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君色カレンダー  作者: 三河安城
三ツ森青嵐の実況中継
11/30

001:体育祭当日

 ここからは、僕こと三ツ森青嵐が、彼女たちの動向について説明していきたいと思います。というのも、僕は体育祭練習中に思いっきり足をくじき、出場を辞退せざるを得なかったわけですが、学校に行かなければ欠席扱いになってしまうので、仕方なく救護室待機となっているためです。


 理由になっていないって?

 後々わかります。


「……本当にこの人たちは」


 救護室から体育祭の状況がわかるのですが、その様子というか、主に二人からの熱い実況がうるさく……もとい賑やかで、だから十分に説明できるという次第なのです。


「まただ」


 始まってまだ数分しか経っていないのに、二人からのメッセージはなかなか途絶えません。

 まずは、先輩から。


『巫葉さんがこっち向いた! 超かわいい!』

「はいはい、そうですか」

『お前、まだわかってないだろ、あの子の可愛さが』

「理解はしてますよ、先輩のリアクションに呆れているだけで」

『呆れるなよ』

「まあ、いいんじゃないですか」


 そして、お次はみーさん。


『東風兄が全然こっち見てくれない』

「アピールしなきゃわかんないんじゃないですか?」

『してるもん。なのに、巫葉さんばっかり』

「しょうがないですね。僕から言いましょうか?」

『それは絶対ダメ。偶然じゃないと、いけないから』

「……そう、なんですか? なら言いませんけど」

『でもやっぱり見てくれないと』

「何なんですか、まったく」


 そんなことが小一時間続き、ようやく井口先輩の出番が回ってきたようです。


「頑張ってください」

『めっちゃかっこいいところ見せてくるわ』

 かっこいい絵文字ってそんなにないんだなぁとふと思いました。

『次! 東風兄の番!』

「はいはい、わかってますよー」

『超かっこいい!』

 よかったですね、先輩。

「よかったよかった」

 と、その時。


「あ、ここにいたんですか、三ツ森先輩」

 久しぶりの声に、僕は心底驚き、ついつい携帯を床に落としてしまいました。


「香奏ちゃん、久しぶり。いつぶりだっけ?」

「家庭教師の三浦先生を紹介してくれた時以来なんで、半年ぶりくらいですかね」

「なるほどなるほど。それで、どうかしたの? ってか、鼻血?」

「……あの、お恥ずかしい話なんですけど」

「今日は聞き手に回る日だから、何でも言って」

「巫葉、先輩の、体育着姿が、そのえっちで」

「……それで、鼻血を?」

「すみません」

「いや謝られても。本当に好きだよね、神崎先輩のこと」

「……好き、というか憧れ、なんですよね」

「憧れ、ねえ。確かに女性にもモテそう」


 少しの間が空きます。彼女はとことことこ、と歩いてきて僕の目の前に座りました。携帯をいじろうとする僕の瞳を、のぞき込むように見つめてくるので、気になって仕方がない。


「どうしたの?」

 すると、彼女はためらいながらも、意を決したのかぎこちなく尋ねてきました。


「……あの、今巫葉先輩って好きな人とか、いるんでしょうか」

「……訊いてどうすんの? なにかするわけでもないんでしょう?」

「そ、そうですけど。でも、いたら気にならなくなるかなって」

「嘘つけ。彼女を追いかけてこの学校に入学したくせに」

「笑わないでくださいよ」

「……そうだな。好きなのかな、きっと」

「い、いるんですか?」

「いないこともない、って感じなのかな。でもその辺結構複雑でさ」


 言うべきか言わないべきか。迷いに迷った結果、名前は言わないことにしました。プライバシーだからというのもあるけれど、僕は当事者じゃないから、べらべらとおしゃべりしていいわけがないからです。


「……そう、なんですね」

 刹那。ぴこんと携帯が鳴りました。

『……巫葉さんって、やっぱりきれいだなぁ』

「何をいまさら……って、へ?」


 送りかけたメッセージをあわてて消して、見返します。これは井口先輩じゃない、みーさんだ。

 ……え、みーさん?


「どうしたんですか? 三ツ森先輩ですか?」

「い、いや何でもない」

 ま、まあこれはきっとあれだろう。敵にもあっぱれだという感じのあれなのだろう。

『……東風兄が好きになるのも、納得しちゃうなぁ』


 なんですかその余韻は。負けを認めたんですか? こないだの威勢はなんだったんですか? あの後、ゴールデンウィークの時にめっちゃ遊んだって嬉々として2時間も話していたのはどこのどいつですか?


「ま、まあ確かにそうだよね」


 そうとしか送れなかったです。

 まさか、いやいや。


「あ、そうだ。ついでなんですけど」

「素で次いで扱いするな。本当に君は」

「三ツ森先輩は、好きな人とかいないんですか?」

「僕は……」


 そういえば、いろんな人の恋愛相談を聞いてきたけれど、自分自身誰かに恋をするとか、そういうことは一切考えたこともありませんでした。

 それは決して女性陣が理想に合わないとか、そういうことではなく、単に理想がなかったんだと思います。


「いないよ。そもそも、相談じゃなくて、聞き手だったしね」

「……? そうなんですか」

 彼女は、少し残念そうにため息をつきます。

「先輩も、良い恋できるといいですね」


 根がまじめなだけに、この子は本当にあざとい。……人にあざといと思うということは、好き嫌いの感情自体はあるのだろうか?


 でも、恋愛までには至らない、ということなのでしょうか。

 自分でもわからない。まあ、いいか。


「当分はいいかな」


 僕の変な予感というのは、実は結構当たります。

 だからきっと、これも本当のことになるのでしょう。そうなると、あっとびっくり形勢逆転です。井口先輩、これは逃しましたね。


 ラブコメの主人公の座が、奪われた瞬間を垣間見た気がします。


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