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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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ターナー家の皆揃っての夕食時。話題はキャシーのスキルの効果と思われる、即座に芽を出した畑の野菜だ。

ただ、リーンが想像していたように大喜び、とはいかないようだが。



「私も見に行ったのだけど、本当に畑一面に小さな葉っぱが出ていて。あれが今日持たせた種だなんて……」

少し困ったような顔でミリアが言う。

「大丈夫だよ」

ドランが安心させるように笑い、ミリアの手をポンポンと軽く叩く。

「調べて強い能力だったなら、領主様に相談するさ」


マルツ村やギールの街を含めた領地を治めているのはメイソン侯爵家。数代前には王家から姫が降嫁した事もある、押しも押されもせぬ大貴族だ。

そしてドランの母親は先代のメイソン侯爵の末の妹の娘、つまり現侯爵とドランの母はいとことなる。数年に一度しか会わないが、母を歳の離れた妹のように思っていたらしくドランのことも会う度に歓迎してくれる。関係は良好だ。



「ああ、そうね。それがいいわ」

ようやく安心して笑顔を浮かべ、はたと自分の態度が子供達に不安を与えるものだったと思い当たる。

「ごめんなさい。キャシーが素晴らしいスキルを持っているかもしれないのは、とても嬉しいのよ」

キャシーの髪を撫でリーンに笑いかける。キャシーからはキャラキャラと笑い声が聞こえるが、リーンはじっと両親を見ていた。

「ははっ賢い子だね。リーンはもう、ミリー母さんが何を心配したのか分かってしまったかな」


例の大騒ぎの日に、キャシーの為に山ほど絵本の読み聞かせをしたせいか、最近言葉にたどたどしさが無くなってきた息子に視線を向ける。

「しょくりょうが、すぐに出来る力は皆がほしがるから。でも、りょうしゅ様にそうだんしたら大丈夫?」

正解だ、と笑顔で頷く。

「領主様は親戚なんだ。それに穏やかでとてもいい方だよ」

そっか、とこちらもようやく笑顔になった。



大人の事情は難しいが、どうも凄い力を持つだけではダメらしい。リーンは今日ひとつ学習した。




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そしていつもの団欒。

「お父さん」

ドランが座るソファに近付き、肘置きに両手を置いて見上げ…ハッとしてシャキンと体を起こし両手は体の脇に。直立の姿勢をとった。

「どう…ふっ……どうした?」

一連の動きを見ていたドランは肩を震わせ口元を手で覆っている。真剣な様子なのだから、笑ってはいけない。

「おねがいが、あります」

「うん。言ってごらん」

珍しいなと思い嬉しくも思う。さあ何が出てくるのか。



「ギールの街にセオとケネスもいっしょに行きたいです」

「あぁ。二人は教会に行きたいのかな」

「はい。きょうかいのお金も宿のお金も、自分たちで出すからって。畑の、ほうしゅうとして」

その程度叶えてやるのは吝かではない、が。

「あまり、前例を作るのは良くないな」

「ぜんれい」

「そう。二人が今回私達に同行したとなると、我が家の人間が街に行く度に連れて行ってくれと言う人が出るだろうね」

「…………」

考え込んでいる息子を微笑ましく見つめる。

チラリと妻と娘の居る辺りに視線をやると、フンスフンスと鼻息荒いキャシーがこちらに突撃しようとするのをミリアが止めているのが見えた。

もう少し待ってほしいと苦笑する。


「街に行くのは、お父さんとボクとキャシー、ですか?」

「それとイワンと、護衛に狩人の家から何人か雇うね」

もう攻略のルートを見つけたようだ、と眉を片方上げる。

一体誰に似たのだか。自分がこの歳の頃は何も考えていなかったと思うが。


「なら、今回だけ、ボクとキャシーの面倒をみるために二人を雇ってくれませんか。ほうしゅうは要らないので」

「はははっ大正解だ!」

お前は本当に賢いなと破顔してリーンの両脇に手を入れ、ひょいと持ち上げる。そのまま自身の膝に下ろし、頭をワシャワシャと撫で回した。


目を白黒させるリーンにドランが笑って告げる。

「報酬は僅かだが出すよ。依頼するのだから。ああそれと、道中の宿や食事も心配要らない。依頼だからね」

きょとりと父親を見上げ、クスクス笑う母親を見る。

どうやら、最初からお願いを聞いてくれるつもりだったようだ。じわじわと喜びが込み上げる。


「ありがとう。お父さん」

撫で回されたボサボサの髪で、満面の笑みでお礼を言った。

そしてこの後、解き放たれたキャシーに突撃されてわちゃくちゃになった。




後日、二人とその父親が家に呼ばれて正式に "依頼" がされた。親子共にこの破格な依頼に恐縮しきりだったが、それと同時にとても喜んでいた。

馬車で五日の距離というのは、馬を持たない普通の村人達からするととても遠いのだ。徒歩で移動し野宿を繰り返して魔物や獣に警戒するなど、どれほど危険な事か。ましてや幼子を連れてなど正気の沙汰ではない。


幸運を手に入れた子供とその親達は、街でどんな結果を得るのかと今から思いを馳せてにこやか…いや片方の親子は眉間にシワを寄せ、獰猛な瞳を細めて極悪な顔で喜んでいる。セオのあれは遺伝なのか。なんかあそこだけ空間が違う。

窓の外に見えるフレディもとても嬉しそう。

フレディが先日甥の為に男気を見せたのをさっきケネスと二人で彼の父親にチクったので、今夜弟夫婦の家に招かれ大歓待を受けるだろう。


リーンは皆と一緒にニコニコしながら、元々楽しみだった街への旅が更に楽しみになったなと喜んだ。



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