第十四話 捜索
[感知]で辺りを探りながら街を目指していると十人位の人間がこちらに来る気配を感じ取った。
もしかしてギルドの要請でダイアウルフの討伐に向かう人たちかな?
とにかくトーマの手がかりになるかもしれないから話を聞きに行こう。
目視できるところまで近づくとさっき門に居たセガロと呼ばれていた男を見つけた。
向こうもこちらに気が付いて速足でこちらに向かってくる。
「おーい、お前さん。生きてたか! ギルドがダイアウルフの偵察に冒険者を集めてダイアウルフが本当にいるか調査しに行くとこだったんだ。俺はお前さんが気になって付いてきたんだよ。とにかく生きててよかったよ。モトカも無事でお前のことを心配してたぞ」
「すみません。ご心配おかけしました。仲間もダイアウルフも見つかりませんでした。広範囲を探ったんですが……。入れ違いで仲間が街に行っていないか確かめようと戻るところでした」
「そうか、街には戻ってきていないと思うが、一応見に行ってみた方がいいかもしれんな」
「ええ、そうします。モトカの容態も気になりますし。モトカが仲間の居場所に何か気づいてくれるかもしれませんから」
「ハハハハ、ダイヤウルフが本当に出たんなら生きてるわけねーだろ! そもそもお前だって逃げ切れるわけないんだからさ。せいぜいグレートウルフにビビって逃げてきたんだろ?お前の仲間はそのグレートウルフの腹ん中だよ」
「おい、ヤトル。言いすぎだやめろ馬鹿が」
「なんだよ、事実だろ」
「いいから黙れ」
モブAみたいな鼠顔の男が捲し立ててセガロさんが止めに入ってくれた。
あと少しで手が出るところだった。
あぶない。
「私もダイアウルフが出たとは考えにくいですね。ただあのモトカがあれだけの傷を負って帰ってきたので気がかりではありますがね。とにかくこの方は仲間と逸れてしまったんですからあなたは本当にデリカシーがないですね」
スラっとした知的そうな男がフォローしてくれた。
そうそう、あのトーマがあっさり死ぬとは思えんしな。
ちょっと逸れただけのはずなんだ。
「とにかく、俺はお前さんが気がかりでついてきたんだ。一緒に街まで戻るとするか」
「ええ、ではご一緒させてください」
「じゃあお前らは引き続き調査を頼むな! もしダイアウルフが出たらヤトルを囮にするといい」
「元よりそのつもりですよ。置きお付けて」
「おいおい、ちょっとからかっただけだろ。そりゃないぜ」
「あなたは度が過ぎるのです。少しは反省してください」
「へいへーい」
冒険者達は先へ進んでいった。
「さて、俺達も行くか」
歩き出しながら答える。
「はい、そうしましょう。改めまして、自己紹介がまだでしたよね。私はトーマと言います。辺境の村から出てきました。この辺の作法がわからないので失礼な事があるかもしれませんがご容赦ねがいたいです」
「ハハハ、そう硬くならないでいいぞ。この辺は作法もくそもない、ただの荒くれものの街だ。俺はセガロ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「あいつらはこの街のギルドを拠点にしている冒険者達だ。ダイアウルフって聞いてビビり倒していたからあれくらいの戯言の一つや二つ許してやってくれ。ビビりながらも街のために調査を買って出てくれたんだ。悪いやつらじゃない」
「ええ、そのようですね。私も気にしてないですよ。ただ……、もしダイアウルフを発見したら彼らはダイアウルフを倒せるんですか……?」
「馬鹿言え、そこまでの実力者は冒険者でも数えるほどしかいねえ。それこそS級の冒険者と王国の騎士団くらいだろう。発見したらすぐに逃げてギルドに報告するだろうよ」
「そうですか……」
この世界の強さの基準がいまいちだが逃げるだけなら可能か?
