

昼食時はリーンがキャシーの顔や手を拭いてやり、そのリーンの顔や手をセオが拭いてやる、という奇妙な光景が繰り広げられた。ちなみにリーンがキャシーに使っていた布もセオが渡していた。キャシーの世話を直接焼かないのは、あの顔と雰囲気を怖がられているからだろう。

二回の休憩時、護衛の狩人達に交じり周囲に鋭い視線を投げかけていた様子は随分と堂に入っていた。聞けば小さめの猪程度なら一人で狩って一人で解体するらしい。歳を疑う。


次に農家の息子ケネス。畑作りに巻き込まれた少年だ。

彼はしっかりはしているが比較的普通の少年…に擬態しているような子だ。よく見ていると、相対している相手にとって絶妙な態度や言葉を選んでいる。媚びを売るといったものではなく、相手を不快にさせずに自分が望む状況を作り出す事に長けているらしい。キャシーの事も危険がありそうな物からは意識を逸らし、それでいて楽しませているためずっとご機嫌だった。

我が家の厩番のフレディの甥だと聞いたが、あの気弱な男とは微塵も似ていないな。社交性と順応性が高すぎる。



息子の "お願い" を叶えてやるために依頼したお世話係だったが、なかなかどうして。息子の友人達は子供ながらに随分と優秀だったようだ。

リーンが自分の跡を継いで彼らがその支えとなるのか、もしくは今彼らが夢見ているように、村を飛び出して自身の道を切り開いて行くのか。何れにしても彼らの友情がこのまま続くのなら安心だな、とひとり満足気に微笑んだ。



この旅の最初の宿泊地となる村はもう間もなく。ひとまず初日は何事も無く着けそうだ。今回は人数が多いので、広場を借りて野営する事になるだろうか。

子供達はそれも喜ぶのだろうな、と少し楽しみに思う。



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