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第十六話 査定

「ちょっと! いつまで寝てるの? 死んでるかと思ったわよ!」


 モトカの声で眠りから覚めた。

 それと同時にいい匂いが漂っているのに気が付いた。

 外が明るい、寝たのが昼過ぎだったような気がするから二十時間位ねてたのか?

 

「どうせ碌な物も食べてなかったんでしょ? パンとスープしかないけどこれ食べなさい」


 どうやらいい匂いの正体はスープだったようだ。

 もうずいぶんまともな飯を食べいない気がするな。

 まだ眠たいが目をこすりながら返事をした。


「おはよう。しばらく碌な物を食べていなかったからほんとにありがたいよ。ありがたく頂くね」


「別にそれくらいなんてことないわよ。それに食べ終わったら体を拭いて着替えて頂戴。見苦しいわ」


 ああ、確かに。

 体も拭かずに寝てしまったしな。

 よく見るとスウェットも泥だらけだ。

 でも着替えなんて持ってないしいつまでもスウェットを着ているわけにもいかないから着替えも調達しないと。

 やっぱり風呂に入りたいけどこの世界では贅沢なのかな。

 

「うん、でも着替え持ってないんだ。食べ終わったら体だけ拭かせてもらうよ」


「え? それしか持ってないの? 不潔ね! もう、わかったわ、ロビーで待ってるから終わったら来なさい」


 モトカが魔法でタライにお湯を溜めてタオルを二枚準備して出て行った。

 急いでスープとパンを詰め込んでいく。

 スープは野菜と肉の味がしっかり感じられる薄めの味だが久しぶりのまともな飯は身に染みる思いだ。

 見た目より硬いパンもスープと一緒に食べると小麦の甘さや香ばしさを引き立たせていて非常に美味しく頂ける。

 食事を急いで済ませ、体を拭いてロビーに向かった。


「あら、どんだけ急いで食べたのかしら。そんなに急がなくてもよかったのよ」


「あ、いや。待ってるって言ってたからついつい……」


「まあいいわ、いきましょ」


「う、うん。でも一体どこへ?」


「その汚い格好で私の周りをうろつくつもり? 見苦しいからアタシが見繕ってあげるわ」


「あ、なにからなにまですみませんね……」


「まあこっちは命を助けられてるんだからこれくらいはなんてことないわよ」


「でもこの借りはそのうち返すよ。モトカの命を助けたのは俺じゃなくてトーマだし」


「確かにトーマには返しきれない借りが出来てしまったわね。でもユージがアタシに[回復]をくれたから助かったのも大きいのよ。その事実は変わらないし[回復]のスキルも貰ったままだしね」


 確かに[回復]のスキルを上げたのはでかかったのかもしれない。 

 でもその状況を作ったのは紛れもなくトーマで俺があの場に残っていたらモトカに[回復]を与えられずに死んでしまっていたかもしれないんだ。

 

「それでも、モトカの命を救ったのはトーマであって俺じゃないんだ。俺の中でそれは変わらない。だから借りを返すならトーマにしてやってくれ」


「めんどくさいわね、もうなんでもいいわ。とにかく今はアンタに服を買う。理由はその汚い服で近くをうろつかれたくないから。それでいいわね」


「うーん、まあ、そうだね。今はありがたく受け取るよ」


 服屋についてモトカが適当に見繕ってくれた。

 侍っぽい服が目に入ったけどこっぱずかしいからやめといた。

 結局ごく普通な長袖にごく普通な長ズボンを二着セットで買ってもらい、革の靴と胸当てはそのまま洞窟から持ってきたものを装備した。


「まあこれで少しはましね。あとは武器ってそれがメインなの? 業物っぽいけど、どうみても脇差って感じだし?」


「あ、これはあり合わせでまともに使えそうなのがこれしかなかったんで今はこれを使っているってだけです。ほかにも色々もっているんですけどほとんどボロボロなやつか扱いきれない武器ばっかりで……」