あのプレッシャー、思い出しただけでも背筋が凍る。
逃げスキルに特化したスキル持ちがいるんだろうか。
とてもじゃないけど逃げ切れるとは思えんが。
まあでも辺りにダイアウルフの気配が全くしなかったし、匂いも無くなっていた。
近くにはいないだろうから問題ないか。
「あのダイアウルフ、空を駆けるように追いかけて来たんで彼らも上手く逃げれるといいんですが、逃げるためのスキルか魔法があるんですか?」
「おいおい、空を駆けるようにだって? そりゃあダイアウルフの[空蹴]ってスキルじゃねえか。本当にダイアウルフだったのか……」
「そうでしたか、さっき教えてあげればよかったですね……、今から戻って伝えてきましょうか?」
「いや、その必要はない。あいつらもダイアウルフがいる前提で行ってるんだ。準備はしっかりしてるさ。最悪ヤトルを囮にしてでも逃げるだろう。ってのは冗談だが逃げるくらいなら何とかなるさ心配すんな」
「そうですか。それならいいんですが」
そうこうしているうちにトーマの手がかりが見つからないまま街にたどり着いた。
門番のランズにトーマの特徴を伝えたが見ていないらしい。
ギルドの宿にモトカが居ると聞いて向かってみた。
「よう、モトカは居るかい?」
受付の女性にセガロが訪ねた。
「先ほど慌てた様子で出て行ったばかりです。あれだけの重症を負っていたのにすっかり元気そうに見えたので驚いて引き留めるのを忘れてしまいました」
「おいおい、あれだけの怪我だ。二、三日は安静にさせないとな。ちょっと捕まえてくるよ」
そりゃそうだ、いくら回復魔法があるとは言えあれだけ血を流したんだからすぐに活動していいはずがないよな。
まあでも[回復]の恩恵があるから皆が思ってるような状態ではないだろうけど。
出たばかりなら[嗅覚]と[感知]で簡単に見つかるだろう。
とりあえず、モトカを探しに行くか、たぶん俺達を探しに行ってるんだろうし。
さっさと追いつきたいからここはセガロさんと別れて一人で行こう。
「セガロさん、私がモトカを追いますからここで一旦別れましょう。一人ならすぐに追いつけると思うのでサクッと行ってきます。あとで必ずモトカを連れて街に戻るのでご心配なく」
「いや、どうやって見つけるつもりだ? 土地勘とかもないだろう」
めんどうだな、[感知]があるとははっきり言いずらいから適当にごまかしてさっさと出発してしまおう。
「いえ、そういう魔法とかが得意なんで問題ないです。じゃあ行ってきます」
「いや、どんな魔法で――」
話している途中で無視して飛び出した。
[敏捷]と[瞬身]を使ってあっという間に門までたどり着いたから追ってはこないだろう。
さっそく門番のランズに聞いてみたがモトカを見ていないらしい。
だが[感知]で探ると街から離れていくモトカの気配に気が付いた。
門番に気づかれると止められると思ったからだろうこっそり抜け出したんだな。
すぐに後を追って追いついた。
「おーい、モトカ! 俺だよ! トーマだ! 待ってくれ!」
一瞬ビクッとして振り向いた。
「あら、よかった。アンタ生きてたのね。探しに行くところだったのよ。もう一人は…?」
「トーマならまだ見つかっていない。あいつ妖刀に支配されているふりをして俺達を逃がしたんだ。すぐに戻ったんだけど見つからなくてさ。ダイアウルフもいないんだ」
「そう、アタシが油断したせいで……本当にごめんなさい」
「いや、接近に気が付かなかった俺も悪いし俺達二人だったらたぶん訳も分からず二人ともやられていた……」
「でもアタシも油断してしまったのは事実。アタシが攻撃を受けずに奥の手を使えていればダイアウルフでも倒せていたと思うわ。とにかくトーマを探しましょう」
「そうだな、でも体は大丈夫なのか? 街で待っていた方がいいんじゃないか?」
「アタシのせいでこんなことになってるんだから休んでられないわ。それに思ったよりも調子がいいのよ……。そういえばあの時、[回復]のスキルを君に与えたって言ってた気がするけど……聞き間違えじゃないわよね?」
うわ、そうか、まずいな。
俺のスキル[メモリー]についてペラペラ話していいんだろうか。
かなりのレアスキルだと思うんだが、厄介ごとにまきこまれたりしないよな?
