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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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まだ夜も明けきらない薄暗い時間に、小さな人影がベッドからムクリと起き上がった。人影はよいしょよいしょと窓辺に椅子を運んでそこに上り、カタンと小さく音を立てて窓を開ける。

窓枠にお腹で乗り上げて、頭と右手を外に出して呟いた。


「………みず」パシャリ。


夢じゃなかった。

瞳をキラキラさせてパアッと笑顔になる。


「みず」パシャリ。


そう言えば、フレディは大きなバケツ半分ぐらいの水を一度に出した。

「………」

自分の右の手のひらを見て、窓の外、雑草が僅かに水に濡れているのを見る。

(ボクは、あんまりあいしょう、よくないのかな)

どう見ても小さなバケツも満たせない。せいぜいコップ一杯ぐらいだ。



うぅーん。と考える。そうなると、あんまり役に立たないんじゃないだろうか。

畑には使えないだろう。コップ一杯じゃどうしようもない。

喉が渇いたらいつでも飲める?それは、ちょっとだけ便利だけど……。

そうだ、旅をしてたら便利かも。この村に来る途中も水は通り道の村で汲ませてもらったり、道をちょっと外れて川で汲んだりしていた。その面倒が無いのはいい。


ウンウンと頷きこの力を活用出来そうな事に満足して、その場面を想像してみる。

キャシーが喉が乾いたと言って自分が得意げに右手を翳し、パシャリと水を………。キャシーがびしょびしょになった。

あれ。



これは、良くない。

窓枠から体を離し、椅子に座って腕を組む。

水が出る時に、パシャリとコップをひっくり返したようになるのがダメだ。これじゃコップに入れたり水袋に注いだりも難しい。

そうだ。イワンが手の平に火の玉を出していた。あんな風に、水の玉を出せたらコップで掬える。


よし。と気合いを入れて、椅子の上に立ち上がった。

「……………みず、たま」

手のひらの上で水が一瞬、形を作ろうと震えて、パシャリと溢れる。頑張ったら出来そうだ。

ウンウン頷き、再度挑戦する。

「………みず、たま」……パシャリ。

「……みず、たま」……パシャリ。

「……みず、たま」……………パシャリ。

おしい。もう一回。



リーンは完全に忘れているが、魔法を使える回数というのは人それぞれだが決まっている。限界まで使うと意識を失ってしまうがきちんと休めば回復する。

どのくらいで限界を迎えて倒れるのかは本人は感覚的に何となく分かるものだし、鈍い人でも経験則で分かる。

鍛えていない普通の人は水や火を出すという程度の単純な魔法でも、五回も使えば倒れる。

…………つまり。



キャシーはガターンッという大きな音にびっくりして飛び起きた。毛布を握りしめて隣のベッドを見ると兄が居ない。

慌てて毛布を持ったままベッドを飛び降り、部屋を見回すと窓際に椅子と兄が倒れていて、何かの液体(水)がその周辺の床に………



「にいいぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁ!!!」



大慌てで大人達が駆けつけ扉を蹴破る勢いで開けた先には、お兄ちゃんが死んじゃったと大泣きするキャシーと蒼白な顔で倒れ目を閉じたリーン。倒れた椅子と開いた窓。


当然、とんでもない大騒ぎになった。




------------------------------




ベッドで横になり、今日は部屋から出てはいけないと言われてションボリするリーン。ベッド横でぐずぐずと鼻を鳴らして兄にしがみつくキャシー。



「本当に、何も無くて良かったわ。私達がどれほどびっくりして心配したか、わかる?」

ミリアが苦笑して、キャシーの反対側から亜麻色の柔らかな髪を撫でる。

「………ごめんなさい」

へにょりと眉を下げた情けない表情で、キャシーの後ろに立つ人物をチラリと見た。



ドランが仁王立ちで腕を組み、眉間にシワを寄せて口元を引き結んでいる。怖い。

「リーン」

常にない低い声で名を呼ばれる。

「…はい」

「魔法はとても便利で、とても怖い力だ。暮らしの助けになるし、大きな魔物の命さえ奪う事が出来る」

「はい」

「大きな魔物の命も奪えるような力は、小さなリーンを簡単に傷付けてしまうだろう。リーンの、周りの人達も」

「……うん」

そうだ。魔物と戦う魔法使いは、水や風でも魔物を攻撃する事が出来るらしい。どうやるのかは全然わからないが。

わからないままその力を使うのはとても、危ない事だ。



自分の言葉をよく考えている様子のリーンに、ドランは表情を緩めた。

身を屈めて小さな頭をポンポンと軽く叩き、自分と同じ不思議な色の瞳と目を合わせる。

「お父さんも、とても心配したんだ。もちろんキャシーもね。イワンもクレアも、皆心配した。今度から、魔法は絶対に大人が見ている時にしか、使ってはいけないよ」

約束出来る?と問いかけると、真剣な顔でコクリと頷いた。

「やくそく、する。しんぱいかけて、ごめんなさい」


「じゃあ、リーンとキャシーの食事を運んでもらおう。キャシー、今日はお兄ちゃんにいっぱい甘えるといいよ。多分、何でも聞いてくれるから」

最後に悪戯っぽく笑い、リーンとキャシーの頭をクシャクシャと撫でて両親は部屋を出ていった。




さて、どうやってお姫様のご機嫌を取ろう。とりあえず、もう一度ごめんなさいからかな。

申し訳なさと有り難さを感じつつ、今日一日の苦労を思いながら焦げ茶の髪を撫でてニコリと笑った。



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