「ふーん、じゃあそれ売っちゃえば?武器はちゃんとしたのを持っといた方がいいわよ。アタシが見繕ってあげてもいいんだけどそれじゃあ嫌でしょ?」


「おお、そうか。武器って売れるんだよね。でもなんか古い武器ばっかりだったからたいしたお金にならなさそうだけどまあ査定してもらうだけでもお願いしてみようかな」


「じゃあ色々な武器があるなら一番大きな武器屋に行くわよ。まとめて査定してもらうならあそこが一番いいわ」


 武器屋に着いた。

 歴史を感じる木造の建物だな。

 十二帖くらいの広さで色んな武器がごちゃっと並べられていてよくある個人経営のリサイクルショップみたいな感じだ。

 

「おう、いらっしゃい。何の用だい?」


 スキンヘットでガッチリとした男が店主のようだ。


「ちょっと武器の査定をしてもらおうと思ってきました」


「おう、そうかい。で、どんなのがある? 見せてみろ」


「えーっと、まずはこれかな」


 刃毀れのしてるおなじみのロングソードを取り出した。


「おう、こいつはかなり古そうだな。見た目のデザインはいいがあんまりいいものじゃないな。まあ銀貨三枚ってとこか」


 お、しまったな。

 お金の価値がわからんぞ。

 銀貨三枚かよくわからんけどパン一個でどれくらいの値段なんだろうか。

 正直にモトカに聞いてみるか。


「ごめん、モトカ。お金の価値がわからないんだけどざっくり教えてくれない? さっき食べたスープとパンで銀貨何枚とかギルドの宿で銀貨何枚とかでいいからさ」


「はぁ??? アンタどうやって生活してきたの? 辺境の村ってお金も無いような村なわけ? 聞いたことないわよ。世界共通通貨よ??? 何百年前からら変わってないのよ???」


「いやー、そういわれても。わかんないことは仕方なくない?」


「もう、わかったわ。説明すればいいんでしょ。一番小さいお金は鉄貨で、鉄貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚、大金貨十枚で白金貨一枚って感じね。パンとスープは銅貨一枚から二枚くらい。ギルドの宿は銀貨一枚だけど普通の宿だったら三枚ってとこね。こんな説明でわかる?」


「おお、大体わかったと思う」


 うーん、銀貨一枚千円くらいか?

 で、銅貨一枚百円くらいの感覚って感じかな。

 ってことはロングソードは三千円位で売れるって事か、まあいーんじゃないかな。

 まあでもここは粘ってみるか。


「銀貨三枚ですか、五枚は欲しいですね」


「いやいや、これに五枚は厳しいぜ」


「じゃあ間を取って四枚でどうですか?」


「おう、わかった。それでいい」


 よっしゃ、査定アップじゃ!

 どんなもんじゃい。

 次々行こう。

 次はこの型のそろったレイピアだな、完全に串焼き用に使ってたけどまあいいだろ。


「ふむふむ、ボロのレイピアが七本ね。……んん? これは……? まさか…? 八腕のヤトラデルのレイピアじゃないか? 兄ちゃんこれもう一本ないのか?」


「無いですね……」


 うぉーーーー

 やべぇーーーー

 一昨日魔物の串焼きしたときに一本焦げ付きがひどくて汚れが取れなかったから石に擦ってたら折れちゃって捨ててしまったやつだーーー!!

 結構価値のあるやつだったのかよーーーー!


「八腕のヤトラデルって言ったら五百年前に邪神に倒された海人族の英雄じゃないの!!」


 追い打ち来たーーー!!!

 英雄の遺品で串焼き奴ーー!!

 たぶんまだあそこにあるからあとで拾いに行こう!!

 

「いや、あと一本折れていて持ってきていないですけど後で持ってきます」


「おお、そうかい。じゃああっぱり本物なんだな! それにしても焼け跡がひどいな。きっと壮絶な最期だったんだろうな。これは海人族に献上した方がいいかもしれん。大騒ぎになるかもしれんな! ということでここでは買い取れん。きっと褒美が出るから自分で持っていけ」


「はぁ、そうですか」


 おいおい、串焼きした後だけどいいのか?

