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理性と本能の轍  作者: みまり
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 だから、『悪魔姫ルミルカ』の動画を見たのは本当に偶然だった。


 金曜日の夜、ネットの検索サイトの注目ワードに『悪魔姫ルミルカ』があるのを見つけ、陽菜が言ってたのはこれかと、何気なクリックしたのが発端だ。

 最初に目にしたのが、歌って踊る動画だったのも良くなかったと思う。


 へえ、けっこう綺麗に作ってるんだ、キャラも可愛いし……そんな風に見始めて、私は瞬く間に『悪魔姫ルミルカ』に魅了されていた。


 いや、『ルミルカ』信者となったのだ。


 動画の内容は神殿風の大広間の中、紋章入り(後で知ったがルミルカの紋章)の垂れ幕の前でCGのルミルカが歌って踊るだけのものだけだったのだけど、その魅惑的なパフォーマンスに私は虜となってしまったのだ。気が付けば、チャンネル登録し(信者の間では『ルミルカ教』に入信すること)、何回もリピート再生を繰り返していた。

 関連するゲーム実況や『やってみた』系の動画も時間がある限り網羅した。中でも『歌ってみた』系のオリジナル楽曲にはドハマリしてヘビロテするほどだ。

 特に『地獄めぐり』という楽曲は再生回数も半端無い人気曲であったが、『理性のくびきから逃れ、本能を解き放て!』というフレーズに私は共感した。


 土日の2日間で、私は陽菜を笑えない熱狂的な信者と成り果てていた。今なら陽菜の変化の理由がわかる気がする。

「迷ったら前へ進め」「後ろを振り返るな」そう歌い叫ぶ『ルミルカ』のメッセージは単純で前向きだ。

 『ルミルカ』の教えは、『人は原罪を抱えているので、全員皆等しく地獄に落ちる。だから現世で何をやっても、たいして変わりない』というものであり、失敗しても嫌われても死後には関係ないと言い切っている。つまり、『どうせ地獄に落ちるなら、迷わず自分の生きたいように生きる』というのが教義の本質と言って良かった。

 チャンネル登録数の急激な伸びを見ても、その教えが若い世代に受け入れられたのは明白だった。



「陽菜、ありがとう!」


 月曜の朝、私は陽菜に会った早々、お礼を言った。


「へ? どうしたの悠衣ちゃん」


 突然のお礼に目を丸くしている陽菜に、私はスマホの待ち受け画面を見せる。


「『ルミルカ』の紋章……」


 そう、ルミルカ信者の間の共通のおきてとして、スマホの待ち受け画面を『ルミルカ』の紋章にすることを義務付けていた。

 これなら、スマホを見れば信者かどうか、すぐに見分けがつく。


「悠衣ちゃん……もしかして入信したの?」


「うん、陽菜のおかげでね」


「やったあ!これからは同じ信者として布教していこうね」


 輝くような陽菜の笑顔に、私は今までの自分の感情が急に恥ずかしくなった。


「陽菜、私ね。陽菜に謝らなきゃいけないことがあるんだ」


「悠衣ちゃんが、私に謝らなきゃならないこと?」


「うん。ごめんね、陽菜。私ね、ずっと陽菜のこと心の底で馬鹿にしてたんだ」


「うん、知ってた」


 陽菜の返答に私が驚くと、陽菜は笑顔のまま答えた。


「でも、そんなの、もうどうでもいいよ。悠衣ちゃん、入信して生まれ変わったんでしょ」


「許してくれるの?」


「もちろんだよ」


「あ、ありがとう……あの、陽菜。陽菜も私のこと、悠衣って呼んでくれる?」


「……うん、これからもよろしくね、悠衣」


 それからの私と陽菜は『悪魔姫ルミルカ』を通じて、とても仲良くなった。学校では例の派手系女子達に正直に意見して、いじめの対象になりかけたこともあったが、他の信者達との結束もあり事なきを得た。むしろ、彼女達の方がクラスで居心地が悪くなったぐらいだ。

 実際、公私とも順調で『悪魔姫ルミルカ』に感謝の祈りを捧げずには居られない毎日と言って良かった。


 今日も陽菜や他の信者と一緒に『悪魔姫ルミルカ』生誕記念祭のライブ会場に訪れていた。ステージの大型スクリーンに『ルミルカ』が立体映像で映し出される仕掛けで、普通のライブイベントと遜色ない仕上がりになっている。


「ねえ、陽菜」


「なあに、悠衣?」


 すでに興奮気味の陽菜が私に振り返る。


「前から気になってたんだけど、動画を配信している『三休法師』って何者なの?」


 大体、『ルミルカ』のビジュアルって西洋悪魔なのに、その配信者名が仏教系っていうのは、どういうミスマッチなの? と常々感じていた。

 名前だって、一休禅師と三蔵法師の掛け合わせ(だろうという信者の間の推測)は決してセンスがいいとは言い難い。


「さあ、発表当初はIТ技術者と声優の卵が組んで作ってるんじゃないかって騒がれてたけど、正体は謎だよ」


「どこかの企業が関わってるのかな?」


「どうだろう……今のイベント規模を考えたら企業が噛んでると思うけど、私としては本当に地獄から配信してるって信じたいところかな」


「陽菜、純真ぴゅあだね~。愛いヤツめ」


 私が抱きしめると、顔を赤くして抵抗する。


「悠衣、悠衣!そろそろ始まるから!」


 照明が暗転して、客席は暗くなりステージが明るくなった。

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