そして世界は振出しに戻る。
「そんなことも忘れていただなんて、教師失格だな」
「そんなことありませんよ、弓子先生」
「なあ、一つだけ訊いてもいいか?」
「なんですか?」
「もしかしてなんだけど、三浦霙のことが好きだったのか?」
「もしかしなくても、そうですよ」
「ってことは、お前は自ら不幸になることを選ぶのか」
「いえ、不幸だなんて。好きな人の幸せが、私の幸せですから」
「……まさかとは思うが、三浦の周りにそういう思想のやつが多いのって」
「まあ、抑止力になればという思いもありますけど、自分の思想を受け入れてくれたらなというのももちろんあります」
「井口東風のことはどう思ってるんだ?」
「好きですよ、恋しちゃってますし」
「……一度に二人も好きになっていいのかよ」
「弓子先生、そんな経験ありませんか? それに、好きにも二種類ありますし」
「井口を恋し、三浦を愛したってことか?」
「そうです」
「本当に悪魔じみているのって、お前だったのかもな」
「私は人生を——神生を謳歌したかっただけですから」
「そうかいそうかい。まあ、地獄のループを受けたんだ。わがまましてもいいだろうよ」
「まあ、これからまたループに入ってもいいかなとは思いますけどね」
「冗談はよしてくれよ。んで、どうするんだ?」
「互いに頭に刺すんです。脳死を狙いましょう」
「いや、そんな簡単に言うけどな」
「まあ、難しいとは思いますが、そうすれば脳は死にますけど体は死なないので、禁断の果実が出てくることもありません」
ただまあ、そんなことになればその後の世界は進みませんけどね。対応できなくなるわけですから。振出しに戻ってここまで来て、永遠に抜け出せないわけですが、先生は気づいていないようです。
いや、もしかして。
「……無茶なことを言う」
「まあ、安心してください。創造主が死んだら、全部吹き飛ぶわけですから」
「一か八かすぎるわ、ほんとに」
もしも、もしも願いが一つだけかなうのなら、一度だけ会ってみたい。
誰色にも染まっていない、あなたの姿を。
「行きましょうか」
二人のかんざしは槍の形となる。
「言い残したことはありますか?」
「……こんな世界を作っちまって、本当に悪かったな」
「先生が謝ることではないですよ」
「もっとうまく作れたらって、何度も思ったよ」
「作れるってだけで、心情までは操れませんからね」
「……よし、行こうか」
「はい」
もしも、願いをもう一つかなえてくれるのなら、一度だけ会ってみたい。
私色に染まった、あなたの姿を。