表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君色カレンダー  作者: 三河安城
粟生香奏の回想
14/30

000:命日

 前期中間考査を来週に控えた私——粟生香奏(あおう かなで)は、特にすることもない自習時間に、ノートをじいっと眺めていた。


 もちろん、やるべきことはやったし、やれることは全部試した。


 しかし、クラスのみんなは普段していないからなのかこの時間を喜び、死んだ目をしながら中間考査対策に取り組んでいる。意味がないというつもりもないけれど、追い込まれながらやるのって楽しくはなさそう、とは思ってしまう。

 私自身、今でこそ楽しくやっているけれど、昔は義務感を感じながらやっていたのでよくわかる。……義務感というか、恐怖感に近いかもしれない。


『これくらいやらなきゃ、追いつけない』


 そんな恐怖が駆け巡る小学校生活だったような気がする。

 そんなことはどうでもよく。

 窓の外を見たところで、そろそろ見飽きた。先生も完全に突っ伏してしまっているし。疲れているんだったら、来ないでほしい。


 天井を見上げて、ぼうっとする。


「……時々あるんだよな。放心状態というか、何も手に着かないタイミングというか」


 そういう時は、決まって何かの妄想をする。あるいは、想像をする。もしも、この学校にテロリストが現れたらとか、授業終わりに神崎先輩に会えたらとか、そういうことを考えるようにしている。


「テロリストが来たところで私、何もできないんだけどね」

「神崎先輩が来てくれたら、それだけで死ねる」


 そんな独り言も、集中を極めたクラスメイトには届かない。

 どうしてそんなことをするのかというと、何より楽しいからと言いたいところだが、何も考えずぼうっとしていると思い出してしまうからというのが何より大きい。


「……お姉ちゃん」


 脳裏に映るあの景色は、一生忘れることはないのだろう。

 ひたすら忘れようにも、視線をそらそうにも追いかけてくる悪魔は、私の心を深くむしばもうとする。忘れたい、忘れたい。いなかったことにしたい。


 ほら、こうやっていつも苛まれるのだ。


「無限ループは、もういや」


 無かったことにしたい。いなかったことに、してしまいたい。

 ……。いいや、今日は違う。今までは、そうやってごまかしてきたけれど、今日ばかりはそう言っていられない。もう3年目になるのだ、いい加減私も向き合わなきゃいけない。


 ちゃんと向き合わなきゃ。


「今日は、そういう日にしよう」


 6月12日。姉である粟生香楓(あおう かえで)の命日だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