戦いの美学
激情に身を任せ、啖呵を切った俺だが、頭の中はいたって冷静だった。そう、デキる男は、トラブルなんてものともしない。いつだってクールに仕事をこなすのだ。ふうぅ、落ち着け俺。森に近いここで戦うと、いつ第二の魔王が出てくるか分かったもんじゃない。一匹だって倒せるか怪しいのに、無理に決まってる。
「おらぁ!かかってこい!!このおブスめ」と口で言いながら、ライト草の入った袋と剣を手にし、ゴブリンを軸に円を描くように街の方にじわじわと移動する。ちょうど背後に街が来る位置についたら、今度はゆっくりと後退する。
ゴブリンは相変わらずニタニタと笑いながら徐々に距離を詰めてくる。走り寄られたらどうしようとも考えたが、まぁ短足のゴブリンより俺のほうが速いだろたぶん。一定の距離を保ちつつ、時には拾った石を投げてくる姑息なゴブリンの攻撃を回避しながら、デライト平原とヴィカを結ぶ街道近くまで来た。決めた、ここでやつを倒す。
覚悟を決めて、腰に下げた草の入った袋を下ろし、身軽になる。それっぽく剣を構え、すり足でゴブリンとの間合いを詰めていく。
「覚悟はいいか、ゴブリンよ!ここで貴様は終わりだ。おとなしく巣で、ゴブリン雌といちゃついておくべきだったな、雌がいるか知らんが」
「グキャ?」
…こいつは多分人語が理解できてないな、おばかさんめ。だが、ある程度知性がある生きものであれば、俺の策にもきっと引っかかるはずだ。ここだ!!
ゴブリンの斜め後ろに視線を移し、表情を笑顔に変えて叫ぶ。
「た、助かった!!」
たったこれだけで、言っていることは理解できてなくとも、相手の視線の先を見ずにはいられない。
つい、後ろを振り向いて見てしまう。
この技はスラムでも大いに役に立った。このゴブリンも抗うことはできなかったか。うむ、視線盗みと名付けよう。俺はにやりと笑う。そうゴブリンのように悪人顔で。
「ちゃあーんす」
呟きながら、ダッシュで距離を詰めて剣を構える。突くことも考えたが、素人の俺には上手くいくように思えなかったので、外してもダメージの大きそうな首目掛けて横薙ぎを選択する。これなら腐っても鉄の塊、当たりさえすれば大ダメージでしょう。
右から左にかけて繰り出した横薙ぎは、驚いたゴブリンが振り向きかけはしたものの、無事に首にヒットし、ザシュっとした音とともに刃が半分ほど埋まって停止した。
「げぴゃ」という断末魔とともに血を吐いたゴブリン。一瞬筋肉が硬直したの後、だらんとこと切れて地面に倒れる。
「…やったか。ダメだよ、余所見は。戦いでも恋愛でも、ね」
つんつんして死亡を確かめたあと、どや顔でかっこ悪いセリフを決める。
そしてロイの脳内に、天からの声が響く。
『レベルアップを確認。ジョブの発現を確認。称号を取得。』