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君色カレンダー  作者: 三河安城
君の笑顔が見たくて
8/30

000:私の決意

 人生で初めて、告白されました。

 相手は、「いい人だな」と思う程度の、男性でした。


 知らない誰かのことを、ものすごく大切に想っていたのは事実で、それが彼でもないことはわかっていたのですが、誰であろうと告白されるのはうれしいものです。


 ある日、彼は突然私に頼みごとをしてきました。


神崎巫葉(かんざき みつは)さん。僕に、勉強を教えてくれませんか?』


 勉強自体は嫌いではありませんし、それなりにできると自負はしていますが、人に教えるとなると話は別です。頭の思考回路が人それぞれすぎますから。


『ええと、でも私は』

『もちろん、時間があれば、でいいんだけど』

『人に教えるとか、そういうのは』

『……そっかぁ。なら、いいんだ。ごめんね、無理言っちゃって』


 そんな顔をされてしまうと、心につっかかるものがあります。

 立ち去ろうとしていく彼の後ろ姿を、私は凝視してしまいました。

 最近、クラスのみんなが遠くなっていく気がしています。無視……をされているわけではないと思いますし、意図的に避けられているというわけでもないのですが。


 ただ、一つ越えられない壁を作られているような、感覚。

 だから、久々に声をかけてもらって、うれしかったことに変わりはないのです。


『待って。あ、あの。どうして、私なの?』


 ……ああ、重いなぁ。自分でもわかります。こういうことを聞く人に限ってロクな人間はいないし、ロクな結末は迎えられないですよね。


『ええと、気持ち悪く思わないでね?』

 なんだろう、その前置きは。

『授業受けているとき、すごく楽しそうだったから、かな。君に教えてもらえれば、少しは勉強も好きになれるかもって、そう思ったんだ』

 彼の笑顔は明るく、輝いて見えました。


 一目惚れ。きっとそれは、このことを言うのでしょう。


『……頑張る』

『え?』

『人に教えるとか、まだできないけれど、頑張って勉強するから、一緒に頑張ろう?』


 勇気を振り絞り、私は伝えます。彼ともう少し話をしていたい。

 それは、窮屈だった学校生活に降り注ぐ一つの光だったから。

 きっと、誰でもよかったのかもしれないです。それがたまたま君だったからなのかもしれない。


 それでも、私は。


『……ありがとう、ほんとにうれしい』

 笑顔……じゃない、照れ隠しですね。


 それが、彼との出会い。

 半年前の、とある日。


 あれから、私は一生懸命勉強しました。受験勉強ももちろんだけれど、人に教えるためには何が必要なのかということを、先生方から学びました。


『あれ、君教員志望だったっけ?』

 担任である弓子先生は、そんな風に言っていました。

『いえ、友達に勉強を教えてと頼まれまして』

『それだけだったら、ふつうここまでしないよ』

 彼女は、ふふっと笑ってみせます。

『なんで笑うんですか』

『最近、気合入ってるなぁと思ってさ。もしかして、彼氏?』

『いやいや、そんなんじゃ』

『そうかいそうかい。まあ、気楽にやりなよ』

『……教える人、教えられる人。そこで終わりですよ、きっと』

『そうか? お前みたいに可愛かったら、男は黙っちゃいないと思うけどな』

『……やめてください、そういうの』


 私は、彼と付き合いません。少なくとも受験が終わるまでは。


 楽しいこと、やりたいことが募り積もって山となり、それが心を強く押すけれど、今はそういうことをしている場合ではないのです。


 彼を志望校に合格させること。それが、絶対条件。


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