 うん、いいよな、きっと喜んでくれるさ。

 うんうん。

 次は、えーっと、この弓だな。


「おう、お次は弓か……。……これユグドラシルの弓……」


「ユグドラシルの弓!? 五百年前に邪神に倒されたエルフの王子、光の狩人ハーロルフのじゃないの!! 『ユグドラシルの弓から放たれる矢は音を置き去りにする、光の狩人ハーロルフに狙われれば獲物は気づく前にその命を終えているだろう』って有名な逸話よね!?」


「おう、そうだな……」 


「……えーっと、これはエルフに献上ってことでいいですかね? 次行きましょう。次。」


 おいおい、この流れはやばいぞ……

 このシンプルな普通の槍みたいの行ってみるか……

 

「おお! これは! 普通の槍だな! 柄は今にも朽ち果てそうだが刃の部分はミスリルじゃねぇか。こいつは金貨十五枚出そう」


「おお、それでお願いします」


 いい感じだぞ。

 やばい武器続きでヒヤヒヤしたけどまあそうそうあるもんじゃないだろ。

 次はこの斧でいこう。


「ん……? こいつは毛色が違うな……。こいつはグナロッグの斧だな。これまた五百年前の邪神の関連か……邪神の幹部の斧だ。こいつは白金貨一枚でいいなら買い取るぞ」


「あ、はい。お願いします」


 えーっと、銀貨一枚千円として……大金貨が十万……白金貨が……百万……

 これいいのか?

 まあいいか知らね。

 俺知らねぇえからな。

 もう次行こ次。

 このハンマーみたいな鎌でいこう。


「こいつは――」


「――ちょっとまった!! これはアタシに頂戴!! ね? いいよね? ありがとう!! 貰ってあげるわね!!」


「そりゃ戦神の鎌鎚で、売れば最低でも白金貨数十枚には――」


「――いーーーの、いーーーの! ささ、次行きましょ。次。」


 もぎ取るようにモトカが奪い取っていった。

 なんか聞き捨てならない言葉が聞こえてきたが……

 もうこの際なんだっていいや。

 次行こう。

 お次はこれかな、何かの骨で作られてる剣だな。

 ゆうてもただの骨、さすがにこれはごみでしょ。


「こいつは……ドラゴンキラーだ。竜王の骨から作られているだが、現物を見るのは初めてだな」



 ドラゴンキラー!!

 ただの骨じゃなかった!

 言われてみるとだんだんかっこよく見えてきたぞ。

 これも誰かの遺品かな。

 

「これは何処かに献上するやつですか?」


「そうだな、ドラゴンキラーは大昔に数個ほど出回った武器でさすがに誰のかわからねぇ。買い取りもしてみたいが白金貨100枚とかになるだろうよ。さすがにそんな大金ここにはねぇしこんな田舎で買い手もいないだろう。それにこれが最後の一振りかもしれないな。とりあえず他を当たってくれ」


 ドラゴンキラーをしまった。

 どっかで売ってもいいし、いつかドラゴンを倒すときが来たら使うのもいいかもしれないな。

 今は大事にしまっておこう。

 次はこれいくか。

 この禍々しいデザインの剣。

 髑髏やら蛇やらがゴリゴリに散りばめられてる趣味の悪い剣だ。

 触るのも気持ち悪くなるからスルーしてたけどこれもきっとやばいやつだ。


「ああ……魔神王の剣だ」


「献上……ですね?」


「ああ……魔国に」


「はい、次いきます」


 はぁ……

 これ俺が全部献上しにいかないといけない流れなのか?

 ちゃんと献上したらどんな褒美もらえるのかな……

 太っ腹などっかの王様が家とか爵位とかくれたりすんのかな

 拗らせた奴とかに盗んだとか適当な言いがかりつけられたりしないかな。

 まあそれはおいおい考えるか。

 今は自分の持ち物を把握できていい機会だしな。

 さ、次はこのなんの変哲もない木の杖かな。

 これもあれだろ?

 どうせやばいやつなんだろ?


「これは―――」


「―――これはユグドラシルの杖!! 原初の魔女、ハーフエルフと悪魔の娘、リリアンナの使っていた杖よ!! これも500年前に失われた物よ!! アタシが預かるわ!!」


「あ、うん、そう、まあいいけど」


 杖ね、まあそうだよね、魔女だもんな、モトカも魔女だもんな。

 いいでしょう。

 あとはもうめんどくさくなってきたな、纏めて出すか。


「面倒になってきたんでまとめて出しますね」


 ほいほいほいっと。


「またこれは……」


「結構あるのね……」


「まあいろいろと……ね」


「おう……この双剣と弓は獣人に献上だな。この金棒は鬼人、この斧と戦槌と槍とメイスは魔人、このハルバートとランスは王都だな……」


「ああ……はい。そうですか」


「あとはちょっとした業物が何個かと他はボロだな。全部まとめて白金貨十枚でどうだ?」


 どうなんだ?

