13
子供ながらに力持ちな二人によって範囲内の土があっという間に掘り返された。一番労力の要る作業なのだが。
とはいえ、作業はまだまだこれから。畑作りは大変なのだ。
ざっと掘り返された範囲に再度、今度は土を混ぜ合わせるようにして鍬を入れる。この時に土の塊があれば砕き、石があれば取り除く。
リーンとキャシーは石を見つけて取り出し脇に除ける係を任命された。
途中出てきた石にリーンが魅了され、頭上に掲げて褒め称える姿を皆で見守った(セオは横で一緒に石を褒めてた)り、石拾いに夢中になったキャシーがセオの背中にドンとぶつかり、殺し屋の眼光で見下ろされて「びゃ!」となったり。色々あったが順調に進んだ。
ここまで来ると大分畑っぽくなってきた。掘り返されて黒っぽくなった土が空気を含んでフカフカしている。
ケネスは満足気に見回して頷き、用意してあった大きめの木のバケツを出してきた。何やら黒い土?のような物が入っている。
「伯父さん、水ちょーだい。半分ちょっとぐらい?」
「あいよ」とフレディが軽く答える。
どうするのかと見ているとフレディがバケツに右手を翳し、目をつぶって集中し始める。数秒の間の後、「ウォーター」という言葉と共にトプリとバケツの中に水が。
「「まほう!!」」
リーンとキャシーが瞳をパチクリさせて、バケツとフレディに視線を行ったり来たり。セオも「おぉ」と呟きちょっと目を見開いている。
「へへっ。おいらの唯一の特技でさ。まあ、ちゅうてもバケツを満たすのがせいぜいですがね」
照れたように笑いながらフレディが言う。
この世界には魔法という不可思議な力がごく普通に存在する。存在する事は普通だが、誰もが使える訳ではない。
生まれながらに相性の良い属性が人それぞれにあり、更にスキルとして魔法の適正を持っているとその属性の魔法が使える。
相性の良さによってどの程度の魔法が使えるか決まるが、相性は生まれた時点から生涯変わらないのか、後天的に良くなったり悪くなったりするのかは解っていない。
恐らく後者ではないかと言われている。
魔法を使う際に決まった呪文などは特に無い。本人が何か言った方がやり易いなら言えば良いし、そうで無ければ無言でも発動する。
ただ、このセリフを唱えたらコレが出る。と明確にイメージ出来るため、また暴発を防ぐために唱えるのが一般的だ。
セリフは何でもいい。
ちなみにフレディは以前「みず!が、欲しい!」と唱えていたが、かっこ悪いと弟にダメ出しされて修正された。
かっこ悪くとも何でも、平民で魔法を使えるという時点で珍しく凄い事なのだが。
ひとしきりフレディの魔法に興奮しすごいすごいと大騒ぎした後、また作業に戻った。バケツに入っていた黒っぽい何かと水をキャシーが柄杓でぐるぐるして混ぜる。黒っぽい何かは肥料のようだ。
出来た液体をリーンとキャシーが撒き、最後にフレディが再度土を混ぜるように全体に鍬を入れる。
見守り役だったフレディが最後に作業に加わるのはフレディが植物育成系の何かのスキルを持っている、と思われるからだ。
何ともはっきりしないが仕方ない。スキルを調べるには教会に行かねばならず、教会は街にしかない。更に調べるのに多少とはいえ金銭がかかるのだ。世知辛い。
これが平民に魔法使いが少ない理由で、調べないと相性のいい属性も魔法適正の有無も分からない。使えるようになるかどうか分からない状態で闇雲に魔法の練習に時間をかけるのは難しく、諦める人が大半だ。
魔法以外のスキルも同じ事が言える。自分に何の適正があってどんなスキルを持っているのか分からない。経験によりなんとなく分かるものもあるが。
誰もが子供の頃には「自分には凄いスキルがあって、街で調べたらきっと有名人に!」と夢を見て、いつか調べようと思いつつ日々の生活に追われ、いつの間にか「調べたって仕方ない。金の無駄だ」と諦めるのだ。
"冒険者" と呼ばれる魔物と戦う人々や騎士、それと貴族はこれらに含まれない。前者は命の危機に直結するため、後者はどれだけ有用なスキルを持っているかがステータスとなるため調べる。
貴族の子供は十歳になる前に一度は調べるのが普通だ。より良いスキルを持った子供が跡取りに指名されやすい。
何はともあれ畑作りの今日の作業はお終い。
この後時間を置いて土が馴染んだら、畝を作り種を植える。本来は数週間置く必要があるが、そこはフレディのよく分からない植物系のスキルで短縮されるらしい。
リーンとキャシーは魔法を初めて見て大喜び。セオは初めて友人と過ごす時間を経験し、しかも新たな友人も出来るかもしれない。フレディは平和に終わって神、いや甥っ子に感謝の祈りを捧げているし、その甥っ子は後で小遣いやると言われてホクホクだ。
こうしてお野菜育てよう計画第一回目は大成功に終わった。