「ああ、えーっと。俺のスキルで他人にスキルを与えたりできたりできなかったり? 俺もまだ把握しきれてないからよくわかんないんだよね。とにかくモトカが死んじゃいそうだったから[回復]を与えてみたんだ。上手く行ってよかったよ」
「そんなスキル聞いたことないわね……。[回復]と言えばトレントの固有スキルよね。たまに持っている人もいるけどかなりいいスキルよね……。まあありがたくいただいておくわ! 詳しく聞きたいとこだけど今はそれどころじゃないわよね。とにかく彼を探しましょう。またダイアウルフに遭遇したら最悪だから手分けして探すのは愚策ね。一緒に探しましょう。」
「そうですね、こうしている間にもまだトーマは戦っているかもしれません。一人だとダイアウルフに遭遇した時に不安だったのでありがたいです。でも急いだほうがよさそうですね。少しの間拠点にしていた洞窟があるのでもしかしたらそこにいるかもしれません。辺りの気配を探りつつ行ってみましょう」
「わかったわ。とりあえずそこに向かってみましょう」
軽めに走りながらモトカの様子を伺ってみたがほんとに怪我は大丈夫そうだった。
血がかなり流れていたけど回復魔法やポーションなんかで何とかなるもんなのかな、よくわからんけど。
とにかく少しでも体調が悪そうなら街においてくることにしよう。
元気そうなうちは彼女自身も納得しないだろうから連れて行くとするか。
「もうちょっとペース上げても大丈夫?」
俺は[敏捷]があるからもっとペースを上げられるんだけどモトカはどうだろうか。
「ん、じゃあ魔法でバフを掛けるわ」
モトカは呪文を唱えてスピードを上げた。
あれ? それ[敏捷]使える俺に掛けたらどうなるんだろ?
まあいいや、余計なことは考えずに[感知]と[嗅覚]を研ぎ澄ませないと。
アースウォールのところまでやってきたがやはり何もいない。
そして血だまりの方にも行ってみると調査に来ていた冒険者達がいた。
「よう、モトカじゃねえか。死んだって聞いたけどな!」
またコイツだ、ヤトルと言ったか。
急いでるし適当に情報を聞き出して洞窟に向かいたいな。
「アタシを誰だと思ってるの? アンタみたいな雑魚虫と違って簡単に死んだりしないわ! 雑魚虫の分際でアタシに話しかけてこないで!」
雑魚虫とはずいぶん……、まあいいか。
「ヤトル、少し黙っていなさい」
またスラっとした知的そうな男がヤトルを制した。
「全く、カジットは冗談が通じねーな」
ヤトルは悪びれる様子もなく、そっぽを向いた。
ふむ、スラっとした知的そうな男はカジットって名前なのか。
とりあえず彼に様子を聞いてみるか
「それでカジットさん、調査の方はどうですか?」
「ええ、聞いていた方向に進んでこの血だまりまでたどり着きましたが……ここからは手がかりがなさそうですね。近くにダイアウルフの気配もありません。ここらで一旦ギルドに戻って報告に行こうとしていたところです」
「おいおい、そもそもダイアウルフなんてほんとにいたのか? せいぜい大き目のグレートウルフだろ? とんだ無駄足だぜ」
性懲りもなくまたヤトルの野次が入る。
「いや、[空蹴]を使って追ってくるのを見たのでダイアウルフで間違いなさそうですよ。ただなぜかいなくなっていましたけどね」
「な!? [空蹴]だって? 確かにグレートウルフは[空蹴]なんて使えない……」
「そうですか、[空蹴]を……モトカの傷と証言からしてやはりダイアウルフはいたのでしょう。ただ今はこの近くにはいないようですが」
「フン、だからダイアウルフって言ってるじゃないの! これだから雑魚虫なのよ」
「ただダイアウルフも仲間もどっちも居ないとなると……。なにがどうなってるのか……」
「そうですね、普通はどちらか一方が生き残るかどちらも生き残るか、どちらも居なくなるとは……少々難儀ですね」
「ええ、ですから私たちは調査を続けます。カジットさんたちはギルドに報告に戻ってもらっていいですよ」
「そうしますか。帰り道でも捜索範囲を広げて探してみます」
「はい、助かります。ありがとうございます」
「では、お気をつけて」
そう言って冒険者たちは引き返していった。
「俺達も行こう」
「ええ」
そして俺たちは辺りを探りながらあの洞窟までたどり着いた。
やはりここにも来ていない。
来た道とは違う道から街に戻ったがなんの痕跡も見つけられなかった。
そしてそのあと一人で三日間寝ずにトーマを探したがトーマもダイアウルフも見つからなかった。