 とんでもない金額な気がするが……

 まあほとんど扱いきれない物ばっかりだからまあいいか。

 もうめんどくさいしそれでいいや。


「それでいいです」


「じゃあ全部で白金貨十一枚と金貨十五枚と銀貨4枚だな。ほらよ」


「はい、たしかに。それにしてもこれだけの武器を全部把握してるなんてすごいですね」


「ああ? そりゃあ武器屋って言っても商人の端くれだからな。鑑定のスクロールくらい使ってるよ」


「鑑定のスクロール??」


「はぁー。そんなことも知らないのね。共通言語理解のスクロールは前に使ったでしょ?あれと同じでスクロールの効果で見た物と触れた物の詳細がわかるようになるのよ。ただ鑑定のスクロールは永久の物はないし、かなり高額でアタシもまだ買っていないわ。それに使っても情報量が多すぎて頭がパンクしてしまうから見たり触れたりしたものの情報だけしか引き出されないように制限がかけられているのよ」


「へー。そんな便利なものがあるんだね。高いっていくらくらい?」


「この街だと白金貨十枚で売ってるわ」


「おお、結構するんだね」


 一応買えるのか、ただ自分の武器を買わないといけないからちょっと厳しいかも。

 一旦保留だな。

 ああ、そうだ出し忘れたけどあと一本あるんだった。

 これ鞘から抜けないから相当錆てるんだろうけどこんなのも売れたりするのかな。


「お……お……おい…」


 店主が突然驚愕して俺の持つ鞘から抜けない剣を指さして、モトカもモトカで目を見開いて口をパクパクさせている。

 え? これそんなにやばいやつなのか?

 正直ガラクタだと思っていたけど……


「物の出所についちゃあ暗黙の了解で聞いちゃならねぇんだが……すまねぇな、それをどこで……?」


「これも他のと同じでちょっとした洞窟にあったのを貰ったと言うか持ってきたというか……」


「そうか、もしかすると、そこは邪神の住処かなんかなんだろう。いや多分そうだ。揃いも揃って五百年前の武器がこんなに纏めて出てきたんだ間違いないだろう。そのほとんどが邪神に倒された者の武器だからな。それにしてもそいつは……」


「いや、だから何なんです? これ?」


「邪神に倒された先代の勇者アルスルの使っていた剣、聖剣エクスカリバーだ……」


 あ、ふーん。

 これか、エクスカリバーね、はいはい、よく聞くやつね。

 なるほどね、だから鞘から抜けないってわけね。

 元の世界じゃ岩に刺さってるパターンだけどこれは鞘から抜けないやつね、へー。

 なんだろう、もう心が動じないって言うかもう麻痺してるのかも。

 えーっと、これはあれかな、王都でいいのかな?


「これは王都に持ってけばいいんですか?」


「そうだ、だが……ちょっと触ってみてもいいか……?」


「あー、はいはい、どうぞどうぞ」


 やはり剣は抜けないようだ。

 

「アタシもいいかしら、勇者にしか引き抜けないってわかってるけどやっぱり試してみたいわよね……」


 ほとんど力任せで無理やり引き抜こうとしてるけどモトカの怪力でもびくともしない。

 

「やっぱり無理ね……はい、返すわ」


「あ、うん」


 返されてもな。

 なんか重すぎる物を背負ってしまったな……

 

「一応、忠告しておくが、それはけっして見せびらかしたりしちゃいかんぞ。もちろん俺も黙っておくが、誰かに知られたら命がいくつあっても足りん。もし無責任に手放しても不要な争いや諍いを招く。お前がしっかり王都に運んで国に献上するんだ。なーに、聖剣なんて探してる輩もいないし黙っていればわからん。心配すんな!」


 何が心配すんな!だよ。

 他人事だと思いやがって。

 なんで異世界にきて早々にこんな面倒背負いこまないといけないんだよ。

 褒美がしょぼかったら暴れてやるからな。

 

 それにしてもトーマを探さなくちゃいけないのに面倒なことになったな。

 さっさとトーマを見つけて異世界をめぐりながら武器を献上して周るってのも悪くはないだろうけどな。

 どのみち当面はトーマを探すからしばらくは行けそうにないな。


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