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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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お土産は、小さな花まみれになったリーンとキャシー。


花は花束に出来るほどの大きさは無く籠なども持っていなかったので、リーンもキャシーもシャツの裾を手で持ち上げて広げ、そこに摘んだ花をたくさん入れて持って帰って来た。



一生懸命零さないように運んだが、そこは幼児なので。

ポロポロ道に落としながら、風で舞い上がった花を肩や頭にくっつけながら、それでも二人分合わせてそれなりの量の花を持ち帰る事に成功した。


ちなみに帰り道は遠くから近くから、村人達が何人も微笑ましそうにハラハラしながら見守っていたが、二人は花に集中していて気付いていない。

転びそうになったら笑顔の大きなクマがサッと動くので大丈夫です。



ミリアは花まみれになってがんばった!と言わんばかりの誇らしげな顔をした二人のちびっ子をそれはもう歓迎し、とても喜んだ。受け取った花は籠に入れてしばらく飾った後で、乾燥させて保存するらしい。

「ポプリにしようかしら」と、籠に移した花を指でつついて嬉しそうに笑う。



「おとうさん」

ニコニコしながらもミリアをちょっと羨ましそうに見ていたドランにリーンが近付く。

待ち受けるように片膝をつくと、目の前に来たリーンが小さな右の拳をニョキっと差し出した。


「あのね、これ。かっこいいいしを、たくさんひろって。これがいちばんきれいだから。おとうさんのおみやげ」


リーンが右手を開くと、その小さな手のひらの三分の一ぐらいの大きさの黒っぽい石が現れた。楕円形でツルツルとした表面をしていて、一部アクセントのように三角形の形に飴色が入っている。



「これは……とても綺麗だね。こんな綺麗な石を貰っても良いのか?」

差し出された手のひらからリーンの顔に視線を移すと、先程見た誇らしげな顔で頷く。

「うん。おみやげだから」



ちょっと泣きそうになりながら微かに震える指先で石を摘み、受け取る。

「ありがとう。とても嬉しい。大切にするよ」

一瞬躊躇した後に大きな左手で小さな頭を撫でる。亜麻色の綺麗な髪は見た目通りにとても柔らかいのだと、この日初めて知った。


その日の夕食は、リーンがこの家に来てから一番賑やかで、一番和やかな空気だった。




夕食後に皆でお茶を飲んでの団欒。

お土産も渡したし、夕食時に家の裏に小さな畑を作る許可も貰った。

畑に関しては厩と玄関周り以外なら好きにしていいと、思っていたより至極あっさりと広範囲に許可をくれた。キャシーがやる気に満ち溢れてフンフンと拳を振っていたので、恐らく明日にでもフレディに突撃するだろう。


ここまでは上々だが、リーンにはもうひとつ課題がある。



「おかあさん」

よし。と気合いを入れたはずなのに、予定より大分小さな声が出た。

「なあに?」

それでもちゃんと届いたようで、ミリアがニコリと笑顔で応える。


「あの……」

どう言えばいいのか分からずにモジモジと手元の紅茶を見つめる。ミリアは笑顔のままで急かす事もなく、リーンの言葉を待った。

「えっと」

視界の端に部屋の隅に控えるイワンの大きな姿が映る。

そうだ、イワンが言っていた。

「あの!ボクは、おかあさんがふたりいて、でもどっちもおかあさんだと、こまるから。いまは、おかあさんが、いまのおかあさんで……」

あれ。よく分からなくなってきた。



「あら。私もマリーさんも今のリーンのお母さんでしょう?でもそうねぇ。確かに二人もいたらどっちもお母さんじゃ混乱するわね」

素晴らしい。通じたようだ。というか、イワンから既に報告を受けている。いつ言い出すのかと待っていたのだ。


ポカンと口を開けてパチクリと瞳を瞬くリーンに、ミリアが事も無げに告げた。

「マリーお母さんとミリーお母さんで良いのではないかしら。あら、なんだかお揃いみたいね」

楽しげにクスクス笑いながら他に呼びたい呼び方がある?と聞かれて、フルフルと首を振る。



「……ミリーおかあさん」

小さな声で呼ぶと、はぁいと、また笑って応えがある。

「ミリーおかあさん、ありがとう」

今度ははっきりと声に出し、ニマニマする口元を両手で隠した。何故かちょっと恥ずかしい。

「どういたしまして?」

おどけたように笑って言いながらミリアはホッと小さく息をついた。今回のような問題はとてもデリケートで、根を張ってしまうと厄介だ。幼い子供なら特に。

早い段階で対処が出来て良かった。イワンに感謝を込めて視線を向けた。




その日は、結局ベッドに入って眠りにつくまで、リーンの口元のニマニマは治らなかった。

一日中、いい事ばかりだった。明日もそうだといいなぁと思いながら、夢の中でかっこいい枝とかっこいい石を探す旅に出たのだった。



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