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転生後の人生は思いのまま!・・・とはいかないようです  作者: Nana
第一章 病弱な伯爵令嬢
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01. 想像なのか、現実なのか

 丁寧に刈り込まれた木々と柔らかい黄緑色の芝生が織り成す庭園を眺めながら、セシリアは少年の言葉を思い出していた。


「おまえ、何が楽しんだ? 本を読んで想像するのが好きって、想像だけでいいのか? ほら、手を出してみろよ。一緒に行こうぜ!」


 そのときの私が手にしていた本の中に広がる世界は、鬱蒼と茂る森を探検し、小山ほどもある魔物を倒し、強い相手にもひるまずに挑む勇者様と仲間たちの冒険譚。


 小一時間ほども外を散歩すると疲れて発熱してしまう私は、自分でも呆れるほど身体が弱いというのに、何をどうしたら想像の世界を現実のものにできるというの?


 ため息交じりにそう言いかけた私は、屈託なく笑う少年の真っ白な歯を見て、言葉を飲み込んだ。


 年の頃は、私より1つか2つくらい上だろうか。


 ひょろりと長い手足と、彼が西方出身であることを示す赤銅色の髪と新緑色の瞳が印象的な少年の、その澄んだ瞳と口元の笑顔を見れば、なんの悪意もなく発せられた言葉だったことが分かる。


「そうね。現実のものになったら、きっと楽しいでしょうね」


 半分はお愛想のつもりで唇の両端を釣り上げてそう言うと、彼は嬉しそうに笑って私の手を引いて走り出した。


 いや、走り出そうとしたのだが……


 ほんの数十メートル走ったところで、私は息切れを起こして倒れてしまった。その後のことは、何も覚えていない。


 気が付いたら、いつもの見慣れた自室にいたのだった。おそらく同行していた兄が私を見つけて、この伯爵家まで連れてきてくれたのだろう。


 あの赤銅色の髪をした少年は、さぞ驚いたことだろう。

 急に倒れた私のことを気に病んでいないといいのだけれど、残念ながらどこの誰かすら分からない少年に連絡を取る術はない。


 窓の外に広がる青空のもと、思いっきり走り回ることができたなら、私も物語のような人生が送れるようになるだろうか。


 この心に重くのしかかる後悔を払拭できるような、新しい一歩を踏み出すことができるのだろうか。


 私には、前世の記憶がある。


 グレンフェル伯爵家の令嬢として何不自由なく暮らしている世界とは、何もかもが異なる世界での前世だ。


 いや、私が前世だと思っているだけで空想の世界なのかもしれない。そう思ってしまうくらい、私が覚えている世界とこの世界は違う。しかし空想だと決めつけてしまうには、あまりに生々しく鮮明に記憶が残っているのだ。


 私は、日本という国の首都で女子大に通っていた。


街路樹に植えられた満開の桜が目に眩しく映る(うらら)かな春の日曜日、3年間アルバイトを続けて貯めたお金で買った念願のバイクに乗って、仲間とツーリングに出かけた。


 バイク仲間と列をなして国道を走り出して間もなく、一陣の風が吹いたと思ったら、道の両側から花吹雪が舞いだした。


「きれい・・・」


 そう呟いて、一瞬目を取られた刹那、目の前の道路にどす黒く広がるものが見えた。


 あれは?と思った瞬間、バイクがその黒いものの上に滑り込み、それと同時にハンドルのコントロールが効かないことに気づいた。


 焦った私は、思わず右手のハンドルブレーキを握ったが、 その直後『ガシャン!』と聞きたくなかった金属音を耳にしながらバイクごと横転していた。


 目の前に広がるのは、横滑りしながら遠ざかり、路肩にぶつかって動きを止めた愛車の Vmax。咄嗟に周囲に目を走らせるが、見える範囲では他に横転しているバイクはない。


「良かった。他の人を巻き込んでないみたいね・・・」


そして、左頬から右頬に流れる生暖かい液体を感じながら、鋭いオイル臭が鼻をついた・・・私が覚えているのは、そこまでだ。


 これは推測でしかないが、私たちが通行する前に起きた交通事故の後処理が正しくされておらず、事故車から広範囲に漏れ出したガソリンがそのまま放置されていたのだろう。


 2つしか車輪がないバイクは、氷やオイルのように滑りやすものの上ではコントロールを失ってしまう。そういう場合は何もせず、そっとオイルの上を惰性で滑ってやり過ごすしかない。


 そんなことは頭で分かっていたのに、実際に見慣れないものを目にすると身体というものは思ったように反応しないようだ。フロントタイヤにブレーキがかかってしまったことにより、そのまま後輪が横滑りして横転したというわけだ。


 おそらく、あの時に私は死んだのだと思う。


 大学を卒業したら、遠距離恋愛になってしまった坂本先輩のいる大阪に就職しようと思っていたのに。


 そういえば、彼は困ったように「バイクは危ないから気を付けてね。できれば乗らないでほしいんだけど……」と言っていたのを思い出す。


 ごめんね、言うことを聞かないで。あのとき、あなたの言うことに素直に従っていたら、今も私はあなたの横で笑っていたかもしれないのに。


 鼻の奥にツンとした感覚が走り、このままだと泣いてしまいそう…… と思ったときに、侍女のメアリが申し訳なさそうに声を掛けてきた。


「お嬢様、新しい奥方様がお見えになりました。旦那様と応接間でお待ちです」



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