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転生後の人生は思いのまま!・・・とはいかないようです  作者: Nana
第一章 病弱な伯爵令嬢
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04. お揃い

 今日のために誂えた服を着て朝食の席に現れたアンナは、ダイニングルームに入って来るなりスカートの裾を翻しながらクルリと回り、眩しいほどの笑顔を家族に向けた。


「どうかしら? これ、お義姉様とお揃いなのよ!」


 義母は苦笑していたが、父は目を細めてよく似合うよ」と短く答えた。そして、兄はアンナに微笑みかけてから私に視線を移し、静かに口を開いた。


「とてもよく似合っているよ、アンナ。そして、普段とは違う装いのセシリアも可愛いね。そう思いませんか?お父様」


 私の装いに気づきもしない父を促す、兄の心遣いが嬉しかった。


「そうだな。今日はお前も一緒にアンナたちと街へ行くのだろう? アンナとセシリアを頼んだぞ」


「はい。お任せください」


 せっかくの気遣いだったけれど、お父様はすぐに話題を変えてしまった。

 いつものことだから気にしないけれど、兄から向けられる気遣うような視線を感じて居たたまれない気持ちになってしまった。


 お父様は伯爵という地位ではあるが、王宮で宰相の地位についている。

 宰相職に就くにあたっては爵位が上の貴族たちからの圧力があり、かなり苦労をしたらしい。


 当時の父を支えたのは若い頃に諸国を留学して得た広い見識と、妻が国防の要とも言える東の辺境伯の娘であり、なおかつ王立第三騎士団の副団長として軍部の人望を集めていたことが大きいと聞いている。


 人望を集めていたらしい母だけれど、私は肖像画でしか見たことがない。

 もともと肖像画を描かれるのが好きではなかったらしく、屋敷に1枚だけ残っている肖像画からは線の細い金髪女性がたおやかに微笑んでおり、とても王立騎士団の副団長を務めていた女傑とは思えない。


 しかし、この母は私を出産した後の肥立ちが悪く、この世を去ってしまった。

 あまり考えたくないことだし、誰にも話したことはないけれど、もしかしたら父は私のことを恨んでいるのかもしれない…… そんなふうに思ってしまうのは、一度や二度のことではなかった。


 俯いたままの私を心配したのか、「セシリー? 温かいうちに頂こう」と兄が促した。


 幼い頃から私のそばにいてくれる兄は、私の感情の機微を捉えるのが上手い。

 ありがたいことだけれど、あまり気を遣わせては申し訳ないので、できるだけ明るい笑顔を作って「はい」と答えてカトラリーに手を伸ばした。


 今日、私たち兄妹は王都へ出かけることになっている。


 伯爵家に身を寄せるようになってからも、アンナは折を見ては王都へ遊びに行っていた。裕福とはいえ平民だったアンナは市井に友人や親戚が大勢いるので、頻繁に行きたがるのは当然なのかもしれない。


 そして、ずっと家に籠りきりの私を心配して「お義姉様もご一緒しましょう!」としきりに私を連れ出そうとするのだけれど、知らない人と会ったり知らない場所へ行くと緊張してしまうので気が進まなかったのだ。


 陽気な義妹は『人と会って緊張する』という感覚が理解できないようで、私が「人と会うのが苦手だから」と言って断ると、「どうして?」と聞いてくるのだから困ってしまう。どうしてと言われても…… と言葉に詰まりながらも、何とか断り続けていた。


 しかし何度か断っているうちに、断った時のアンナの寂しそうな顔を見るのが忍びなくなってきて、とうとう街歩きに同行することになってしまった。


 屋敷ではレースで縁取られたドレスを着ているけれど、さすがにこれでは街へ行くのには不都合だったので新しく服を誂えることにした。そして出来上がった服を見てみれば、アンナと色違いのお揃いのワンピースだった。


 私が色違いのワンピースを着ていることに気をよくしたアンナは、満面の笑顔を崩すことなく、今日をどれほど楽しみしていたか両親に向かって熱心に話していて、食事どころではないようだ。


 きっと、こういう様子を『子供らしい』と言うのだろう。

 こちらでの年齢が10歳であっても日本という国で20歳過ぎまで生きた記憶がある私には、到底真似のできないことだった。


 正直なところ私としてはあまり気が進まない外出だけれど、こうやってアンナが無邪気に喜ぶ姿が見れるのであれば多少の我慢は何でもないと思えた。もしかしたら、私も相当な『親バカ』なのかもしれない。そう考えると、自然と気持ちが明るくなった。


 思えばアンナたちが伯爵家に来てから、食卓の席が明るくなったように思う。

 私と兄と二人のときは穏やかな時間を楽しむことができたが、父親と一緒の食卓はなんとも気まずい雰囲気だったのだ。


 父が私を嫌っているのは、おそらく私の勘違いではないだろう。その原因だと思われることに心当たりがあっても、そのことに触れる勇気を私はもちあわせてはいない。だから、ただ黙って気まずい時間が通り過ぎることだけを考えて、黙々と食事を口に運んでいた。


 だから、こうして子供らしいアンナと朗らかな義母が家族に加わってくれたことは、私にとってもありがたいことだった。


 朝食を終えると、支度をして馬車に乗り込んだ。


 兄と義妹のほか、護衛としてジョンが同行してくれることになった。ジョンはお父様が飼っている猟犬の世話をするために雇われた若者で、ひそかに冒険者を目指して鍛錬しているらしい。街の事情にも詳しくて腕っぷしも立つということで、今日の護衛役に指名されたのだった。


 馬車に揺られながら満たされた気分でアンナの笑顔を眺めている私は、まさかこの『お散歩』がほぼトンボ帰りになるとは思ってもいなかったのだった。


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